ひと夏の経験 in UC Davis(その6、レジデントと専門医制度)

 平成21年4月から7月までの3ヶ月間、米国カリフォルニア大学デービス校にて馬の繁殖学について研修させていただきました。今回は専門医を目指す獣医師が在籍するレジデントというシステムを紹介いたします。

 米国の獣医師会は、外科や眼科など、それぞれの専門分科会から獣医専門医認定制度により毎年専門医を認定する試験を行っています。専門医になるためには、単に経験や専門性に優れていて、試験に受かればよいというものではありません。専門医認定試験の受験資格は、米国ではresident(レジデント)として学生教育や診療に対して主体的に働くことが求められます。また、レジデントは、リサーチプログラム(research program)と呼ばれる一定の調査研究も要求され、繁殖学レジデントの場合は最低1回以上の学会発表が必須とされます。これらレジデントの診療、研究活動には、担当の教授が責任者となって指導し、UCデービス校の馬繁殖部門では、Ball教授とLiu教授が指導者となっていました。専門医認定のための別の受験資格として、大学院に5年以上在籍した者も受験可能ですが、幅広い知識が必要なため、レジデントとして大学に所属したほうが専門医認定を受けるには賢明のようです。米国獣医大学臨床繁殖学会(American College of Theriogenology;ACT)の専門医認定試験は、合格率25%という難関であり、レジデントを経験したからといって専門医認定が保障されるものではありません。獣医繁殖学専門医認定試験は、Society of Theriogenologyと呼ばれる米国臨床繁殖学会が毎年夏に米国の各都市で行なっている学術集会Annual Meeting of Theriogenologyの開催初日に行われ、翌日には結果が発表されます。以前から疑問であったDiploma of ACTとは、米国獣医臨床繁殖専門医の称号という意味であることが理解できました。
 UCデービス校が米国内屈指の獣医学校を有するという理由は、施設の充実もさることながら、60名を越すレジデントが20以上の講座に所属していることにあります。馬繁殖の講座には、2年間の在籍機関に毎年1名ずつのレジデントが入校します。2年目のAnjaはドイツ人、1年目のMilenaはブラジル人と、どちらも自国の獣医大学を卒業後、米国内の大学および病院で3年のインターンシップを経て、UCデービスのレジデントとして活躍していました。
 UCデービスのレジデントは、在籍する講座の種類の豊富さにも特徴があります。馬専門の学問だけでも、「馬外科学」「馬内科学」「馬初期診療学」「馬繁殖学」があり、その他馬に関係する横断的な講座として、「腫瘍学」「皮膚科学」「歯学および口腔外科学」「整形外科学」「臨床病理学」「解剖病理学」「放射線学」「麻酔学」「神経外科学」「心臓循環学」「栄養学」などがあります。
馬以外の動物を専門にする「鳥類医学」「動物園学」「乳牛生産学」「食糧動物繁殖学」「実験動物学」「霊長類学」「小動物外科学」「小動物内科学」などの講座も備わっています。2009年度6月にUCデービス校から40人のレジデントが修了し、上記の講座の専門医試験資格を得ました。卒業式の目録から得た情報によれば、40人中24人は、米国以外の大学を卒業したのち、米国の獣医専門認定医を目指してレジデントになった獣医師であり、専門医制度を持たない他の国でも米国獣医認定制度に対する評価が高く、注目されているものと考えられます。レジデントの給与は、初年度が34000ドル(約340万円)、2年目が36000ドル(約360万円)とのことであり、これは医学部のレジデントの規定に準拠しているそうです。他大学の獣医レジデントと比べてデービス校は比較的高額とのことですが、物価の高いデービスで生活するには十分とはいえません。学生を指導し、診療に大きな責任を持たされる立場として考えると十分な報酬であるとは言いがたく、専門医の認定資格を得るという目的をもって、自身もつねに勉強しながら学生への教育責任を果たしている勇姿が見受けられました。このようなシステムがUCデービス校獣医学校の、さらには米国獣医学校全体の底上げとして大きく働いているものと考えられました。
 UCデービスで繁殖学の専門医を目指すレジデントらは、
毎週火曜日朝、Journal Clubと呼ばれる繁殖学に関する勉強会を開催します。この勉強会は、馬に関する知識だけではなく、他の大動物や犬猫の繁殖に関する知識を最近の論文から抜粋し、担当者が作成した質問に答える形でした。私も毎週Journal Clubに参加しましたが、様々な動物種において、繁殖に関する伝染病や予防法から臨床に至るまで、幅広い知識と体系的な説明を必要とされる内容であり、専門医がどのような知識、試験に対応しているかを知る上でとても勉強になりました。
 私の目からみた感想としては、レジデントは希望する獣医師がだれでもなれるものではなく、獣医学生に対する実質的な教師であり、診療における主治医として一人で働くだけの知識と英会話力を必要とします。日本人がすぐにレジデントとして受け入れられることは難しく、何年かインターンシップとして英語圏内の国で研修をうける経験が必要と感じました。
 日本においても、日本獣医学会の各分科会では、認定医制度の導入を検討している状況にあります。米国のように、専門学ごとに認定するか、あるいは「馬」「牛」「犬猫」のように、動物毎に認定するか、議論が分かれていると聞きますが、JRA組織としても、日本の専門医認定制度の動向に注意を払う必要があると思われます。

(南保泰雄)



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