ディープインパクト秘話 (2) タフなコースに打ち勝つスタミナ

企画調整室長 楠瀬 良

 凱旋門賞がおこなわれるロンシャン競馬場は、日本の競馬場に比べ、芝が深いことで知られている。凱旋門賞の競走距離は2400メートルだが、勝つためには芝の短い日本でのクラシックディスタンスの競馬より、はるかにスタミナが必要なことが予測される。
 ディープインパクトにスタミナがあることは、今年の春の天皇賞(3200メートル)での圧勝によって、多くのファンの前で証明された。しかしこの馬の有するなみはずれたスタミナは、実は一昨年のデビュー前から、十分推測できていたのである。
 スタミナは、疾走中の馬の心拍数が最大になった時のスピード(秒速)を計ることで推定することができる。VHRmaxと呼ばれる数値だが、ディープインパクトの2歳12月の新馬戦の最終追いきり時のVHRmaxは16.3(m/s)だった。2歳馬の平均値が13.4であることを考えるとダントツに高く、この時点で、すでにこの馬はスタミナに優れていたとすることができる。
 ところで、今でこそ調教中の競走馬のVHRmax の計測はGPSを利用した自動計測器を用いているが、ほんの数年前までは、そうではなかった。
 VHRmaxの算出には、競走馬のスピードと心拍数を同時に計測する必要がある。私たちの研究所が、現役競走馬のVHRmaxを計測しはじめた平成13年当時、心拍数はHRモニターという機器を用いて自動計測をしていたが、スピードの計測は人がストップウォッチ片手におこなっていた。この方法だと、計測のために一頭に最低一人の人間が必要となる。効率を高めるには、スピードも自動計測する必要があった。
 そんなある日、エクイターナという馬術の見本市のためにドイツに行っていた馬事部の調査役からある機器のカタログがもたらされた。
「馬のスピードと心拍数がわかる機械らしいよ。」
 これは使えるかもしれない。パッと頭に電気がついた筆者は早速、輸入の手続きをとった。
 送られてきた機器は幼稚園児の弁当箱程度の大きさで重量的には問題はないようだった。ただしエンデュランス競技(超長距離を走る乗馬競技。速度は速くても時速40km程度)用に開発された機器ということで、時速70kmを超えることもあるサラブレッドのスピードを正確に計測できるかは不明だった。そこで種々のテストを繰り返したが、精度にも問題はなく、疾走中のサラブレッドのスピードでもきわめて正確に計測できることがわかった。
 解析ソフトがウィンドウズの英語版のOSしか受けつけないことなど、いくつかの問題点をクリアし、調教に邪魔にならない装着法を工夫し、晴れてトレーニングセンターでのデビューとなったのである。
 さて、この最新機器で計測されたディープインパクトのスタミナ。ロンシャン競馬場の深い芝に通用するかどうかは間もなくわかるであろう。

(Gallop誌 2006.10.8号 掲載)


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