競走馬にもベストドレッサー賞

 「ベストドレッサー賞」、人の世界では良く耳にする言葉です。これと似た賞が平成25年、第80回を迎えた競馬の祭典、日本ダービーにおいて創設され、約14万人が集まった競馬場のパッドックにおける小さなイベントとして注目を集めました。ネーミングはドレッサーではなく、「ベストターンドアウト賞:Best Turned Out Award」、ターンドアウトとは「登場」するといった意味です。つまり競馬を前にしたパレードの場で、最も「素敵」と感じることのできる引き馬を披露した人馬を讃える賞なのです。

 審査の着眼点は、「馬が良く躾けられ、美しく手入れされ、かつ人馬の一体感を感じさせるパレードができているか」を骨子としており、(1)基本的な馬の扱い、(2)人馬の美観、(3)人馬の絆の3項目から評価されます。服が似合うという見かけばかりでなく、しっかり躾がなされているかという馬の内面も含めて評価される点が人とは少し異なるかもしれません。

 以前、こういった賞が当たり前のように実施されているヨーロッパのホースマンが、日本のパドック(パレードリング)の光景を見て言ったそうです。「日本の競馬は、馬券の売り上げ世界一、施設も本当にすばらしい、日本馬の海外競馬でのパフォーマンスもすでにトップレベルだ。しかし残念ながら、ここ(パドック)は工事現場だね」と。二人の担当者によって力ずくで抑えられ口を割った馬、ぼさぼさで無造作に切られたタテガミ、作業着のような担当者の服装、汚れた靴、無造作にかぶられたヘルメット、だらしなく肩に掛けられた引き綱などを見て発せられた言葉でした。「強い馬づくり」に邁進してきた日本にとって、残念ながらパドックは単に予想のために馬を見せる場所との認識であり、これまでに無い切り口からのコメントにハッとさせられたものです。

 しかし、今では見ていただくという披露の姿勢が関係者にも浸透してきており、馬をしっかり手入れし、自らもスーツとネクタイに身を包んで颯爽と馬を引く、まさにパレードの名にふさわしい人馬がパドックで多く見られるようになって来ています。そういった厩舎や馬の担当者の姿勢や努力を讃えるのがこの賞の趣旨であり、同時に競馬を楽しむ皆さんにもこの取り組みを通して、競馬の勝敗とは別の競馬の奥深さと高級感を味わっていただきたいものです。
 派手なイベントではありません。パドックにおいて当たり前のようにワンランク上のパレードが提供できること、同時にそのすばらしさを味わい評価いただける馬主やファンが存在すること、これが競馬先進国といわれる国々と本当の意味で日本が肩を並べたといえる最後のキーポイントなのではないでしょうか。

 ベストターンドアウト賞は、パドックで実際の人馬を見ることでしか評価できません。できるだけ多くの皆さんに競馬場に足を運んでいただき、「工事現場」ではなくなった「素敵な」パドックで自分なりのベストターンドアウト賞優勝馬を選んでみられてはいかがでしょうか。違った競馬が見えてくるかもしれません。

(坂本 浩治)

 
 記念すべき第80回日本ダービーでJRA初のベストターンドアウト賞を
受賞した青野泰允さんとレッドレイブン号(美浦・藤澤和雄厩舎)



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