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1985年、英国の研究者A.ジェフリーズがDNAによって個人を識別する方法を初めて科学雑誌ネイチャーに発表して以来、DNA鑑定法は長足の進歩をとげてきました。先ごろ話題になった足利の冤罪事件では、開発初期のDNA鑑定結果を証拠とした判決が、現在のより精緻になったDNA鑑定結果によって覆されました。さて、競馬は血統のスポーツともいわれます。血統は予想の手がかりになりますし、馬の経済的価値を大きく左右します。馬の親子関係に間違いがないかは、かつては血液型が用いられていましたが、現在では人と同様DNA型が利用されています。
■血液型と馬の性格
質問:私は内気なんですが結構意地っ張りでA型の典型といわれています。サラブレッドの性格も、人と同じように血液型で決まるのでしょうか?
私は馬と騎手との相性について血液型を参考にすべきだと思うのですが、先生はその点どうお考えでしょうか? (25歳 女性 競馬歴:2年)
答え:質問をされたかたに頭から水をかけるようで恐縮ですが、質問自体がナンセンスです。
もちろん馬にも血液型はあります。擬似的にABOの各型にタイプわけすることも一応できます。しかしこれはあくまでも擬似的な分類です。人のA型の血液と、A型に見かけ上分類された馬の血液は全く別物です。もしA型の馬の血液をA型の人に輸血したら、異物反応で大変なことになると考えられます。また馬は血液型によって、それなりに分類できたとしても、血液型がその馬の性格とおよそ関係がないのは、人の場合と同様です。
いわゆる血液型性格判断は広く日本社会に浸透しています。「あなたがノンキなのはB型だからなのよ」とかなんとか、仲間内で盛り上がっているぶんには何も問題はありません。しかし、人の血液型が性格と関係があるという科学的根拠はどこにもないということは知っておいたほうが良いでしょう。ましてや馬と騎手との相性を血液型で決めればという提案には、およそコメントのしようがありません。
ABO式の血液型とは、赤血球の表面にある血液型物質のほんのわずかな違いを分類したものです。その血液型が、育った環境や多くの遺伝子の働きによって決まる「性格」に関係があるとは、まず考えられません。ちなみにこのような血液型性格判断が社会に流布しているのは日本だけです。
■DNAによる親子判定
さて、冒頭で述べたようにサラブレッドにとって血統はきわめて重要です。優れた成績を残した馬を代々かけあわせることで現在のサラブレッドの能力は開花しました。血統は馬の価格に反映されますし、競馬の予想の際の大きな手がかりともなります。大前提として、それぞれの馬が血統書に記載されている父母の子であることが保証されている必要があります。
サラブレッドの親子判定は長らく血液型を用いておこなわれてきました。しかし馬の血液型では同じタイプに含まれてしまう馬も多いため、判定効率(正確には父権否定率)は約97パーセントにとどまっていました。この数字が高ければ高いほど正確な親子判定が可能となるのですが、血液型を用いる限りこれ以上判定効率をあげるのは困難と考えられています。
そこで1990年、全世界のサラブレッドを統括している国際血統書委員会(英国)は、DNA検査を用いた鑑別法をサラブレッドの親子判定に導入することを提案しました。DNAには各個体が持っている遺伝情報がすべて記録されており、上手に解析すれば100パーセントに限りなく近い精度で親子判定が可能となります。
もちろんそのためには技術の開発が不可欠です。私たちの研究所でも国際血統書委員会の提案を受け、(財)競走馬理化学研究所と共同で急遽研究を開始しました。この研究は現在も世界各国の研究機関と連携をとりながら継続されています。そして今では、DNA検査を用いた場合の判定効率は100パーセントに限りなく近い水準(99.999パーセント以上)に達しています。
こうした研究成果をもとに、2001年には米国が、2002年には日本でもサラブレッドの親子判定は血液型からDNA型へと、鑑別方法を変更しました。現在日本では、牧場で生まれたすべての子馬は、DNA検査によって親子関係に矛盾が認められなかった時、初めてサラブレッドとして血統書が発行されます。
さて写真のサンデーサイレンスとその息子マンハッタンカフェ。ともに青鹿毛で流星鼻梁鼻白。これだけ似ていれば親子関係の判定はDNA検査を待つまでのことはないような気もしますが。
(競馬ブック 2009.6.28号 掲載)
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