|
■競走馬の休養
トレーニングセンターに在厩している競走馬の放牧期間と在厩期間を調査すると、在厩期間の短い馬は放牧期間が短く、在厩期間の長い馬は放牧期間が長い傾向があった。また、トレーニングセンターの周辺育成場では、短期間の放牧が多い傾向にあり、馬たちは駈歩トレーニングを継続していること、ウォーキングマシーンが有効に使用され、スピードの速い常歩(時速6.5〜7km程度)が負荷されていることなどもわかっている。
近年では、競走馬がいわゆる放牧休養する際に、トレーニングセンター周辺での短期放牧に限らず、肉体および精神両面のリフレッシュも目的として、運動を継続しながら放牧休養を行なう例が増加している。その際の運動計画は馬の状態に合わせる必要があるが、運動強度は試行錯誤を重ねながら経験的に決定されているのが現状である。そこで、JRA競走馬総合研究所では、休養中に行なう運動の強度の違いが、呼吸循環機能におよぼす影響に関する基礎的データを得ることを目的に研究を行なった。
■休養と呼吸循環機能に関する研究
JRA競走馬総合研究所では、休養時に行なう運動の強度の違いが呼吸循環機能におよぼす影響を調べるため、3種類の休養形態を設定して、その影響を調べた。休養の方法は、1)駈歩休養群(トレッドミル上での70%VO2max強度の駈歩3分:馬の体力にもよるがハロン18〜20秒くらいの駈歩と考えてよい)、2)常歩休養群(ウォーキングマシーンでの時速6〜7kmの常歩1時間)、3)完全休養群(馬房内で休養し、運動は行なわない)、の3群である。
実験には21頭のサラブレッドを用い、トレッドミル上で18週間にわたってトレーニングを負荷し、トレーニング終了時にトレッドミル運動負荷試験により最大酸素摂取量(VO2max)をはじめとする呼吸循環機能の指標を測定した。その後、7頭ずつ上記の3群に分け、それぞれの条件下で12週間の休養を行ない、休養により呼吸循環機能がどのように変化するかを観察した。18週間のトレーニングを行なうことで、持久力の最もよい指標であるVO2maxはトレーニング前と比較して大きく増加した。また、パフォーマンスを表すと考えられるテスト走行時間は長くなった。
トレーニング終了時のVO2maxを100%として、12週間の休養によりどれだけ変化しているかをみてみると、馬房内休養群では14.1%の減少が認められたのに対し、常歩休養群では約12.7%、駈歩休養群では9.7%の減少が観察された。また、テスト走行時間も休養によってすべての群で減少していたが、その減少率は駈歩休養群が最も少なかった(図1)。
当たり前のようであるが、完全休養群に比べ、何らかの運動を継続していた方が、VO2maxの減少率が少ないことが分かる。VO2maxは酸素運搬系機能の総合的な指標である。そこで、VO2maxに影響をおよぼす因子の変化を少し詳しくみてみると、1回拍出量は、完全休養群で約20%減少していたのに対し、常歩休養群では約10%の減少にとどまり、この減少の程度は駈歩休養群とほぼ同じくらいであった。その他の呼吸循環系機能の指標についても、変化の様相は各群で必ずしも同じではなく、各休養群間で少しずつ違っていた。
骨格筋のエネルギー代謝において重要である乳酸代謝に関する指標をみてみると、乳酸利用に関連するタンパク質であるMCT1は、駈歩休養群では比較的よく維持されていた。一方、激しい運動により筋細胞内に大量に産生された乳酸を細胞外に放出するタンパク質であるMCT4は駈歩休養群でも低下していた。MCT4は言ってみれば、無酸素性のエネルギー供給に関係するタンパク質であるので、これに関する機能を維持するには強い運動が必要であるということなのであろう。
休養により呼吸循環系機能は低下しており、当然のことながら、その低下の程度は、完全休養群がもっとも高く、次いで常歩休養群、駈歩休養群の順であった。これは、もちろん予想通りのことであるが、指標の中には常歩休養によってもかなり維持されているものもあったことは注目できる現象であった。これらの知見は、休養後の再トレーニングを考える上で重要な知見である。
(競馬ブック 2011.1.16号 掲載)
|