英国滞在記 2

 今回は、本題の留学目的に関することについて書かせていただきます。もう、2年以上の月日が経ってしまいましたが、皆様よくご存知の2007年8月の馬インフルエンザの日本での流行は、本当に衝撃的な出来事でした。筆者は、2003年2月より競走馬総合研究所栃木支所に転勤し、馬インフルエンザの研究を始めておりました。勿論、研究する理由は馬インフルエンザが日本へ侵入し流行し得るからだった訳ですが、2007年8月の発生の第1報を受け取ったときは、束の間の「まさか。」という気持ちの後に「この時のために、今までやってきた。」という気持ちが、複雑に交ざりながら押し寄せてきたのを今でも覚えています。
 幸い、2008年7月より発生の報告がなく、馬インフルエンザの日本での流行は終息したと国際的に宣言している状況となっています。しかしながら、諸外国の状況を見てみますと、毎年のように流行の発生がある国や、発生しているにも関わらず発生の有無をリアルタイムで公表しない国もあります。残念ながら、競馬先進国と呼ばれる国の中にも、それらの中に含まれている国があります。日本を含む馬の国際間移動が珍しくない昨今、馬インフルエンザウイルスは世界各地を複雑に駆け巡っています。少なくとも筆者は、現在でも馬インフルエンザが日本に侵入するリスクは2007年の流行前とあまり変わっていないと考えています。
 そんな私が1年間の海外留学の機会を与えられて選択した留学先は、前回にもご紹介しました英国ロンドンのNational Institute for Medical Research(NIMR)というところです。NIMRは、Medical Research Councilという英国政府組織が運営する12の研究所の内の1つであり、英国民の税金で運営されています。研究分野により、感染および免疫、遺伝および進化、神経科学および構造生物学に分けられています。感染および免疫分野は、免疫細胞学、分子免疫学、結核菌学、寄生虫学およびウイルス学に分けられ、さらにウイルス学は、インフルエンザ、エイズ、パピローマウイルスの研究チームに分けられています。NIMRは、以上のような医学に関する基礎研究を行っており、全員に聞いて回ったわけではないのですが、獣医師はいないようです。インフルエンザに関しては、研究とは別に、年間2000検体ものヒトを含む様々な動物由来のサンプルを受け取って検査しています。勿論、2009年から世界的なパンデミックを引き起こしているSwine flu の検体も続々送付されてきています。そこで、研究とは独立した形で、World Influenza Centreという組織が設けられています。検体数では米国のCDC(筆者と同じ研究所の丹羽研究員の2007-8年の留学先。バックナンバー参照。)よりも劣っているそうですが、検体の送付国および地域の数は100を超えて世界一です。そこは、さすが過去に7つの海を支配したことのある国の面目躍如といった感です。World Influenza Centreは、世界保健機構(WHO)の協力機関であり、ワクチン推奨株を選定するためのデータや、タミフルやリレンザなどに対する薬物感受性のデータをWHOに提出しています。また、World Influenza Centreが行う疫学研究以外に、インフルエンザウイルスの分子構造に関する計算化学的な解析が盛んに行われています。研究者の国籍は英国だけでなく、旧植民地の国が中心ですが多様です。筆者のラボメンバーの国籍を紹介しますと、英国人2人(ロンドナー1人、スコティッシュ1人)、アイルランド人1人、ドイツ人1人、中国人1人、イタリア人1人そして私です。英国人とアイルランド人は当然ですが、私を除いて、英語が上手です。殆どの研究者は、最初は3年間の契約で雇用されるようです。一般に、その契約を2回繰り返した後に、成果を残せた人はラボヘッドとなり部下を持てます。そこで、さらに成果を残した人は、テネア(綴りは知りません)と呼ばれる65歳までの終身雇用の契約が可能になるようです。
 以上のような研究所ですので、獣医学、それもウマに限定した背景を持つ筆者に対しては、珍しがって質問を沢山してくる人と、全く無関心な人との極端に異なる2とおりに対応が分れます。まあ、いずれにしましても、私は私、珍しがってウマの病気に関心を示してくれる人との仲を大事にしながら、この留学機会を最大限に利用しようともがいております。
 (追記:研究所内は写真がご法度なので、前回載せました外観写真をご覧ください。)

(山中隆史)



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