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出走直前の返し馬。時間的に、発売締め切り間際にならないと確認できない馬の動きなので、なかなか落ち着いて観察しにくいものですが、この瞬間にも幸運がひそんでいるかもしれません。
■返し馬
質問:馬たちが馬場に入ってきたあと、それぞれスタート地点まで走っていきますが、あのときの馬の動きが競馬の予想には有力な材料になるように思えるのですが。どういうところに着目すればよいのでしょうか教えていただければ幸いです。私は、なんだか馬と騎手とのコミュニケーションが重要な気がするのですが。 (63歳 男性 競馬歴:3年)
答え:本馬場に入場してから出走に備えて待避所で輪乗りをするまでの間、出走馬が馬場を走ることを“返し馬”と呼びます。「返し馬にはその馬のコンディションの良し悪しがよくあらわれる」というのは、厩舎関係者のほぼ一致した意見といえます。
おっしゃるように返し馬でまずチェックしたいのは、馬と騎手とのコミュニケーション、すなわち両者の間がしっくりいっているかどうかという点です。質問された方は、大変良いところに目をつけられていると思います。回答者を代わってもらっても良いくらいです。さすが年の功といえるでしょう。
返し馬では、脚運びのスムースさ、動きの素軽さをチェックするのも重要ですが、何よりも騎手との“折り合い”に注目すべきです。すなわち騎手のまっすぐ走れという命令に対して馬は反抗していないか、ハミをいやがるそぶりを見せていないか、騎手が止めようとしているのに、やみくもに走ろうとしていないか、などがその着目点としてあげられます。
直前の返し馬で見られた騎手との折り合いの悪さは、競馬のスタートを切ったあとでも再現される確率が高く、その結果、馬は走ることに集中できず、無駄なエネルギーを使ってしまうことになります。
ただし一つ付け加えておかなければならないのは、馬にはそれぞれ個性があるという点です。出走前、いつも騎手との折り合いが悪そうな印象を与えるのが、その馬の個性ということもありえます。こうした馬では、競馬では一変してスムースな走りを見せて勝ってしまうということも起こりかねません。こうした見立ての誤りを犯さないためには、その馬の過去のレースの際の返し馬の様子を思い出すことです。目の前の馬の動きと、過去にその馬が出走したときの返し馬とを比較し、今回が本当に折り合いを欠いているのかを判断します。出走馬の中では、一番騎手との折り合いが悪いように見えても、その馬にとっては最良の状態ということもありえます。しかしすべての出走馬の、かつての返し馬の様子など、並大抵の努力で覚えられるものではありませんが。
■テン乗りと返し馬
さて、返し馬は、ファンが馬の調子を判断する最後のチャンスであると同時に、テン乗り、すなわち競馬当日に初めてその馬にまたがる騎手にとっては、馬の個性を見極める最初の機会とすることができます。
馬は一頭一頭気質が異なります。各馬の気質の違いは、競走中にもさまざまな場面で見られます。ゲートが開いたとたん引っかかって、脱兎のごとくどんどん走っていってしまう馬。馬群に囲まれると急に走る気を喪失してしまう馬。先頭に立ったとたん集中力を無くす馬。
競走馬に見られるさまざまな気質は、その馬に普段から調教で乗っている騎手や、何回か競馬で乗った経験のある騎手ならば、かなりの程度把握しています。しかしテン乗りの場合、初めて競馬でその馬にまたがるわけですから、返し馬が騎乗馬の個性を実感できる最初の場となります。
もちろんテン乗りの騎手に対しては、前もって馬の気質も含めて色々と調教師はアドバイスをしています。ただし細かいことは実際に乗ってみてからでないとわかりません。
テン乗りの場合、実力のある騎手は、馬の気質を馬場入場から発走までの15分程度の間に、あれこれ見定めます。たとえばスタートのときにどのくらい気合いをいれればよいかを、返し馬のときの騎手の扶助(命令)に対する馬の反応具合で判定します。他馬に近づけたときに体を硬くすれば、馬を気にするタイプで、なるべく馬群に入れないほうがよいと判断します。肩に鞭を当てたときに耳を絞れば鞭をいやがる馬と考えることもできますし、中にはハミが口に当たるのを嫌う馬もいます。
テン乗りでも実力のある騎手は、こうしたことを全て把握したうえで発走にのぞみ、あたかも長年コンビを組んできた者同士のように勝負にいどむのです。
(競馬ブック 2008.3.30号 掲載)
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