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競走馬総合研究所栃木支所では、馬の感染症の研究を行なっています。感染症の原因となる病原体はウイルス、細菌、真菌(かび)、原虫(原生動物)、寄生虫と多彩ですが、私はウイルス病を研究対象としています。馬のウイルスといってすぐに頭に浮かぶのは2007年8月に日本で36年ぶりに発生した馬インフルエンザでしょうか。「馬もインフルエンザに感染するんだ」と、驚いた方もいたかもしれません。インフルエンザウイルスはウイルス粒子の表面にある2種類のタンパク質の抗原性の違いから多くの亜型に区別されます。同じウイルスでも亜型が異なると感染する動物種が異なるため、馬インフルエンザウイルスが人に感染して人がインフルエンザに罹ることはありません。
馬も人も感染するウイルスに日本脳炎ウイルスがあります。日本脳炎ウイルスはインフルエンザウイルスのように飛沫感染はせず、日本脳炎ウイルスを持っている蚊(コガタアカイエカが主)が馬や人を吸血したときに感染します。馬と人に感染する日本脳炎ウイルスに違いはありませんが、人から人、馬から人へ直接感染することはありません。
日本脳炎ウイルスに感染しても大部分の人や馬は症状を出さず(不顕性感染といいます)、感染したことに気付きません。しかし重症の馬の場合は、脳炎を発症します。症状としては歩行異常や四肢の麻痺を示し、起立困難となってしまう場合があります。かっては日本でも大流行し、1948年には3,000頭以上の馬が発症し、死亡率が40%にも達しました。その後、直ちに不活化ワクチンが開発され、広く使用されるようになっていきました。また衛生環境も向上し、馬の日本脳炎の発症数は急速に減少、1970年代以降は年間1頭?5頭程度の発生が時折報告されるのみになりました。1985年の3頭の報告を最後に馬の日本脳炎の発生報告はありませんでしたが、2003年に18年ぶりに1頭の発症が確認されました。この馬は農用馬で、ワクチンを接種されておらず日本脳炎ウイルスに対する免疫がない馬でした。2003年以降、現在まで再び発生報告はありません。日本ではすべての競走馬に毎年、日本脳炎のワクチンが接種されています。馬の飼養環境の衛生条件が昔と比べ良くなったことに加え、ワクチン開発が馬の日本脳炎減少の大きな理由だと考えられます。馬の日本脳炎ワクチンは人用よりも早く開発されて実用化されています。
ちなみに、日本脳炎ウイルスは、1935年に日本で初めて分離されたのでこのような名前がついていますが、日本だけではなく東南アジアに広く分布し、毎年数万名の患者が報告されています。ウイルスの中には日本脳炎以外にも、セントルイス脳炎、リフトバレー熱など、病気や原因ウイルスが最初に発見された場所の名前がついているものが多くありますが、その国や地方に住んでいる人にとってはあまり歓迎されるものではないかもしれません。
(近藤高志)

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