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牧場で生まれ育った馬に、ある時いきなり鞍をつければ、簡単に乗れるというものではありません。馬が素直に馬具の装着を受け入れ、人の騎乗をいやがらず、騎乗者の指示通りに動くようにさせるためには、ブレーキングと呼ばれる一連の教育が必要となります。今回は、そのブレーキングの話。
■ブレーキング
質問:私は親に毎日勉強しろしろって言われていやになります。もちろん勉強をしなければいけないことはわかっています。でも、いつもいつも勉強ばかりでは、かえって効率が悪いと思います。たまには息抜きも必要だと思います。お馬さんもそうでしょう? あ、お馬さんには受験はないか。 (15歳 女性 競馬歴:見るだけ)
答え:競走馬は、体力だけの勝負みたいな印象がありますが、実はデビューするまでには、いくつも覚えなくてはならないことがあります。例えば通常1歳の秋頃におこなわれるブレーキング。鞍をつけて人が乗れるようにするための教育で、騎乗馴致とも呼ばれます。馬はこの教育を受けることで、初めてハミ(注)や鞍をいやがらなくなり、人を背にしたときには指示通り行動するようになります。
またデビュー前にはゲート試験というテストもあります。ゲートに抵抗なく入り、中でじっと立ち、扉が開けばダッシュするという一連の動作ができるかを確認するための試験です。競走馬はこの試験に合格しない限り、競馬に出ることはできません。
さてブレーキングですが、欧米では、人が騎乗する前にまずハミ受けを覚えさせるという方法が一般におこなわれています。この方法は、人馬ともに安全なため、現在は日本の牧場でも広く普及しています。
具体的には、まず馬にハミを装着し、長い手綱をつけてランジングペンの中で回転運動(写真1:ランジング)をさせます。このとき徐々に停止と発進も教えます。数日後、今度は人が後ろにまわり手綱を操作することで、右旋回、左旋回、停止など手綱を介した合図を覚えさせます(写真2:ドライビング)。これらの作業と併行して馬に対して鞍は不快なものではないことを教えると同時に、人の体重に慣れること、人が背に乗っても平気なことを教えていきます。最終的には、人が安全に騎乗して馬場に出ることができるようになるのですが、そこまでの一連の作業には、普通1日30分ずつ費やしたとして、半月程度の時間がかかります。
■効果的な学習法
馬にとっては学習と言えるブレーキングですが、この作業を開始したら毎日休みなく続けるべきだと考えている人もいます。この場合、ブレーキングに従事する人は休日がなくなります。一方で、馬は記憶力が優れている動物なので2、3日中断しても学習の効率は変わらないと考えている人もいます。
その真偽はいかに、ということで私たちは実験をおこないました。
実験では、まず17日で終了するブレーキングのカリキュラムを作りました。そして12頭の1歳馬を2群に分け、1群は毎日休まずカリキュラムをこなす毎日群、もう1群は4日作業をやって3日休む断続群としました。断続群の最初の休み明けは、5日目のカリキュラムをこなすことになります。毎日群はもちろん17日間で作業は終了しますが、断続群は3日間の休みが4回挟まるので、29日間で作業が終了することになります。
私たちは、この間に両群の学習効率を比較するために何回かテストをおこないました。
最初のテストは、ドライビングの馴致が進み人の指示どおり右左に曲がれるようになったカリキュラム10日目に実施しました。テストでは円錐形の交通コーンを4mおきに5個並べ、ドライビングでじぐざぐに行って帰ってくるというものでした。テスト中の心拍数を測ると同時に、所要時間、立ち止まった回数を記録しました。またコーンから3m以上離れてしまった馬は失格としました。
さてその成績ですが、失格は毎日群1頭、断続群3頭でした。また失格しなかった馬同士を比較したところ、毎日群は断続群に比べ、所要時間は明らかに短く、また平均心拍数も低い傾向にありました。すなわち、毎日群のほうが速く上手に、かつ落ち着いて課題をこなしていたということです。
また17日のカリキュラムを終了した直後にもテストを実施しました。今度のテストは交通コーンを2mおきに9個並べ、馬には人が乗り、同じようにじぐざぐに歩いて行って、帰ってくるというものでした。
このテストでは失格した馬はいませんでしたが、今度も毎日群のほうが所要時間は明らかに短く、立ち止まった回数も少なく、また平均心拍数も低い傾向にありました。すなわち、このテストにおいても毎日群のほうが速く上手に、かつ落ち着いて課題をこなしていたということになります。
以上のことから、ブレーキングという課題に関しては、毎日休まず実施したほうが、馬にはより優れた技術を持たせることができるようになるという結論になります。
さて、質問者のお嬢さん、気晴らしは必要ですが受験勉強も毎日こつこつ続けたほうが、栄冠を手にする確率は高くなると思いますよ。おじさんも応援していますよ。
(競馬ブック 2010.6.27号 掲載)
注:ハミとは馬の口に含ませる金属製の馬具。両端には手綱が結ばれる。左右の手綱を通して、騎乗者は馬に指示を与える。この指示を理解している馬を、ハミ受けができていると言う。
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