「炎症マーカー」で競走馬の病気を把握する!

 「炎症マーカー」という言葉を耳にしたことがありますか? 
 人や動物が病気にかかると,体内ではそれに対応するために様々な生体反応が起こります。特に,細菌感染が起こった場合,白血球を中心とした細胞が侵入してきた細菌を退治するために即座に反応し,生体は厳戒体制をとります。そして,その厳戒体制の程度に応じて肝臓内で急性相蛋白質という物質が産生されます。この急性相蛋白質を「炎症マーカー」として測定することにより,生体内における炎症の程度を知るのです。すなわち,「炎症マーカー」は,生体内で起こっている炎症の有無や程度を反映する指標(マーカー)なのです。
 「炎症マーカー」については,数十年前から人や動物で様々な角度から研究され,臨床応用されてきました。競走馬臨床への応用は,約10年ほど前からです。それまでは,「馬を診れば何でもわかる」という名人の域に達した獣医師を除けば,競走馬の体の中に存在する炎症の程度を客観的に判断するのはとても困難でした。特に,僅かな炎症の存在によっても走能力が低下しかねない競走馬の状態を的確に判断するのは困難でした。そこで我々は,血清アミロイドA(SAA)という炎症マーカーに着目し,研究を進めてきました。
 まず,病気になった競走馬と健康な競走馬の血液をそれぞれ用いてSAAを測定し,競走馬の状態(炎症の有無や程度)とSAAの値との関係を詳細に解析しました。その結果,健康な競走馬のSAAの値は血清1mLあたり0?1μgという極めて低い値でしたが,病気になった競走馬では病気の程度に応じて上昇し,血清1mLあたり1,000μgを超えることもありました。その差は,なんと1,000倍以上もあり,競走馬の体内に存在する炎症の程度を客観的に反映することがわかりました。現在,臨床の現場では,SAAを競走馬の炎症の有無や程度を把握するマーカーとして一般的に測定しています。
 しかし現在のSAAの測定には,特殊な測定機器が必要です。そのため,SAAの測定は時間的あるいは物理的な制約を受けることが少なくありません。そこで,「イムノクロマト法」という特殊な測定機器を必要としない測定法をSAAの測定に応用しました。これは,専用の溶液で希釈した競走馬の血液を試験管の中に入れ,我々が開発したSAA測定用イムノクロマトと反応させることによりSAAを測定するものです。その測定時間は約15分間であり,極めて短時間で競走馬の体内に存在する炎症の程度を把握できるのです。このSAA簡易測定法を用いれば,特殊な測定機器を有しない施設や往診先での測定も可能となり,我々獣医師の診療がより客観的なものになることでしょう。
 将来的には,炎症マーカーをはじめとした血液中の各種マーカーを開発し,臨床症状を示す前の段階でのケア,すなわち競走馬のコンディション管理にも応用したいと考えています。

(帆保誠二)

図1 イムノクロマトを用いた
血清アミロイドAの測定
  専用の希釈液で血清を希釈し,
イムノクロマトを浸して測定する

図2 血清アミロイドAの測定例
  判定ラインの濃さにより
血清アミロイドAの濃度が分かる
  a:健康馬の血清,b:肺炎馬の血清



Back