繁殖牝馬の護蹄管理

 馬の跛行の70%以上は蹄が原因であるといわれています。繁殖牝馬においても蹄の管理は健康維持と子馬の正常な発育確保の観点から非常に重要となります。本稿では、繁殖牝馬の護蹄に関する基本について紹介します。

蹄管理の重要性
 蹄の伸びは1ヶ月で約1cmであり、健全な成馬であれば約1年で蹄全体が更新されます。しかし、蹄は体重を支えるために地面と接したり、歩行や運動するために地面を蹴ったりすることで常に磨耗します。そのため、蹄の伸びが磨耗より大きければ蹄が伸びた分をそのまま削切することで健常な状態にできますが、磨耗が激しければ蹄鉄を装着して保護しなければなりません。削蹄を行わずに放っておくと蹄が伸びすぎて歩きにくくなるため、繁殖牝馬では放牧地での運動量が阻害され、それにともなって子馬の運動量も不足します。したがって、健康状態維持と子馬の正常な発育ためには、繁殖牝馬においても定期的な削蹄は必要です。また、蹄は水分やアルカリに弱い性質があるため、過剰な水分や糞尿は蹄角質を脆くしてしまいます。脆くなった蹄は、細菌などに侵食されやすく、蹄の変形を招く原因となります。

繁殖牝馬と競走馬、乗用馬の削蹄の違い
 繁殖牝馬は競走馬や乗用馬のように人が乗ることはありませんし、速く走ることや障害飛越等を行うこともありません。従って、蹄の磨耗に関しては競走馬や乗用馬よりも少なくなります。一方で、繁殖牝馬は体重が競走馬より重く放牧地での運動により磨耗が進むことに加え、出産を繰り返すことによる蹄への荷重変化が大きいため蹄の変形(しゃくれ状態となる凹湾(おうわん)や二枚蹄、裂蹄(れってい)など)が発生しやすいので、削蹄についての考え方も少し違ってきます。競走馬や乗用馬では運動による蹄の磨耗対策として蹄鉄を装着しますが、繁殖牝馬では放牧地の状態や放牧時間に左右される磨耗の程度を判断しながら変形を矯正する削蹄が必要となります。

繁殖牝馬への装蹄−メリットとデメリット−
 一般に蹄鉄を装着するメリットとしては、大きく3つの理由があります。
 @ 過剰な摩滅から蹄を保護する
 A グリップ力を高める
 B 装蹄療法に用いる
 これらのうち、繁殖牝馬においては蹄の変形やそれに起因する蹄葉炎に対処するための「B装蹄療法」が最も大きな目的となります。
 一方、蹄鉄を装着することで考えられるデメリットとしては、
 @ 放牧地での他馬への影響
 A 落鉄時の対応困難(放牧地での蹄鉄の捜索や再装着の対応等)
 B 蹄鉄の装着状況の確認や対処に技術が必要
 C 蹄底に雪が詰まり「下駄を履いた」状態となることがある(捻挫等の心配)
 D 経済的負担 などがあげられます。このように蹄鉄を装着するメリットとデメリットをトータルで考えあわせると、一般的には跣蹄(はだし)のほうが管理しやすいといえます。

蹄鉄を装着した方がよい場合
 一方、蹄病ならびに蹄の極端な磨耗や変形(削蹄だけでは改善できない場合や極端な鑢削をした場合)がある場合には蹄鉄を装着して改善を図ったほうがよい場合があります。とくに、蹄底が薄く挫跖(肉底に発症する内出血)を繰り返しやすい蹄や、白線裂や裂蹄などの蹄病を発症している蹄においては、蹄鉄を装着することが非常に有効であると考えられます。また、凹湾した蹄を矯正するために蹄壁を極端に鑢削してしまったことで負重に耐えられなくなった場合では、キャスト(ギプス)による装蹄(図1)も有効となります。これは、鑢削によって薄くなった蹄壁の代わりにキャストに釘付けを行う方法です。

 
 図1 キャストによる装蹄
  蹄壁の代わりにキャストに釘付けする方法

 
 図2 JBBA削蹄講習会
  今年は1月15日にJRA日高育成牧場で開催され、
  生産牧場から11名の参加者が受講した。

最後に
 削蹄は蹄の角質を削切するためだけのものではありません。蹄の健康診断も兼ねており、蹄病や変形を早期に発見し対応することで悪化を防ぐことができます。従って、月に1度は装蹄師に削蹄を依頼し、蹄の状況を把握しておくことはとても大切なことであると言えます。また、軽度な蹄壁の欠損などは早期に発見すればご自分で処置することもでき、悪化を防ぐことができます。
 JBBA主催の生産者向けの削蹄講習会が年に1回開催されています(図2)ので、牧場の皆様も実際に削蹄を体験してみてはいかがですか?

(文責: 日高育成牧場 専門役 下村 英次)
(馬事通信 2014.3.15号 掲載)


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