当歳馬の蹄管理について

 健全な蹄の発育を当歳馬の時から維持することは、「強い馬づくり」の技術として、そして安定した競走馬生産を行うための重要な要素です。将来の充実した競走馬生活を実現するため、生産地の装蹄師は当歳馬特有の蹄の成長に対応した定期的な削蹄を行うとともに、異常肢勢の改善が期待できる矯正装蹄や海外の新しい技術の導入なども積極的に行っています。そこで今回は、装蹄師の視点からの当歳馬の蹄管理について紹介します。

当歳馬削蹄の基本概念
 基本的に当歳馬の削蹄は、何らかの異常などが無い限り生後1ヶ月を過ぎた頃に、初めての削蹄を行います。生まれた直後の馬の蹄は、内外が対称でバランスの整った蹄を持っています。しかし、ほとんどの馬が肩幅よりも広い駐立肢勢をとるため、不均等な負重による蹄の変形や異常な磨耗が発生します。さらに、成馬に比べて約1.5倍も速く蹄が伸びるため、蹄壁の歪曲による骨端への不均等なストレスが発生しやすくなります。そこで、定期的な削蹄を行って崩れた蹄のバランスを取り戻すことが重要です。また当歳馬は、主に蹄の長さと横方向への拡張の2方向に蹄が成長するため、蹄を広げるとともに蹄踵を後方に下げるような削蹄を施します。なぜなら、蹄踵が前方へと巻き込んでしまう弱踵蹄と、将来的には屈腱炎になりやすい蹄形である「アンダーランヒール」へと変形する可能性が生じるからです。

前方から見る肢軸異常
 出生直後から真っ直ぐな肢軸を保ちながら駐立する馬は皆無で、少なからず外方や内方に肢軸が破折しています。そのことは、肢軸に対する不均等な負荷になると考えられます。しかし、実際には多くの肢軸破折が人為的処置を施さなくても、馬体の成長に伴い改善されていきます。これには、長骨の縦方向の成長を司る骨端板が強く関わっていると考えられます。軟骨により形成される骨端板は、負重による圧力に対し2通りの反応を示します。1つは、圧力という刺激により軟骨の産生速度を上げること、もう1つが、大きすぎる圧力により軟骨産生が滞り、成長が止まるといった反応です。つまり、腕関節が外反するような肢の場合は、橈骨(とうこつ)遠位(えんい:体の中心から遠い部分)にある骨端板の外側へ強い圧力が加わるため、内側よりも外側の成長が速まることで肢軸が改善されるという仕組みです。では、全ての肢軸破折が放置していても改善されるのかと言うと、必ずしもそうではありません。極端な肢軸破折を呈して生まれた馬や過剰な運動により多大な負荷を肢蹄が受けた場合、骨端板への外傷や感染があった場合などの様々な要因が重なることで、肢軸破折が改善されないことがあります。重度の肢軸破折には外科的処置という手段もありますが、その判断は獣医師・装蹄師両者の意見を参考にすると良いでしょう。もし、外科的治療ではなく装蹄療法を選択する場合、装蹄師は骨端板にかかる圧力の均等化を目的とした削蹄を主に行いますが、矯正削蹄ができないほど蹄壁の伸びが不良な場合や削蹄だけでは矯正が不十分と判断した場合、カフ型接着蹄鉄やタブ型接着蹄鉄、蹄壁補修材などを用いた側方への張り出し処置(エクステンション)の適用を検討します。しかし、カフ型やタブ型の接着蹄鉄は蹄鞘の発育を阻害する可能性が高いため、その使用には細心の注意が必要です。一方、蹄壁補修材を用いた張り出し処置(写真1)は、蹄鞘への負担が少なく、装着後の加工が容易で低コストです。ただし、安定した接着力を得るには長時間の挙肢が必要なため、獣医師による鎮静処置を行う場合があります。

側方から見る肢軸異常
 屈腱性の肢軸破折は馬の側望から観察できる肢軸異常で、その中でも、浮尖(ふせん)、浮踵(ふしょう)、起繋(きけい・たちつなぎ)などは出生直後の馬によく見られます(写真2)。浮尖は、屈腱の弛緩などにより蹄尖が浮き上がる症状で、成長が遅い馬や繋部の傾斜が緩い馬の後肢によく見られます。軽度なものは、通常の放牧によって筋力や腱が強化されることで改善しますが、蹄球が接地するほど弛緩している症例では、蹄球を保護するために後方への張り出し部を設けた蹄鉄の装着などが必要です。一方、起繋や浮踵は浮尖と異なり、主に屈腱の拘縮が原因で起こると考えられています。屈腱拘縮が生後早期に認められた場合は、獣医師によるオキシテトラサイクリン(抗生剤の一種)の大量投与が有効です。これは、カルシウム緩衝作用による筋の弛緩効果を利用し、屈腱筋に繋がる屈腱の緊張を緩和するものです。ただし、前肢が起繋で後肢が浮尖を呈する馬の場合、前肢の趾軸は改善されますが後肢の屈腱が過剰に弛緩してしまうので注意が必要です。また、軽度な起繋の場合では、段階的な蹄踵の削切を行います。蹄踵削切後に蹄踵が接地しているか、また歩様の違和感の有無を確認しながら繋部の前方破折を改善します。蹄踵がまったく接地しない極端な症例や、生後3ヶ月以降も趾軸が起きてくるような後天性の異常には、屈腱の緊張を緩和するような処置が必要です。そのような症例の蹄は、蹄尖部が負重の偏りによって磨耗し、蹄踵部は負重による圧力が少ないため過剰に成長します。よって、蹄尖部を保護しつつ、蹄踵部を削切しても屈腱の緊張が高まらないような、くさび状の蹄鉄を装着することが有効になるでしょう。また、装蹄療法と同時に、飼料の減量や変更、運動制限などの、保護的処置による屈腱の拘縮を緩和してから、次の治療を行うと良いでしょう。しかし、それら処置に全く反応を示さない症例には、遠位支持靭帯の切断術を検討します。生後10ヶ月齢以前の馬には大変有効な手術で、矯正装蹄を併せて行うことにより著しい趾軸の回復が期待できるでしょう。
 当歳馬の蹄管理には、毎日の手入れや収放牧時の歩様の確認など、日常のちょっとした観察が重要です。適切な知識による飼養管理と、異常の早期発見・早期改善を行うことで、サラブレッドの持つ走能力を十分発揮出来るようになることでしょう。

(文責:日高育成牧場 業務課 大塚 尚人)
(馬事通信 2013.6.1号 掲載)


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