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読者の中には、いわゆる‘貧乏ゆすり’をする人がおられると思います。膝をカクカクと小刻みにゆすり続けると、やがて何となく気持ち良くなり、イライラした気分が解消されたような気になってきます。ただ、ところ構わず貧乏ゆすりをしていると、本人は良くても周りの人をイライラさせることもあるので気をつけましょう。
貧乏ゆすりは常同行動の一種とされます。常同行動とは同じ動作を何回も繰り返す行動を指しますが、馬でもそうした常同行動を癖として身につけてしまった個体が見られます。今回は、そうした馬の常同行動に関する質問です。
■さく癖は競馬の成績に関係があるか
質問:私は学生時代、馬術部に所属して馬に乗っていました。私の愛馬は、さく癖馬でしたが、馬場に出れば素直で、障害も上手に跳びました。そこで質問です。競走馬にも、さく癖馬はいるのでしょうか。もしいるとすれば、競走馬としての能力に問題は生じないのでしょうか。 (27歳 男性 競馬歴:4年)
答え:乗馬にさく癖馬がいるように、もちろん競走馬にもさく癖を常習的に示す馬はいます。
さく癖とは、上顎の前歯(門歯)を、厩舎の入り口に渡してある横木などに引っかけてくびに力を入れ、グォっというような特有の音を発する行動を指します。大部分の馬はそんな行動はしません。一部の馬のみ、さく癖をすることを覚えてしまい、暇さえあればあたかも何かに取りつかれたようにグォグォと繰り返すようになります。そうした、さく癖を覚えてしまった馬を、さく癖馬と呼びます。
さく癖馬の発生率は、競走馬ではおよそ4パーセントとされています。またさく癖馬の出現に家系的なかたよりがあることから、遺伝的な要因が関係しているとも考えられています。
さく癖のあるサラブレッドだからといって、競馬での走能力が劣るという証拠はありません。ただし、過度のさく癖は明らかに疝痛(腹痛)のリスクを高めることから、普通の馬に比べて管理には、より細かい配慮が必要となります。厩舎にとっては、あまりありがたい存在とはいえません。
さく癖のように同じ行動を延々と繰り返す行動を示す動物は、馬の他にもたくさんいます。
動物園を歩いていると、同じところを行ったり来たりするゾウを見かける場合もありますし、壁を際限なくなめ続けるキリンを目にとめることもあります。動物種によって行動の形式は異なりますが、同じ動作が繰り返されるという共通点があります。こうした常同行動は、自由を奪われているというストレスが、発生の原因のひとつと考えられています。
馬のさく癖や人の貧乏ゆすりも含めて、動物に見られる常同行動は、何かそこから動物たちは、ある種の快感を得ているようにさえ見えます。実際、さく癖馬に脳内のモルヒネ様物質の働きを抑える薬物を投与すると、さく癖はピタリとおさまることが実験的に証明されています。
■さく癖と咀嚼
さく癖は、もちろん寝ているときや騎手を背にして運動をしているときには見られません。馬が厩舎で安静にしているときに見られるわけですが、日がな同じ頻度で出現するわけではなく、どうも日周リズムがあるように見えます。そこで私たちの研究所では、馬事公苑の複数のさく癖馬の24時間行動観察をおこないました。
馬事公苑は、乾草を給与する時刻と、エン麦などの濃厚飼料を給与する時刻が決まっています。観察の結果、さく癖の出現頻度は、そうした飼料の給与時刻と飼料の内容に依存して変化することがわかりました。すなわち、さく癖の出現頻度は乾草を給与する時刻が近づくと、それを予期するようにだんだん減ってきて、乾草を採食中は最低のレベルとなりました。逆に濃厚飼料の給与時刻が近づくと頻度がどんどん増加し、飼料が与えられた時に最高レベルに達したのです。
エン麦などの濃厚飼料は馬が大好きな食べ物といえます。一方で、食物を口にしてから飲み込むまでの咀嚼回数は、乾草を食べるときに比べるとはるかに少なくなります。さく癖の出現には、好きな物が食べられる喜び、もしくは咀嚼の少なさによる欲求不満が関与している可能性があるものと考えられました。私たちのこの発見は、アメリカで出版された動物行動学の教科書にも紹介されています。
(競馬ブック 2008.8.3号 掲載)
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