ひと夏の経験 in UC Davis(その4、米国の獣医学教育)

 平成21年4月から7月までの3ヶ月間、米国カリフォルニア大学デービス校にて馬の繁殖学について研修させていただきました。今回は米国の獣医学教育について紹介させていただきます。

米国の獣医学校
 
日本で獣医師になるためには、医学部の教育課程と同じように、6年間の獣医学教育を受け、卒業前に行われる国家試験に合格し、晴れて獣医師資格が得られます。日本には10校の国立系大学、5校の私立大学、1校の公立大学に獣医学部あるいは獣医学科が存在し、年間約1000人の新規獣医資格者を送り出しています。一方、米国には、合計21校の獣医学校が設置され、一校あたりの学生数が1学年で140名近く、年間約3000人の獣医資格者を輩出しています。日本ととくに大きく違う点は、4年制大学を卒業したのちに、あらたに獣医学校に入る必要があり、このようなシステムは、米国における医学校(medical school)と同様です。獣医学校に入学するには、4年制大学時代に上位の成績を収めることが要求されます。私がもし米国人であったら今ごろ何をしていたのでしょうか?少なくとも米国の獣医大学には入れなかったでしょう。
 UCデービス獣医学校は米国獣医大学の中で学生の成績が非常に高いことで知られています。また、ここ数年以内に新たに建築された近代設備が整い、教授陣やスタッフが充実し、教育レベルもトップクラスです。実習で一緒になった最終学年4年生(シニアスチューデント)は、男性は130名中25名のみであり、馬の専門コース(Equine Track)を履修した学生はすべて女子でした。
 米国の獣医学校では、馬の獣医を目指す学生は、最終年度は馬専門コースに所属します。このようなシステムは日本にはなく、その他、産業動物コース、小動物コース、動物園・野生動物コース、その他専門コース(Individual Track)の1つ以上を専攻する規則があります。馬専門コースを履修する学生は、3,4人のグループとなって、外科、内科、繁殖、病理などの専門実習を受けます(写真)。最終年度の実習は、そのほとんどが臨床実務を手伝いながら、経験を積み、専門的なレポートを仕上げるなどの課題が与えられ、そのような教育は6月上旬の卒業式までぎっしりと行われていました。卒業時には最低限の臨床ができる状態で卒業していくことから、日本の獣医教育には改善の余地があるようです。

授業・実習の様子
 
滞在中には、私も何度か学生が受講する授業に参加させていただきました。この内容と授業方法には、日本の獣医大学とは大きな違いがあり、大変驚きました。学生はみな飲み物を持参し、何人かはハンバーガーやサンドイッチを食べながら聞いていました。さらにすべての学生は個人のパソコンを持ち込み、あらかじめダウンロードしてきたパワーポイントスライドを映写しながら、自身のパソコンにコメントを黙々と書き込んでいる姿が見られました(写真)。スライドによっては、あらかじめレクチャーが録音されている場合もあるそうです。したがって、スライドを見れば授業に出なくても大まかな内容は理解できるわけですが、多くの学生らは、予習した上で授業に望むそうです。学生の中に寝ているものは一人も見当たらず、彼らの学習に対するモチベーションの高さを肌で感じることができました。

卒論テーマを持たない獣医学生
 
日本の獣医学専攻の学生は、卒業論文(卒論)と称した単位を有し、3,4年生になると研究室に所属し、担当教官の指導により、あるテーマに対する研究に従事します。ほとんどの理科系専攻者は大学時代に卒論のテーマとなる実験や調査を経験してきたでしょう。一方、UCデービス獣医学校にはこのように学生が研究や実験を行うシステムはありません。研究は、大学院生やポスドク、研究助手が行うもののようです。米国の獣医大学の学生は、獣医師として必要な知識と技術を修得することに重点が置かれ、専門の研究は行われません。学生の立場から考えると、限られた期間内に最高の教育を受け、一人前の獣医師になって卒業するという目的を達成できる教育システムには、大きなメリットがあるのかもしれません。

UCデービス獣医学校の授業料
 
米国の大学は一般に授業料が高いです。米国では大学授業料は習慣として、親が支払うことはなく、学生がアルバイトなどにより支払い、奨学金制度が充実し、それを利用する割合が高いそうです。UCデービスは米国の獣医学校の中でも最も授業料が高く、4年間でおよそ120000ドル(1200万円)の高額を支払うと言われます。さらに外国人学生は米国人に比べて授業料が高くなるという規則があります。それにも関わらず、獣医学校には多くのアジア人が在籍していました。台湾や中国では近年、米国の大学を卒業することが社会で成功するステータスになっており、アジアの裕福な家庭のお子さんは、米国の大学に親からの仕送りつきで次々に入学しているようです。米国で獣医の大学に通うということは、レベルの高さ、英会話力、成績の問題だけでなく、金銭面でも大きな壁と言えます。

(南保泰雄)



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