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皆さんは、歩いている馬の蹄を詳しくご覧になったことがありますか?競馬場のパドックなどでは顔や馬体全体を見ることがあっても、肢の先まで観察する機会は少ないと思います。私は、そんな肢の先が地面に着くときの様子について研究をしています。そこで、今回は皆さんに「蹄機(ていき)」と呼ばれる歩行中に生じる蹄の現象についてご紹介したいと思います。
馬の蹄は巨大な体重を支えていることから、とても固いものと思われていますが、実際には、ある程度の弾力があります。蹄の前側半分は比較的硬い蹄壁で覆われていますが、蹄踵(ていしょう)と呼ばれる蹄の後方約1/4の部位は手で押しても変形するくらい弾力性に富んでいます。このため、歩いている際の馬の蹄は、非常にダイナミックな変形を繰り返しているのです。パドックなどを歩いている馬の蹄を後方から見ると、着地の際に、体重が乗るとともに蹄踵部が潰れていくのが分かります。さらに詳しく観察すると、実は蹄踵部は潰れるだけでなく、外方にも拡がっていることに気がつくと思います。これらの蹄形の変化は、着地時だけの一時的なものであり、肢が空中に上がると蹄は元の形に戻ります。この歩行中における蹄形の変化は古くから知られており、「蹄機(ていき)」と呼ばれています。
蹄機には蹄が変形することにより着地時の衝撃の一部を吸収する役割や、蹄内の静脈に貯まった血液を心臓に向けて押し上げるポンプの役割があるとされています。これらの役割は非常に重要であり、例えば重度の骨折のため肢が着けない馬では、長期間に渡り反対肢が着地したままの状態が続くと、着地した肢の蹄機が抑制されて血液循環が悪くなり、ついには蹄葉炎を発症してしまうことがあります。
古くから研究者や装蹄師に知られていた蹄機ですが、実際の蹄の変形量については測定されていませんでした。そこで、我々は走行中の蹄踵部の動きを測定したところ、通常の釘打ち装蹄時における蹄踵部の動きは常歩では5mm程度であったものが、速度の増加と共に動きは大きくなり、ハロン17秒程度の駈歩では約15mmも蹄踵部が伸び縮みしていることが分かりました。今回測定した2点間の元の長さは75mm前後であったことから、この際の蹄踵部の変化量は元の長さの約20%にまで達していたことになります(図1)。
さらに、蹄は着地の際に拡がり、空中に浮いた際には拡がった反動で縮まると考えられがちですが、実際には、着地している間に拡がりと縮まりの両方が起こっていることが明らかとなりました。すなわち、着地前半には蹄踵部が拡がり、反回時と呼ばれる蹄が地面を離れる直前には、逆に蹄踵部は元の長さよりも狭まっていたのです(図2)。以上のことから、走行中の蹄踵部は非常に大きく動いていることがご理解いただけたと思います。
(吉原英留)


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