分娩後初回発情における種付けの生産性

サラブレッドの繁殖の特徴
 季節繁殖動物であり経済動物でもあるサラブレッドの繁殖シーズンは、北半球では概ね2月から6月となります。その間、排卵は21日間隔で起こります。妊娠期間は約340日で、11ヶ月以上にも及びます。そのため、1年1産を継続させるためには、分娩後、速やかに種付けを行い妊娠させる必要があるのです。一方、分娩後の子宮は驚異的なスピードで回復し、通常、健康な牝馬では分娩後10日前後で初回発情が回帰して、初回排卵が認められ、種付けが可能となります。そのため、国内のサラブレッドの生産においては、この「分娩後初回発情」における種付けが主に行われているのが現状です(図1)。

 
(図1) 国内における過去12年間(延98,203頭)の分娩後初回種付け日の分布
分娩後20日までに種付けした繁殖牝馬は71,387頭(73%)、分娩後21〜40日に種付けした繁殖牝馬は20,899頭(21%)であった。さらに、分娩後8〜11日に種付けを行った牝馬を初回発情(FH)群、分娩後27〜33日に種付けを行った牝馬を初回発情スキップ(FH-skip)群として、生産率の違いを調べた。

分娩後初回発情における種付けのメリットとデメリット
 分娩後初回発情における種付けのメリットとしては、(1)種付け時期の早期化(1年1産が達成できる可能性)、(2)早生まれの子馬を生産できる(セリでの高額取引が見込んで)、(3)交配時期の特定が容易になる(交配計画、人気種牡馬の予約)、などが考えられます。一方、デメリットとしては、(1)子宮の回復が完全ではない状態での種付け(受胎率への影響)、(2)受胎確認後の早期胚死滅が起こる確率が高い、(3)生後僅かな子馬を種馬場へ連れて行かなくてはならない(ストレス増加、疾患罹患のリスク)(図2)、などが考えられますが、それらが実際の生産性に及ぼす影響については調べられていませんでした。

 
(図2) 種馬場での発情検査の様子
生後間もない子馬も馬運車で輸送されて来る。

生産性に及ぼす影響
 そこで、分娩後の初回発情における種付けが生産性に及ぼす影響を調べるために、分娩後8〜11日に種付けした牝馬を初回発情(FH)群、分娩後27〜33日に種付けした牝馬を初回発情スキップ(FH-skip)群として、過去12年間の国内における全サラブレッド繁殖牝馬における生産率(産子数/交配牝馬数)と早期胚死滅発生率(初回交配後35日以降に再交配を行った牝馬の割合)について統計解析を行ってみました(図1)。 その結果、生産率は分娩後初回発情で種付けを行うと(FH群)38.2%となり、2回目の発情で種付けを行うと(FH-skip群)51.0%となることから、初回発情における種付けは生産性が悪いことが明らかになりました(図3)。また、早期胚死滅発生率は、FH群で11.7%とFH-skip群の7.1%と比較して有意に高くなることが明らかになりました(図4)。さらに、早期胚死滅発生率は年齢とともに上昇し、FH群ではその割合がより高くなることが明らかになりました。

 
(図3)生産率の比較[分娩後初回発情交配(FH群)vs 2回目発情交配(FH-skip群)] FH群の生産率は悪い。

 
(図4)早期胚死滅発生率の比較[分娩後初回発情交配(FH群)vs 2回目発情交配(FH-skip群)]FH群の早期胚死滅発生率は高い(左)。また、年齢が高くなるほど早期胚死滅発生率はFH群で高くなる(右)。

最後に
 サラブレッドの生産の現場では、種牡馬の予約状況や残された繁殖シーズンの日程などから、分娩後の初回発情における種付けが選択されることも多いのが現状です。今回、統計学的な解析を行うことで、初回発情における種付けの生産性の悪さが明らかになりました。また、分娩による子宮の損傷や感染などから、子宮の回復は高齢馬になるほど悪くなることが推察されます。初回発情と2回目の発情のどちらで種付けを行うかは、繁殖牝馬の年齢と併せて子宮の回復具合をエコー検査により十分精査した上で判断した方が良さそうです。
 一方、FH-skip群の生産率を見ても、まだ51%しかないことから(図3)、生産性を向上させるためには分娩後初回発情における種付けを見送るだけでは十分ではありません。普段からの繁殖牝馬の飼養管理の重要性に加えて、分娩後の栄養状態の適切な維持方法、ライトコントロールによる人為的なホルモン分泌の促進、自然分娩を心掛けることによる子宮や外陰部の損傷防止、排卵促進剤や発情誘起法の有効活用、早期胚死滅や早流産の対策なども重要な項目となります。また、信頼できる獣医師に相談したり、講習会や勉強会に参加したり、新しい生産技術を取り入れていくことも生産性向上に繋がるものと思われます。

(文責:日高育成牧場 生産育成研究室研究役 佐藤文夫)
(馬事通信 2013.2.1号 掲載)


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