経験vs. 科学?

 競走馬を育て上げるときには、経験と勘そして技術が重要なのは当たり前のことで、いまさら言うまでもありません。馬は感情豊かで頭のよい動物なので、馬に携わる人間は、馬が今何を考えているのかを感じ取るだけの感性と、取り扱いに関する的確な技術を持つ必要があります。しかし、感性や技術には大きな個人差があることもまた事実です。
 私はJRAに入会以来、主として競走馬の運動生理学に関する研究に従事してきましたが、最近では、当HPの“こらむ コラム Column”欄の「競走馬の心技体」の連載や研修会などを通じて、研究で得られた知見を普及する活動も行なっています。これらの活動を通して最近感じることは、競走馬に関わる人たちのなかに「経験 vs. 科学」というように経験と科学を対立する概念としてとらえるのではなく、経験と科学を両立させ、経験の裏打ちとしての科学の重要性を改めて見直そうという動きが出てきているということです。JRAの美浦あるいは栗東トレーニングセンターで競走馬のトレーニングに関わっている関係者の方々の中にも「経験を裏打ちする科学」を求める声が大きくなってきていると感じています。
 北海道においては、従来からのサラブレッドの生産牧場に加えて、育成・トレーニングに関係する施設が増えてきており、それに伴い、新たな知識の習得に対する関心が高まっています。この傾向は、私が以前JRA日高育成牧場に勤務していた1998〜2004年当時でも既に感じられましたが、今年6年ぶりに赴任してその傾向がより強くなっているように思われます。
 実際に、栄養管理やトレーニング管理の面において、経験を裏打ちする科学的データを利用している牧場があります。たとえば、誰もがその名を知る大手牧場で、近年、繁殖牝馬・1歳馬・2歳馬についてボディコンディションスコアを用いて栄養管理を徹底して行なった結果、成績が以前よりも向上したという記事を最近目にしました。そもそも成績の良い牧場ではありますが、科学的な目を導入することにより、それ以上の成績をあげる効果があるということを証明している事例といえます。ボディコンディションスコアに限らず、運動中の心拍数や血中乳酸濃度を測定しながら、調教に取り組んでいる例もあります。これらの試みもいずれ結果を伴ってくるのではないかと思っています。
 科学的データは、感性などに比較して客観性を持っていることに重要性があります。つまり、ある程度の客観性のある数字を物差しにして、関係者の経験や感性の“目あわせ”をして、経験や勘の裏打ちをすることが出来るという点です。
 経験に科学の目を加えたからといって、そのことがすぐには強い競走馬を作ることにはつながりませんが、科学的な目を加えることは相当大きな武器になることは間違いありません。「経験 vs. 科学」ではなく、「経験 + 科学」という視点が大事と思います。

(JRA日高育成牧場・平賀敦)


写真:講習会で熱心に聞き入る聴衆



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