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馬は立ったまま居眠りができるという芸当を有していますが、さすがに夜は馬房の中で横になって眠ります。もっとも人のように何時間も横になりっぱなしというわけではありません。彼らは横になっても15分ほどで立ち上がり、もぞもぞ歩きまわったりしたあと、また横になり少し眠って再び立ち上がるといった行動を繰り返しながら夜を過ごします。馬が気持ちよく横になれるように、日本では馬房の床には多くの場合、敷料としてワラが敷いてあります。
■布団と安眠
質問:先日、独身の女性ばかり集まって、同じく独身の資産家の女性のマンションでパーティーを開きました。おしゃべりが盛り上がって結局泊まることになりました。さすが資産家のお宅のお布団、上等な羽毛のフワフワ布団で、気持ちよくてすっかり熟睡しました。で質問ですが、お馬さんの寝床はどうなっているのでしょうか? (46歳 女性 競馬歴:10年)
答え:競走馬が夜を過ごす馬房の床は、コンクリートの場合もありますが、普通は粘土質の土を固く叩き締めて作られており、その床の上には敷料が敷かれています。馬は床に敷いた弾力性のある敷料の上で横になって寝るだけで、どんなに賞金を稼いでいる馬でも、まず羽毛の掛け布団は使いません。
馬房は馬にとっては寝室であると同時に、食事の場所であり、トイレでもあります。もし床に敷料が敷かれていなければ、馬は気持ちよく横になって眠れないばかりか、寝たり起きたりするときに擦り傷ができたり、肘などに床ずれを作ったりします。また床には尿の水溜りもできかねません。
馬房の敷料として満たすべき条件としては、馬が食べても問題がないこと、蹄に悪影響がないこと、吸湿性に優れていること、廉価であること、大量供給が可能なこと、作業性がよいこと、廃棄したあとの環境汚染がないこと、リサイクルができることなどの点が挙げられます。これらの条件を満たす敷料として、現在、稲ワラ、麦ワラの他、おが粉、ウッドシェーブ(かんなくず)、ペーパー(古紙を裁断したもの)、種々の植物の葉や茎を干したものなどが使われています。
これらの敷料は、どれも人の目にはそれなりに快適そうに見えますが、馬がどう感じているかは、馬に聞いてみるしかありません。そこで私たちは、さまざまな種類の敷料を馬に自由に選ばせ、そこでの馬の行動を指標に、各種敷料の馬にとっての快適性を評価するという実験をおこないました。
■馬はどの敷料を好むか
実験では、床がコンクリートでできている広さ約200平方メートルの大型の馬房(追い込み馬房)を用いました。この馬房を6区画にわけ、そのうちの5区画に稲ワラ、麦ワラ、おが粉、ウッドシェーブ、ペーパーをそれぞれ一種類ずつ敷きました。残りの1区画は、なにも敷かない区画としました。そこに3頭の馬を放し、馬房全体の状況を午後6時から翌朝の6時まで4台のビデオカメラで撮影記録をしました。撮影は連続して2日おこない、2日後に敷料の配置をランダムに変え、馬も別の3頭に入れ替えてまた2日間記録をしました。こうしたことを4回繰り返して、計8日分のデータを収集し、解析をおこないました。
さて夜間の馬たちの行動ですが、12時間のうち平均約5.6時間は壁につるした乾草や床に敷いた稲ワラなどの敷料を食べていました。すなわち馬は夜でも半分の時間帯はなにかをもそもそ食べていたということになります。
また横になった合計時間は約2.7時間でした。そしてそれよりやや長い、約3.2時間を立ったままでうとうとして過ごしていました。
一方、各区画上での滞在時間比は、ウッドシェーブ22.6%、稲ワラ22.3%、麦ワラ19.1%であり、これら3種の敷料の間では有意な違いは認められませんでした。また、おが粉の区画には15.5%、ペーパーでは12.5%、敷料なしでは7.8%の割合で滞在していました。さすがに馬は敷料の敷いていないところでの滞在時間は最も短くなりました。
また馬がどの区画で横になっていたかを調べると、麦ワラで約0.8時間、ウッドシェーブで約0.7時間、稲ワラとペーパーで約0.6時間でしたが、おが粉の区画と敷料なしの区画では馬は全く横になりませんでした。
以上の成績から、稲ワラ、麦ワラ、ウッドシェーブを馬たちはほぼ同等に快適と思っていることが推測されます。またペーパーの区画は、滞在時間は短いのですが、そこで横になっている時間だけを見ると稲ワラと同等でした。おそらくペーパーは風でユラユラするので、そこにじっと立ってはいたくはないけれど、いざ横になって寝てしまえば、それなりに快適ということなのかもしれません。また、稲ワラの区画では、馬が稲ワラそのものを食べることが見受けられました。もし厩舎側が馬に稲ワラを食べて欲しくないと考えた場合は、対策が必要となるでしょう。
さて馬にとっての快適性に違いがなければ、次には経済性やリサイクルの効率を考える必要があります。これらの敷料は、使用後に馬糞とともに堆肥化するのが現在のところ最も有効なリサイクル方法といえます。稲ワラや麦ワラは、木材から作られているウッドシェーブに比べ、堆肥化が容易でかつ良質な堆肥ができるという点で、馬房敷料としては一日の長があるといえるかもしれません。

馬房敷料の快適性評価実験風景
(競馬ブック 2010.12.5号 掲載)
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