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■呼吸の仕組み
動物は、呼吸によって酸素を体内に取り込む一方、二酸化炭素を体外に排出している。この作業を行なう最前線の器官は肺である。心臓は心筋といわれる特殊な筋肉で出来ており、心臓自体が収縮・弛緩することでポンプとして働き、血液を全身へ送り出している。これに対して、肺はスポンジのような構造をしており、それ自体が収縮・弛緩するわけではない。それではなぜ、肺に空気が出入りするのだろうか。
肺は、肋骨と横隔膜に囲まれた部屋である胸腔の中に収まっている。肺は胸膜という薄い膜に包まれ、胸膜が胸壁とぴったりと密着している。したがって、胸腔が広がれば肺も引っ張られて広がり、広がった分だけ空気が肺の中に入る。そして、胸腔の容積が小さくなれば肺も小さくなり、小さくなった分だけ空気が外に出るというわけである。
胸腔を広げる方法としては、肋骨を持ち上げて胸郭を広げる胸式呼吸、横隔膜を使った腹式呼吸がある。どちらにしても、肺の入れ物である胸腔の容積を大きくすることで肺の容積が大きくなり、受動的に空気が肺に入っているのである。
■馬は鼻でしか息できない
鼻(外鼻孔)から入った空気は、鼻粘膜に覆われた鼻腔にはいる。馬の鼻腔の内部は骨性の薄い板状の構造物で複雑に分岐されている。複雑な構造にすることで、流入する空気との接触面積が広くなり、ここを空気が通ることで、空気に湿気が加わるとともに温度も上昇する。
次に、空気は咽頭・喉頭に達する。咽喉頭部の下側(腹側)は口蓋という口腔と鼻腔を隔てる壁があり、口に近い前の方の固い部分を硬口蓋、奥の方の柔らかい部分を軟口蓋という。咽喉頭部の一番奥に喉頭蓋や披裂軟骨といった器官がある(写真1)。喉頭蓋は物を食べて飲み込むときに、気管の入り口に蓋をして、食べ物が気管に入るのを防ぐ働きがある。
咽喉頭部は、空気が通る通路である気道(鼻腔→咽頭→喉頭→気管)と食べ物が通る通路(口→咽頭→食道)の交叉点になっている。咽頭までは、気道のほうが背側(上部)にあるが、咽頭でその位置関係が逆転し、咽頭からは食道のほうが気管よりも背側に位置するようになる。
人間が口と鼻の両方で呼吸が出来るのに対し、馬が鼻でしか息が出来ないのは、咽喉頭部の構造が違っているためだ(図1)。少し詳しくいうと、人では喉頭蓋と軟口蓋が接していないので、空気が口腔側と鼻腔側の両方から気管へ入れる構造になっている。これに対し、馬では軟口蓋のすぐ後ろ側に喉頭蓋が接触しているため、物を飲み込むとき以外は、口腔側と鼻腔側の交通を遮断しているのである。つまり、鼻からしか空気を吸い込むことができないということになる。
■気管支の枝分かれ
喉頭を通過した空気は気管に入る。気管は奥になるにしたがい、気管支・細気管支と枝分かれしていき、最後は肺胞と呼ばれる半球状にふくれた袋状の構造となっている。肺胞の壁には網目状に毛細血管が分布しており、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出が行なわれている。競走馬では、競馬などの激しい運動時に肺から出血するという馬特有の運動性肺出血という珍しい現象があるが、これについては、後ほど連載中に詳しく述べることにしたい。
■肺活量は40L
サラブレッドが安静にしているときの1分間の呼吸数は10〜15回くらいで、1回の呼吸で肺に出入する空気の量(1回換気量という)は約5〜6Lなので、1分間あたりには50〜90Lの空気が肺に出入りすることになる。それでは、息を一杯に吸うとどのくらいの空気がサラブレッドの肺に入るのであろうか。
人では肺の機能を評価するときに肺活量が測定されることがある。息を最大限に吸って、最後まで吐き出したときに測定される肺の容量である。もちろん、人間での測定のように「息を大きく吸って、最後まで吐いて」と言っても馬は出来ないので、麻酔中などに測定することになる。こうやって測定された値は40〜45L。人間の10倍以上の値である。
(競馬ブック 2008.5.25号 掲載)
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