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馬は今から5500年ほど前に家畜化されました。サラブレッドは、そうした馬たちのなかから選択育種を重ねて作り出された動物です。一方、家畜化にともない純粋な野生馬は地上からいなくなってしまいました。しかし世界各地には家畜として飼われていた馬が逃げてふたたび野生化し、したたかに生き延びている集団が存在します。彼らの生活を調べることで、馬の本来の生態を知ることができます。さて今回は悩み多きお父さんからの質問です。
■お父さんの悩み
質問:競馬と競馬ブック、毎週楽しませてもらっています。ところで私には息子(高2)と娘(中3)がいます。娘とは、ふだん普通に話しをしますが、息子とはうまくコミュニケーションがとれません。彼から私に話しかけてくることはまずありません。もっとも自分も若い頃は親父がうっとうしかったような気がします。そこで質問ですが、私がこよなく愛するお馬さんは、そのへんのところどうなっているのでしょうか。女馬と男馬の精神的な違いにも興味があります。 (46歳 男性 競馬歴:20年)
答え:サラブレッドの場合、父親は子育てに全く関与しません。はっきり言って、やりっぱなし、生ませっぱなしです。だからといって、そんなにうらやましがらないように。
これに対して、野生状態で生活している馬のお父さんは頼りになる存在です。子馬と遊んでやりますし、いざとなれば体を張って家族を外敵から守ります。
野生で生活している馬たちは、ふつう一頭の成熟した牡馬、複数の牝馬とその子馬たちという、いわば一夫多妻の群れ(ハレム)をつくって子育てをします。春先に生まれた子馬はお母さんのミルクを飲んですくすく育ちます。
サラブレッドの場合は、大部分が生後6か月までには、人の手によって母馬から強制的に引き離され、別の場所で飼われるようになります。この作業を離乳と呼びますが、子馬に自立を促し、競走馬として要求される人との絆を形づくる効果があります。
一方、野生状態で生活している子馬は、お母さんのミルクをいつまでも飲んでいます。生後1年を過ぎて弟や妹が生まれた後でも、母親のミルクを盗み飲んだりすることもあります。そうした野生で生活する子馬たちにもやがて母親のもと、すなわち生まれ育った群れを離れる時期がやってきます。
野生の群れで生まれた牡の子馬は早くて1年齢、多くは2年齢までに群れを離れていきます。牡子馬の場合は、実の父親である群れの牡馬に追い出されます。男っぽくなってきた息子を父馬は威嚇して追い回し、ついには群れから追い出してしまうのです。群れから出た子馬は、他の群れから同じように追い出された馬たちと小さな群れをつくって生活します。そして、いずれ自分のハレムをつくることになります。
牝の子馬も同じころに群れを離れます。ただし牝子馬の場合は、父親に追い出されるわけではなく、むしろ自発的に群れを出ていきます。牝子馬も春になれば発情しますが、若い牝馬の発情はあまり魅力がないとみえ、父親は彼女を相手にしません。彼女がふらふらっと群れを離れてもあえて引き戻そうとはしません。そしていつの間にか牝の子馬は他の群れに合流するのです。
野生で生活する子馬たちがこのように2年齢ぐらいまでに生まれ育った群れを離れるのは、たくまずして近親での交配を避けるという結果につながっています。
■繊細な女馬
さて今度は競走馬のはなし。
男馬と女馬は種々の点で異なっています。走能力はもちろんですが精神面でも男馬と女馬はかなり差があります。競走馬と身近に接してきている厩舎関係者は、女馬を叱るのはとても難しいと一様に話します。人の指示に従わなかった場合、男馬ならピシッと懲戒すると素直に従うようになるのに対して、女馬は叱るとむしろどんどん悪くなってしまうケースが多いというのです。
こうした差は、女馬のほうが恐怖感を持ちやすいということに原因があるのかもしれません。実際、トレーニングセンターに競走馬が入厩する際におこなう健康チェックでてこずるのは、女馬が圧倒的に多いといえます。女馬が初めての場所で知らない人ばかりに囲まれると、強い不安感と恐怖感を覚えるためだと考えられます。
人が、こうした繊細な性質を備えた女馬から信頼を勝ちとるためには、つきあう際に慎重な配慮が必要とされます。厩舎関係者の中には、女馬に対しては絶対に懲戒を加えないという人もいるほどです。みなさんも注意しましょう。
さて質問をくださった悩み多きお父さん。息子さんは今、精神的に父親離れをしている時期と考えることができます。彼がすっかり大人になれば、自然な会話がまたできるようになるでしょう。そうなったら是非競馬場に連れて来て、一緒に盛り上がってください。
(競馬ブック 2008.6.1号 掲載)
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