|
3年にわたって連載してきた「競走馬の心技体」は、今号をもって終了いたします。そこで今回は、あとがきにかえて架空インタビューをおおくりします。
−まず「心」担当の楠瀬さんから。この連載が始まったきっかけあたりからお話ください。
楠瀬:競走馬のスポーツ科学研究はJRA競走馬総合研究所(総研)の支柱研究のひとつです。こうした研究を総研が行っている目的は強い馬づくりにあるのですが、研究成果の中には一般の競馬ファンの方にも興味を持ってもらえそうなことが多々あります。また、そうしたことをファンに伝えることで、競馬をさらに魅力的に感じてもらえるものと考えています。そのためにはマスメディアの理解と協力が必要です。
3年前、私は総研で企画調整室長というポストにいましたが、私たちの働きかけに応じて、JRAの関西広報室が、主に競馬マスコミ関係者を対象とした講演会を企画してくれました。その講演会で我々3人は講師として講演をしたのですが、そこに競馬ブック編集長の村上さんも来られていました。私たちの意図と競馬ブックの「競馬の主役である競走馬を科学的な視点からとらえた連載をしたい」というニーズがマッチして話は盛り上がり、翌年春からの連載につながりました。
−競走馬の「心技体」というネーミングは?
楠瀬:絶妙なネーミングでしょう?我々の専門分野にぴたりと一致しています。「競走馬の心技体」という表題は、競馬ブックで考えてくれたものです。
−楠瀬さんは永年にわたって馬の行動や心理の研究を続けてこられたわけですが、他にそんな方はおられるのでしょうか?
楠瀬:日本でこの分野で馬だけを対象にしている研究者は私以外にいません。10年ほど前、国際学会でアメリカに行ったとき、かの地の “EQUUS”という雑誌からインタビューを受けました。帰国後に記事の載った雑誌が送られてきたのですが、結構正確に研究の紹介をしてくれていました。私のブロークンな英語をよく理解してくれたなと感心していたのですが、一箇所だけ明らかな間違いがありました。それは、ドクター・クスノセは日本における馬の行動学研究のリーダーであると書いてあったことです。リーダーとは集団の先頭にいる存在ということですよね?リーダーも何も、僕一人なんだから。
−オンリーワンですか。まさにパイオニアですね。連載もQ&A形式でユニークでしたよね。
楠瀬:競走馬の心理研究は体系化されていません。読者からの質問に答えるという形にすれば、連載であっても全体の流れをあまり考えなくてもよいと思ったのです。
−それは単に楠瀬さんに計画性がないということでしょう(笑)。
楠瀬: ・・・・・・・・・・
−あと読者からの質問についてなのですが、疑惑があります。本当に読者から来ていた質問ばかりなのですか?
楠瀬:それについてはノーコメントです。が、多少の演出があったことを認めるにやぶさかではありません。
−多少の演出ときましたか。ではこの架空インタビューは?
楠瀬: ・・・・・・・・・
−楠瀬さんが黙ったところで、次に「技」を担当された青木さんに移ります。青木さんからは、まずこの連載をされてきた間の感想をお聞かせください。
青木:反響が大きいのでびっくりしましたね。ディープな競馬ファンはもちろんのこと、厩舎関係者や生産地の牧場の人から何回も「読んでますよ」と言われました。それから特別企画でやった座談会が、僕自身も大変勉強になったという点で、印象に残っています。
−1回は松田国調教師、もう1回は国枝調教師ですね。
青木:そうです。僕は装蹄業界全般に係わる立場にいるので、競馬と乗馬の両方の世界と交流してきています。その中で、たとえば厩舎側がいわゆる競技馬術の考え方を抵抗なく取り入れてきていることには感心しました。昔の競馬の世界では考えられないことでした。
−そういえば青木さんは馬術の腕も相当な・・・・
青木:とんでもない。僕の場合は高等馬術ならぬ口頭馬術です(笑)。
−自らおっしゃりたがらないので言ってしまいますが、実は青木さんはケンタッキーにある競馬の殿堂で唯一顕彰されている日本人獣医師です。
青木:装蹄師の国際競技大会が毎年アメリカで開かれています。僕は日本人装蹄師をそこに連れていく仕事をしていたのですが、ただ行くだけではもったいないので日本の装蹄研究の話をしたり、総研で一緒にやっている馬のバイオメカニクス研究を紹介するセミナーを開いたりしていました。そんなことが認められたのかもしれません。
−セミナーの反響はどうですか?
青木:アメリカでもそんな仕事は少ないので、大変興味を持っていますよ。
ところでアメリカでの殿堂入りのことをTVニュースでやっていたと知り合いが知らせてくれました。よくよく聞いたら青木功がアメリカのゴルフの殿堂入りをしたというニュースでした(笑)。ちょうど同じ頃だったんですがね。
−青木修は十分青木功に匹敵するでしょう。
さて最後に「体」を担当された平賀さんに登場いただきます。平賀さんの分野は、まだ連載のネタはありそうですね?
平賀:老いが徐々に目や足元にきている楠瀬さんや青木さんよりは若いので(笑)、アイデアはあります。今回「心技体」の終了にともない少しお休みしますが、競馬ブック側の事情が許せば別の形で連載を再開したいと考えています。
−連載時の感想は?
平賀:青木さんも言っていましたが、えっ、こんな人が!というような意外な人が読んでいたりするのでびっくりしました。同時に、この連載は大事にしなくてはと思いました。私は基本的には我々の研究グループが出した成績をもとに文章を書いてきました。私たちは、厩舎ともサラブレッド生産の現場とも交流があります。私たちの研究はその中で生まれたニーズを種に研究を組み立てているわけです。その点から、我々の研究は日本の競馬事情にもっともフィットしたものであり、読者も強く興味を惹かれるのではないかと考えていました。
−平賀さんは国際馬運動生理学会(ICEEP)の国際委員を務められているということですが、海外の研究と比較してみると?
平賀:昨年秋に南アフリカで国際学会が開かれました。日本からはJRA5題と山口大学1題の計6題の研究発表がおこなわれました。客観的に見て学問的レベルも高く、注目も結構集めていたと思います。というのは、海外の馬研究者は大学に所属している人が多く、我々のグループのようにバリバリの現役競走馬並みの体力を維持した馬を実験に使うことが、なかなか難しいということがあります。また欧米の馬研究はエンデュランス競技や総合馬術競技など、スポーツ馬術をバックボーンにした研究が主体で、我々のような競馬をバックボーンに持つ研究は少ないということもあります。我々の出すデータは、いわば究極のアスリートの生理学的な特性を示すとも言えるのです。我々の研究がユニークさを保ち、注目を浴びれば、それは日本競馬の世界へのアピールにもなると考えています。
−もう誌面がつきました。それでは新しい連載に期待しています。どうもありがとうございました。
(完)
(競馬ブック 2011.1.23号 掲載)
|