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放牧地は若い馬にとっては、体力づくりのための、いわば運動場ととらえることができます。前回は、放牧地内での駈歩(かけあし)を目安に、馬の運動場として機能し、かつ無駄のない面積として2ヘクタールが基準となるとした私たちの研究所の研究成績について書きました。今回は、放牧地のかたちの問題です。
■放牧地のかたち
質問:放牧地の面積について、それ以上を面積を広くしても駈歩の平均完歩数が延びなくなる2ヘクタールが、放牧地として無駄なく有効な面積であるとする前回の馬博士の記事、とてもよくわかりました。ただ、もし駈歩で長く走ってもらいたいと思うのなら、放牧地を細長いかたちにしたらどうなんでしょうか。同じ面積でも細長ければ直線距離は長くなりますよね。 (42歳 男性 競馬歴:15年)
答え:放牧地の形状は面積と同様、馬にとっての運動場としての有効性と深く関係していると思われます。質問者が指摘するように、同じ面積でも長方形にすれば直線が長く取れるので、馬が運動するのに都合がよいという考え方もあります。実際、そうした考えのもとで、わざわざ放牧地を細長く区切って使っている牧場もあるようです。一方で、正方形に近いほうが馬は自由に運動ができて好ましいという考え方もあります。
そこで私たちの研究所では、放牧地の面積に関する研究にひきつづいて、JRA日高育成牧場と共同で放牧地のかたちについても実験をおこないました。
実験では面積が同じ(2.4ヘクタール)で、縦横の比が1:1,1:2,1:4になるような放牧地3面を使いました。それぞれの放牧地に、6頭ずつの育成馬を放牧をして何日にもわたって終日行動の観察をして記録をとりました。
まず馬たちが放牧地を歩き回った距離を比較しました。その結果、馬たちは1日7時間放牧している間に、約5000メートル移動していましたが、この距離には放牧地のかたちによる違いはありませんでした。また駈歩での総移動距離も放牧地のかたちによる違いはありませんでした。さらに、一回ごとの駈歩での走行距離の平均にも違いは認められませんでした。すなわち、細長い放牧地にすれば直線距離が長く取れるので、一回の駈歩距離は伸びるだろうという予測は外れたわけです。実際には馬たちは、一辺の長さが延びても長い距離を走るようになるわけではなかったということです。
成績がこれだけなら、「放牧地の縦横の比率の違いが1:1〜1:4程度であれば、馬の運動場としての有効性には相違は認められない。」という結論になりそうではあります。しかし、さらにデータを詳細に検討した結果、放牧地での事故防止という観点から、「放牧地は正方形に近いほうが好ましい。」という結論が得られました。
■安全な放牧地
放牧地で馬はときどきケガをすることがあります。仲間同士のあそびがエスカレートしてケガにいたる場合もありますが、駈歩のときの急な方向転換や急停止、牧柵への衝突などでケガをすることもあります。放牧地のかたちを考える場合は、そうした事故の可能性をなるべく減らす配慮も必要だと考えられます。
そうした観点から、観察記録したデータをさらに詳細に検討しました。
放牧地の中で駈歩をはじめた馬はまっすぐ走っていって停まることもありますし、ぐるっと旋回して戻ってくることもあります。そこでそうした駈歩を(1)直線的な駈歩、(2)半回転した駈歩、(3)旋回を含んだ駈歩にタイプわけして、放牧地の形状にわけて発生回数を比較してみました。その結果、正方形の放牧地では直線的な駈歩が多く、放牧地が細長くなるほど旋回を含んだ駈歩の発生回数が増えていました。こうした各タイプの駈歩の発生回数の違いには、統計的に意味のある差が認められました。直線的な駈歩の多い正方形の放牧地のほうが、馬がケガをする可能性は低いものと予想できます。
また、走り始めた馬たちが、どこで停まっていたかも調べました。その結果、正方形の放牧地では、駈歩の停止地点は、放牧地のほぼ全域にわたっていたのですが、縦横の長さの比が1:4の放牧地では、牧柵のそばで停まることが多く、実に57%の駈歩が牧柵の10メートル以内で停止していました。すなわち放牧地が細長いほど、牧柵のきわで駈歩をやめる馬が多かったのです。
こうした成績から、私たちは育成期の馬の放牧地は、主に安全性の観点から、正方形に近い形状のものが好ましいと結論づけました。
(競馬ブック 2010.4.4号 掲載)
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