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競走馬の生産地では子馬たちがぽつぽつ誕生し始めています。今回はサラブレッドの子馬に関する質問です。
■子馬の誕生
質問:ディープインパクトの初子が日高の牧場で生まれたという記事を新聞で読みました。私が飼っているベッキーも、間もなく子犬を産むと獣医さんが言っていました。馬と犬の赤ちゃんはどこが違うのでしょうか。それからお父さんのディープのような名馬に育てるための英才教育はあるのでしょうか。 (16歳 女性 競馬歴:見るだけ)
答え: 犬の赤ちゃんと馬の赤ちゃんとの間で、行動面でもっとも目立つ違いは、犬は未熟な状態で生まれるのに対して、馬はかなり成熟した身体機能を持って生まれてくるという点にあります。
生まれたばかりの犬の赤ちゃんは、目も見えませんし立ちあがることもできません。犬の赤ちゃんの目が見えるようになるのは生まれて2週間後ですが、このときでも犬の赤ちゃんは、まだ這って動くことしかできません。これに対して馬の赤ちゃんは生まれて20分もすれば目が見えるようになりますし、生後2時間もしないうちに立ち上がります。
両者のこうした行動発達のスピードの違いは、それぞれの動物が大昔に生活していた環境と深い関係があります。
犬の祖先はオオカミですが、体はそれほど大きくないため、赤ちゃんを隠せる洞穴など安全に子育てができる場所をすぐ見つけることができました。また、いざとなれば母親は、赤ちゃんを狙ってやってきた敵を威嚇して追い払うことができました。
これに対して馬は、昔はひらけた草原を生活の場としていました。体が大きいため安全に身を隠す場所を簡単に見つけることはできません。草食動物である馬は、常に肉食動物に狙われる存在ですが、特に出産は無防備になりがちです。危険を避けるためには、母子ともに出産場所を早々に離れ、群れに合流することが求められました。そのためには、子馬はなるべく早く立ち上がり、母馬のあとを追って移動する能力を持つ必要があったわけです。
生まれてすぐに立ち上がり、歩き回るための準備は、子馬がまだ母馬の胎内にいるときから始まっています。
馬の胎動、すなわち胎児の母体内での動きは、他の動物に比べ非常に盛んなことが知られています。これはおそらく、出生後すぐに活動的になれるための胎児による準備運動と考えられます。サラブレッドの胎児も生まれる前の胎動は激しく、先祖の習性をそのまま受け継いでいます。これは、見方を変えれば、サラブレッドの場合、将来強い馬になるためのトレーニングが、胎児の時代から始まっているということにもなります。
■名馬に育てるための教育
さて、次に名馬になるための英才教育はあるかという質問ですが、これをすれば絶対にOKという方法はありません。満足できる母乳が出るように母馬の栄養管理に目を配り、同齢の仲間と走り回れる十分な広さの放牧地に、長い時間放牧することがひとつの条件といえます。また人を信頼できる馬にするために、飼い主は馬が小さいうちから密度の濃い交流をする必要があります。
ディープインパクトを例に考えてみましょう。
現役時代のディープインパクトは、体の柔らかさ、低くて無駄のないフォーム、持久力と瞬発力など、天性の運動能力を誇っていました。一方、この馬の精神力にも、眼を見張るものがありました。
競馬でのディープインパクトは、騎手の「行こう」という合図に、迷うことなく反応し、持ち前の瞬発力を発揮して他馬をみるみる引き離し、がむしゃらにゴールまで駆け抜けました。こうしたがむしゃらともいえる精神力は、サンデーサイレンス産駒特有の気性とすることができます。
しかしこうした気性は時として悪い方向にいってしまうこともあります。育て方を間違えると、人の言うことを聞かない、荒くれ馬になってしまうからです。そうなると、いくら天性の素質を持っていても、調教すらままならず、競走馬としての大成は望めません。
人に対する従順さ、命令を素直に受け入れる気質は、幼駒や育成馬の時代での人の接し方で決定される部分が大きいと思われます。いわば環境によって左右されるのですが、この面でディープインパクトは幸せな馬だったとすることができます。それは生産、育成された牧場が、サンデー産駒を何世代も育ててきた経験を持つ牧場(ノーザンファーム)だったからです。この牧場では、基礎体力の養成ばかりではなく、落ち着きや人の指示に対する従順性など、しつけにも重点を置いて馬を育てています。こうしたことにより、ディープインパクトは、馬房ではおとなしいけれど競馬では闘争心をあらわにして他馬の追随を許さない、まさに理想の競走馬に育ったものと考えられます。
(競馬ブック 2008.2.17号 掲載)
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