浅屈腱炎の新しい診断方法である超音波エラストグラフィについて


 浅屈腱炎は、競走馬にとっては職業病ともいえる疾病です。管部の後側にある腱が炎症を起こす病気であり、その損傷部分が腫れることによってエビの腹のように見えるために、俗にエビハラあるいはエビとも言われます。今回は、この浅屈腱炎の新しい診断方法について紹介します。
 浅屈腱炎の診断には、エコーと呼ばれる超音波診断装置を使用しています。従来の方法では、正常な腱組織を白色として画面に映し出されます。その一方、損傷部分は浅屈腱炎を発症したときの出血があるために、黒色で映し出されます。つまり、正常部分と損傷部分で映し出される色がはっきりと違うために、損傷部の状態を正確に把握することができます。また、損傷部分の治療が進むと組織内部の出血が減るため、黒色で映し出される部分が減ってきます。浅屈腱炎の治療に携わる獣医師は、この黒色で写し出される部分の減少を目安にして、馬の治癒状態を診察しています。(屈腱炎や従来のエコー方法に関して詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。⇒ http://www.equinst.go.jp/JP/kenkyuu/seika/seika-kukkenen.html )  
 最近になって、新しい診断技術が開発されました。その名前は、超音波エラストグラフィ。名前のとおり、従来の方法と同じく、超音波診断装置を使用します。この超音波エラストグラフィは組織内部の硬さをカラー色で表現する技術です。ガンの診断で役立つことが報告されており、人間の病院でも利用されています。「硬さをカラー色で表現する」というと難しく聞こえますが、解釈はいたって簡単です。赤色は軟らかく、青色は硬い。では、その中間は?というと、中間の色である黄色や緑色です。つまり、赤色が最も軟らかく、次が黄色、その次が緑色、そして最も硬いのが青色ということです。超音波エラストグラフィを使用することで、これまでは誰にも分からなかった組織内部の硬さを簡単に検査することができるようになったのです。
 今回、私たちは新しい診断方法である超音波エラストグラフィを競走馬の浅屈腱炎の診断に応用することを考えました。浅屈腱炎を発症した直後の治療初期の競走馬、治療がある程度進んだ治療中期の競走馬、そして、治療がほとんど終わりかけの治療後期の競走馬、この3頭の浅屈腱炎の硬さを調べました。その結果は、下の写真のとおりです。治療初期の浅屈腱は左側です。従来のエコー方法では、黄色の矢印で指し示している損傷部分が黒色に映し出されています。そして、超音波エラストグラフィでは、その損傷部分に一致するように、軟らかいことを示す赤色や黄色が映し出されています。治療中期の浅屈腱は中央です。従来のエコー方法では、損傷部分にあった出血が既になくなったために、白色で映し出されています。しかし、超音波エラストグラフでは、損傷部分が、やや軟らかい状態であることを示す黄色で映し出されています。まだ、完全には治っていないことが分かります。治療後期の浅屈腱は右側です。従来のエコー方法では治療中期と同じく白色です。しかし超音波エラストグラフィでは、治療中期とは異なっており、薄い緑色から青色で映し出されていることから、硬くなっていることが分かります。
 今回の調査によって、超音波エラストグラフィは、競走馬の浅屈腱炎の診断に応用できることが分かりました。競走馬のリハビリテーションの開始時期の判断や、その運動強度を指示したりする時に役立つように、今後も超音波エラストグラフィの研究を続けていきます。

(田村 周久)


 


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