競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.34 〜サラブレッドの体脂肪率〜

 健康ブームは依然としての衰えをみせず、メタボ検診などというものまで跋扈するようになった。メタボリックシンドロームの判定基準が腹囲85cm以上とかで、体重ばかりか腹回りまで気にするヒトが増えている。おそらくは、肥満していて脂肪が多いと、いわゆる成人病にかかりやすいということなのだろうが、大きなお世話でもある。

■体脂肪率

 体脂肪率は今でこそ比較的簡単に測定することが出来るが、以前はそれほど簡単ではなく、水中体重測定法により測定されていた。この方法はアルキメデスの原理を用いたもので、単純な原理を用いているので正確である。しかし、測定に当たって、水中で息を吐ききることで浮力の影響をなくす必要があったり、大掛かりな設備が必要だったりで、実用的ではなかった。
 最近では、電気インピーダンス法を応用した測定器が普及しており、手軽に測定できるようになった。これは、生体に微弱な電流を流すことによって生体のインピーダンスを測定して、その値から体脂肪率を推定する方法である。通常市販されているタイプの体脂肪率計はこの方法を用いている。しかしながら、この方法でも、同じ日に測定しても測定する時間が違うと値が異なったり、体脂肪率を計算するのに使う推定式が、体脂肪計を作る会社ごとに微妙に違ったりするので、絶対的に信頼の出来るものではない。とはいえ、手軽であることは間違いなく、測定を一定の時間帯に行なうことで、それらの誤差を最小にすることが出来るので、健康管理に使う際には有用な機器といえる。

■ウマの体脂肪率測定

 現在のところ、ウマの体脂肪率に関する正確なデータはそれほど多くない。人間で用いているような簡易の体脂肪計はもちろん使われていない。最近になって、アメリカのニュージャージー州立大学の研究者が、スタンダードブレッドという品種(サラブレッドによく似ている)の体脂肪率についての研究論文を発表している。彼らは、ウマの臀部のある部位の脂肪の厚さをエコー検査で測定して(図1、2)、全身の体脂肪率を計算・推定している。その成績によると、競技成績のよいスタンダードブレッドでは、雄の体脂肪率は平均7.4%、雌では9.9%であったと報告されている。サラブレッドの体脂肪率については、今のところ詳細な研究報告はみられず、JRAの研究施設で現在データを収集している最中である。

■サラブレッドの体脂肪率

 サラブレッドは、春(2〜6月、多くは3〜5月)に生まれ、その年の秋頃に離乳する(母馬とわかれる)。そしてその1年後の満1歳の秋頃から競走馬を目指したトレーニングを開始し、早い馬では2歳の夏頃から競馬に参加するようになる。
私たちは、1歳秋にトレーニングを開始する前くらいのサラブレッド、その後1年間トレーニングを継続した2歳秋くらいのサラブレッド、そして強いトレーニングを行なった3歳以上のサラブレッドについても若干のデータを得ている。
 それらの成績を大まかにまとめると、1)トレーニングを開始する前の1歳秋くらいでは、臀部の脂肪の厚さは概ね2.0〜2.5cmくらいで、この数値から計算すると、体脂肪率は13〜16%くらいになる。2)約1年間のトレーニングを行なった後の2歳秋くらいでは、臀部の脂肪の厚さは1.0〜1.5cmくらいで、体脂肪率は8〜11%程度になり、トレーニングによって脂肪が減っているのが分かる。これに対して、3)もっと強いトレーニングを行なった3歳以上のウマたちでは、臀部の脂肪の厚さは1cm以下くらいまで減り、体脂肪率も5〜8%まで減っているようである。これらのことから推測すると、現役の競走馬ではおそらく臀部の脂肪の厚さは0.5cm以下で、体脂肪率も5%くらいになっているのではないかと考えられる。
トレーニングを開始する前の体脂肪率はどうやら15%前後なので、競走馬となるべく生まれてきたサラブレッドはそもそも体脂肪量の少ない動物なのかもしれない。また、よくトレーニングされた競走馬の体脂肪率は5%程度と思われるが、この数値は人間の一流マラソン選手や体操選手など体脂肪率の少ない運動選手の値とほぼ同様といって良い。
私たちは、いまのところ競走馬を目指している若馬の成績かしか持ち合わせていないが、競走馬を引退して母馬となっている繁殖牝馬たちは、競走馬あるいは競走馬を目指している若馬よりも体脂肪率は高くなっているものと思われます(おそらく20〜25%くらいか)。ニュージャージー大学の研究者の成績にも見られるとおり、雄よりも雌の方が体脂肪率は高いようで、これは人間と同様のようだ。

(競馬ブック 2010.1.24号 掲載)



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