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皆さん、ヘルペスという病気を耳にされたことはありますか。まず、よく知られているのが、口の周囲に赤い水ぶくれができる口唇ヘルペス。また、性器ヘルペスは重要な性感染症の一つです。さらには、小さなお子さんが罹る水ぼうそうもヘルペスの一種です。これらの病気は全て、ヘルペスウイルスが感染することによって引き起こされます。現在ヒトについては、8種類のヘルペスウイルスが見つかっており、口唇ヘルペスと性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス、水ぼうそうは水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster
virus、略してVZV)が原因となっています。これらヘルペスウイルスの最も大きな特徴は、一度感染すると基本的に生涯にわたりウイルスが潜伏することです。したがって、ヘルペスの症状が治癒した後も、何らかの原因でその人の免疫能が低下すると、ウイルスが活性化して病気が再発することがあります。この典型的な例としては、帯状疱疹が挙げられます。この病気は主として成人に認められるもので、その名のとおり帯状に水ぶくれが現れ、これに疼痛を伴うことが特徴です。実はこの帯状疱疹は、小児の時代に水ぼうそうを起こしたVZVが、何十年もの長い潜伏期間を経て再活性化した結果引き起こされる病気なのです。それでは何故、ヘルペスウイルスはこのような長い期間にわたりヒトの体内に潜伏することができるのでしょうか。その一番大きな理由は、ウイルスが自らの増殖を抑制する機構を持つためです。こうすることで、ヘルペスウイルスは宿主の免疫反応や抗ウイルス薬の作用を回避します。もう一度整理しますと、ヘルペスウイルスは、(1)ヒトに感染して増殖し、病気を引き起こした後(無症状の場合もあり)、(2)自身に適した場所(神経節など)に到達すると、(3)増殖を止めて潜伏状態に入ります。現在のところ、潜伏ヘルペスウイルスを完全に取り除く方法は存在しないため、一度感染を受けると生涯この厄介なウイルスと付き合うしかありません。その際重要なことは、健康でストレスの少ない生活を送ること。逆にいえば、ヘルペスが再発するということは、体に負担がかかっているサインと考えるべきなのかも知れません。なお、よく効く抗ヘルペスウイルス薬が既に開発されていますので、疑わしい場合は早めに病院へ行かれることをお勧めします。
さて、ここまできて、ようやくウマの話です。私は現在、競走馬総合研究所の栃木支所で、ウマヘルペスウイルス1型(equine
herpesvirus type 1、略してEHV-1)の研究を行っています。今のところ、9種類のウマヘルペスウイルスが知られていますが、なかでも馬産業に大きな被害をもたらしているのがこのEHV-1です。その理由は、このウイルスが冬季の集団発熱、流産、さらには神経麻痺と様々な病気の原因となるためです。もちろん、このような症状を示すのは感染馬のごく一部ですが、野外のウマの大半にウイルスが潜伏しているため、毎年のようにEHV-1感染症が発生します(ただし、日本国内では神経麻痺の発生はまれです)。そして、これまで述べてきたとおり、潜伏ウイルスを取り除く方法が見つからないかぎり、EHV-1を根絶することは不可能と考えられます。しかしながら、その被害を少しでも軽減することを目標として、現在栃木支所では、より効果的なワクチンの開発や抗ヘルペスウイルス薬を用いた治療法の検討などに取り組んでいます。
(辻村行司)
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| EHV−1感染により呼吸器症状を呈したウマで認められた膿性鼻汁の排出。 |
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