競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.41 〜反復トレーニング1〜

 陸上競技の長距離走のトレーニング法を書いた本を読むと、「持続走トレーニング」あるいは「インターバルトレーニング」という単語がよく出てくる。持続走トレーニングというのは文字通り、比較的遅いスピードで長い距離を走るトレーニングであり、一定の距離を決めて走る距離走や一定の時間を決めて走る時間走などがある。一方、インターバルトレーニングというのは、急走期(速いスピードでの走行)と緩走期(ゆっくりとしたスピードでの走行)を交互に組み合わせて行なうトレーニングである。

■エミール・ザトペック

 インターバルトレーニングという言葉を有名にしたのは、チェコスロバキア(当時)の陸上長距離選手・エミール・ザトペックである。1948年のロンドンオリンピックでは10000mで金メダルを取り、1952年のヘルシンキオリンピックでは5000m・10000m・マラソンの長距離種目三冠に輝いた伝説のランナーである。この成績はまったく文句の付けようのない素晴らしいもので、当時の世界陸上界が、ザトペックが取り入れたこの新しいトレーニング法をすぐさま導入しようとしたのは当然のことだ。しかし一方で、インターバルトレーニングを行なう際には、急走期の強さや回数あるいはその間隔などをうまく調整しなければならないため、故障なくトレーニングを行なうことはそれほど簡単ではない。ザトペックが行なった実際のトレーニング計画をみると、400m走を何10本も繰り返すなど、相当きついものだったようだ。このような厳しいトレーニング法は、そのインターバルの本数だけを模倣することでさえ、大変であったことと思う。インターバルトレーニングの黎明期は試行錯誤の連続であったことだろう。
 顔をしかめながら、しかし力強く走るそのフォームから、ザトペックは「人間機関車」の異名を持っていた。余談ではあるが、1960年代を中心に阪神タイガースのエースとして活躍した村山実投手は、闘志をむき出しにした投球スタイルで知られている。力感あふれる投球フォームは人間機関車になぞらえられ、「ザトペック投法」といわれていた。同時代を生きた方々にとっては懐かしい記憶でもあろう。

■反復トレーニング

 急走期を反復すると言うと一見簡単そうだが、実は多くのパターンがあることが分かる。トレーニングを反復形式で行なう場合に、トレーニングを構成する要因としては、(1)急走期の運動の強さ(スピード)、(2)急走期の持続時間(走行距離)、(3)緩走期の持続時間(反復間隔)、(4)緩走期の運動強度(スピード)、(5)反復の回数、などが挙げられる。これらの要因は複雑に絡み合うので、単純そうにみえる反復運動であっても、これらの要素を少しずつ変えること、つまり急走期の運動強度を変えたり、反復時間を変えたりすることで、トレーニングパターンを何通りも作ることが出来るわけだ。
 一方、持続的なトレーニングでは、関与してくる要因は、(1)運動の強度(スピード)と(2)その持続時間(走行距離)の二つに大きく絞られてくる。もちろん、この場合も、実際のトレーニング計画を作るのはそれほど簡単ではないのだが、トレーニングを構成する要因の影響の複雑さは反復トレーニングのほうが多いのは当然である。ただし、影響する要因が多いからといって、そのことがトレーニングの有効性に直結するものではないことはいうまでもない。

(競馬ブック 2010.6.20号 掲載)



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