競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.21 〜育成期のトレーニング:成長とトレーニング〜

 トレーニングが進んで持久力が向上すると、同じスピードで走っているときの心拍数は前よりも少なくなる。逆に言えば、同じ心拍数で走ることのできる走行スピードは速くなることは既に述べた(図1)。心拍数が200拍/分になるときの走行スピード(V200)を測定することによって、育成期のサラブレッドの持久力を評価し、トレーニング計画の策定に利用することが出来る。

■トレーニングとV200

 最近の連載で述べたように、サラブレッドはブレーキング以降、人が騎乗したトレーニングを行なうようになる。トレーニングの効果を詳細に評価するためには、最大酸素摂取量をはじめとする呼吸循環機能に関連する指標を測定する必要があるが、実際にはなかなか難しい。一方、運動中の心拍数測定は簡単なので、今現在トレーニングしている馬たちのトレーニング状態を把握するのには好都合である。JRA日高育成牧場で育成されたJRA育成馬に関しては、ほぼ全頭の馬のV200が10年以上にわたって測定されている。
 10年ほど前のデータによると、1歳12月時のV200の平均の数値は9.4m/sであった。ハロンタイムに換算すると、およそ21.3秒になる。つまり、だいたいこのスピードで走ると、育成馬の心拍数は200拍/分になっているわけだ。その後のいわゆる耐久トレーニングの結果、2月にはV200は9.6m/s(ハロン20.9秒)、4月には10.0m/s(ハロン20.0秒)というように順調に増加していた。つまり、トレーニングによって持久力が高くなっていったのがわかる。
 最近では、ブリーズアップセールが行なわれるようになり、JRA育成馬のトレーニングの進展度合いは以前よりも進んでいるといってよい。ここ数年のデータをみると、年度によって若干のばらつきはあるものの、2月時のV200は概ね10m/s(ハロン20秒)程度、4月時の値は概ね11m/s(ハロン18.6秒)の値を示しており、トレーニングの状況が以前よりも進んだ結果を反映し、以前よりも高い値となっている。
 近年の競馬の傾向をみると、早めにデビューして賞金をキチンと加算しておくことが、クラシック戦線へ向けてより重要となっている。そのためには、故障させることなく、2歳の早いうちから持久力を高めておくことは有利なことは明らかである。科学的なデータを集積したからといってすぐに強い競走馬ができるわけではないが、長い経験に基づいて決定されている競走馬のトレーニング計画に科学的な視点を加えることは有意義であるといえよう。

■成長とトレーニング

 トレーニングすることにより強くなるということは、いってみれば当然のことといえる。もし、サラブレッドがトレーニングしないとどうなるかということには興味があるが、普通すべてのサラブレッドは競走馬を目指してトレーニングするので、トレーニングしていない馬のデータを得ることは実は難しい。
 JRAでは、サラブレッドの成長とトレーニングに関する基礎的なデータを得るため、1歳秋のブレーキングの後、普通のトレーニングを翌年の2歳10月まで行なった馬たち(トレーニング群)と、同期間を放牧のみで過ごしたトレーニングなしの馬たち(非トレーニング群)を比較した。まず体重は、ブレーキング時のトレーニング群は平均で441kg、非トレーニング群は454kgであった。2歳の5月までトレーニングを行なうと、トレーニング群の体重は441kgから446kgに微増した。しかし、非トレーニング群の馬では同期間で454kgから491kgまで大きく増加した。さらに、10月までトレーニングを継続すると、トレーニング群の馬の体重は458kgとなった。つまり、トレーニング群では1年間で体重は平均で17kg増えたことになる。一方、非トレーニング群では2歳の10月時の体重は517kgまで増加し、1年間で63kg増加したことになる。
 同期間の最大酸素摂取量の変化を見てみると、当然のことながら、トレーニングの状況を反映したものとなっている。1歳10月のブレーキング時の最大酸素摂取量は、両方の群でおよそ平均130ml/kg/minであった。この後、2歳の10月時までトレーニングしたトレーニング群の馬たちでは、平均160ml/kg/minまで増加していたのに対し、トレーニングしなかった非トレーニング群の馬たちでは、平均140ml/kg/minであり、若干の増加にとどまっていた。当たり前のことだが、トレーニングによって強くなるのである。

(競馬ブック 2009.3.29号 掲載)



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