競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.42 〜反復トレーニング2〜

 前回の連載(Vol.41)で、トレーニングを反復形式で行なう場合には、(1)急走期の運動の強さ(スピード)、(2)急走期の持続時間(走行距離)、(3)緩走期の持続時間(反復間隔)、(4)緩走期の運動強度(スピード)、(5)反復の回数、などが構成要素としてあげられることを書いた。
 この中で反復回数に関しては、たとえば坂路コースのみを利用する場合は、2〜3本の反復を行なっている例が多いようだ。持続時間(走行距離)については、坂路コースを利用する場合は、コースの長さによって規定されるので、おのずと距離は600〜800mの範囲になり、時間は数10秒になる。言うまでもないが、坂路コースの大きな特徴のひとつは長さが決まっていることである。そのため、走行スピードが速い場合でも、そのスピードのまま長い距離を結果として走ってしまうというようなことは物理的に起こらないわけだ。1本目を終わってから2本目を始めるまでの間(緩走期)の運動は、通常は常歩である。
 競走馬総合研究所では、有効なトレーニング計画を策定するための参考資料にするため、反復運動時の呼吸循環機能に関する研究を行なっている。その中から、いくつか成績を紹介することとしたい。

■反復運動の1本目の強さの影響

 トレッドミル運動負荷試験で、酸素摂取量(VO2)・二酸化炭素排泄量・心拍数・心拍出量・動静脈血液ガス・血中乳酸濃度などを測定することにより、反復運動時の呼吸循環機能を評価した。 今回の実験では、走行を2本行なった場合を想定している(坂路を2本走った場合、あるいは坂路と周回コースを組み合わせて2本走った場合など)。
 実験では、1本目の強さを、(1)高強度(110%VO
2max強度で60秒:実際の調教で言えばハロン12秒くらいの全力疾走)、(2)中強度(70%VO2max強度で60秒:実際の調教で言えばハロン20秒くらいのスピードでの走行)の2種類を設定した。これに加え、比較のために(3)運動なし(1本目の運動を行なわずに主運動をする)の場合も設定した。そして、1本目の運動を終えた後、10分間の常歩をはさんで、2本目の運動を負荷し(110%VO2max:ハロン12秒くらいの全力疾走)、運動開始から30秒ごとに、酸素摂取量などを測定した。

■1本目が強いほど2本目は有酸素的になる

 結果をみると、まず1本目の運動を行なうことにより、血中乳酸濃度は(1)の高強度の運動後で約8mMであり、10分間の常歩を行なった後の2本目の運動直前でもほぼその値を保っていた。(2)の中強度の場合は1本目の運動によっても2mM程度にしか増加せず、2本目の直前ではほぼ安静レベルまで戻っていた(図1)。
 2本目の主運動時の酸素摂取量(VO
2)は、(1)高強度>(2)中強度>(3)運動なしの順にその増加は速かった(図2)。逆に二酸化炭素排泄量の増加は、(1)高強度<(2)中強度<(3)運動なしの順で増加は遅くなっていた。つまり、2本目の運動強度が同じであっても、1本目に強度の高い運動をした場合の方が、2本目の運動は有酸素的なエネルギー供給のもとで行なわれていることになるわけだ。
 このような結果が得られた原因として、さまざまなことが考えられるが、そのひとつとして乳酸の影響も考慮する必要があるかもしれない。近年の研究によって、乳酸が運動時のエネルギー源として重要な役割を演じていることが分かっており、1本目が高強度の場合に認められた2本目直前の高い乳酸濃度が、2本目の運動中のエネルギー供給に影響をおよぼしたのかもしれない。
 今回の実験で分かったことは、1本目の運動強度が高いほど、2本目の運動中のエネルギー供給がより有酸素的になるということである。つまり、1本目の運動強度が違うと、2本目(主運動)の強度が同じであっても、運動中のエネルギー供給形態が多少なりとも変わるということだ。これは、多少なりともトレーニング効果が異なることを意味している。
 実際の調教において、1本目をゆっくりと走る場合と、1本目から比較的速いスピードで“サッ”といく場合とでは、2本目の追い切り時のエネルギー供給の状況も多少違っているものと考えている。

(競馬ブック 2010.7.11号 掲載)



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