競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.43 〜反復トレーニング3〜

 前回の連載で、反復運動を行なう場合には、1本目の運動強度が高いほど、2本目の運動中のエネルギー供給がより有酸素的になるということを述べた。このことは、1本目の運動強度が違うと、2本目(主運動)の強度が同じであっても、そのトレーニング効果の質が多少なりとも異なることを意味している。
 前回の内容を簡単にまとめると上述のようであるが、いくつか付け加えておきたいことがある。それは実験条件についてである。文中で示した実験条件、たとえば1本目の強度を110%VO
2maxの強度(平地調教で言えばF12くらいのスピード)で60秒間走行するというのは、あくまでもトレッドミルを用いた実験として設定したときの運度強度と時間である。実際の調教で、60秒間走らなければならないということではない。700〜800m程度の実際の坂路コースで、そのようなスピードで60秒走ることは事実上出来ず、40秒くらいが最大であろう。ただ、トレッドミルで実験を行なう場合は、論文を作成することも考慮に入れ、妥当で分かりやすい実験条件を決める必要があるので、60秒間という運動時間を設定したというわけである。今回の連載の中での実験条件も全く同じで、まったく同じ条件下でのトレーニングを推奨しているわけではないことには注意していただきたい。

■反復運動の間隔

 反復運動では、それぞれの運動の強度(スピード)はもちろん重要な要素であるが、もうひとつ大きな要因が考えられる。それは運動の間隔である。私たちがトーニングする場合を考えてみても、走る間隔が短くなると息が苦しくなるような感覚を持つ。これはなぜだろうか。
 競走馬が、たとえば坂路コースで2本走る場合の運動間隔は、通常約10〜15分程度になる。坂路を上った後の帰り道の約1000mを常歩で歩くとなれば、10分程度かかるのが普通なので、必然的に反復の間隔はある程度決まってくる。しかしながら、トレーニング場全体のコース配置などの関係から、この間隔を若干変えることの出来る場合もあると思う。そうした場合には、どのような変化が起こるのであろうか。

■10分間隔と5分間隔の比較実験

 110%VO2max強度(平地でいえばF12くらいのスピード)で60秒間の運動を10分間隔と5分間隔で2本行なったときの呼吸循環機能を調べてみた。5分間隔でも10分間隔でも、酸素摂取量は1本目よりも2本目の方が値は高くなっているのに対し、二酸化炭排出量は逆に2本目は低くなっていた。これは、このことは2本目の方がより有酸素的なエネルギー供給のもとで運動していることを示している。
 5分間隔と10分間隔で運動した場合に、それぞれの運動中に供給された有酸素性のエネルギー量を実際に計算してみると、5分間隔で運動した場合の方が、2本目のエネルギー供給はより有酸素的になっていたことがわかった(図1)。

■15分間隔と5分間隔の比較実験

 この実験では、酸素摂取量は測定しておらず、心拍数と血中乳酸濃度のみを測定した。1本目と2本目の運動強度は前実験とほぼ同様で、運動間隔を15分間隔と5分間隔に設定した。このときの血中乳酸濃度の変化を示すと(図2)、1本目の運動により、運動中の血中乳酸濃度は約5mMとなり、1分後には8〜9mM程度となっている。
 15分間隔で2本目を行なった場合は、5分後までは8〜9mMの値を保ったが、2本目の運動直前には4mM程度まで低下している。そして、2本目の運動により、血中乳酸濃度は1本目とほぼ同様な値まで増加し、その後の濃度変化も1本目とほぼ同様な経過をたどった。
 5分間隔の場合では、1本目直後から5分後までは15分間隔と同様の変化を示したが(8〜9mM)、この状態で2本目をスタートするため、2本目直前の血中乳酸濃度15分間隔の直前よりは高い値となった。2本目の運動では、運動直後の血中乳酸濃度は直前の値とほとんど変わらず、5分後には12mMまで増加した。
 血中乳酸濃度は筋中での乳酸生成と消費のバランスによって決まる。筋中における乳酸生成そのものが大きく変化しているとは考ええにくいので、5分間隔の2本目の運動時にみられる血中乳酸濃度の推移は、血中乳酸を運動中のエネルギー源として利用している可能性を感じさせる。
 競走馬のトレーニングは基本的には走ることなので、多彩なバリエーションは求めづらい。しかし、これらの研究結果をみると、反復運動の強度や反復間隔を変化させることでトレーニング効果の質を変化させる可能性があることが分かる。

(競馬ブック 2010.8.1号 掲載)



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