ウマの脚は本当にガラス?

 運動科学研究室 

 サラブレッド競走馬の肢はよくガラスの肢と言われます。確かに速く走るためには、肢の先端を軽くして、肢の回転を速くする必要があります。そのために、肢の先端は筋肉がなく、骨とそれを動かすための腱・靭帯で構成されて細くなっています。500kgのウマが全力疾走するのをその細い肢で支えているために骨折しやすいと言われますが、果たして本当に肢が細いから骨折するのでしょうか?


図1 ヒトの脚(後肢)とウマの前肢の細さの比較

 ウマの肢にかかる力は確かに大きいものです。体重500kgのウマの場合を考えてみましょう。ウマでは、前肢の方が後肢よりも肢にかかる垂直方向の力が大きく、その比率は前肢:後肢で概ね6:4です。そのため静止して立っている状態では、前肢2本で300kg重(約3,000N)、1本では150kg重(約1,500N)の力がかかり、後肢2本では200kg重(約2,000N)、1本では100kg重(約1,000N)の力がかかっていることになります。静止状態から動き出して速度が増すと、体重を支える肢は、4本ではなく、3本から1本になり、さらに体重心の上下動が起きるために1本の肢にかかる力も増していきます。常歩(約時速6km)では前肢に320kg重(約3,200N)、後肢に200kg重(約2,000N)、速歩(約時速13km)では、前肢に550kg重(約5,500N)、後肢に480kg重(約4,800N)、駈歩(約時速19km)では、前肢に740-800kg重(約7,400-8,000N)、後肢に580-620kg重(約5,800-6,200N)の力がかかるとされています。競走中に襲歩による全力疾走では、前肢では、900-1,000kg重(約9,000-10,000N)、後肢では600-700kg重(約6,000-7,000N)の力が加わると考えられています。
 このように全力疾走時には特に前肢に大きな力がかかっています。そのため、後肢に比べて前肢で骨折が多いと考えられています。しかし、このような力の大きさだけで、骨折は起こるのでしょうか。肢にかかる力の大きさを体重との比率から考えると全力疾走時のウマの前肢では体重の約2倍であるのに対して、ヒトではゆっくりとした駈歩でも体重の約2.5倍の力がかかります。体の大きさから見たら、ウマの肢にかかる力はヒトよりも小さいのです。その理由としては、ウマは4本の肢があり、全力疾走時でも肢にかかる力が最も大きくなるタイミングで2本の肢が同時に着地しているため力が分散されることが考えられます。また、ウマはヒトと比べて全力疾走時にも体重心の上下動が小さいと予想されるため、その動きを伝える肢にかかる力は余り大きくならないのではないかと考えられます。さらに、蹄関節、球節、肘関節、肩関節、飛節や膝関節が曲がった状態で体重を支えるため、着地の時に衝撃的にかかる力を自動的に吸収するために肢にかかる力が小さいのではないかと考えられています。


図2 襲歩で走行中のサラブレッド

 さらに、JRAの競馬場では、ダートと芝馬場が使用されていますが、同じ速度で走った場合には、各馬場で肢にかかる力が異なります。駈歩時に前肢にかかる力はダート馬場の方が芝馬場よりも小さいが、骨折が起こる可能性は逆にダート馬場の方が高いのです(図3)。また、全力疾走よりもさらに大きな力がかかると考えられる障害の飛越着地時でも、単に大きな力がかかったからといって肢が折れてしまうわけではありません。細いように見える肢でも、走るときにかかる力を十分に支えられるように作られているのです。


図3 各馬場において前肢にかかる力と速度との関係

 つまり、競走馬の骨折は、単に肢が細いから起きるのではなく、走っている途中でのバランスの乱れ、調教方法や休養の取り方、馬場の違いや馬場状態、体型や肢の形などの様々なものが複雑に関連して起こると考えられるのです。
 このように骨折の原因は複雑なものですが、原因の一つ一つを探り出し、それぞれがどのように影響するのかを解析することにより、競走馬の骨折を減らすことのできる馬場や調教方法などを見つけるために研究を行っています。

(高橋敏之)


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