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前回までの重心移動のテクニックとは別に、今回は、もう一つの重心の動きに焦点を当てて、話を進めよう。 ■もう一つの重心移動とは まず、ここまでの重心移動のテクニックを、おさらいしよう。それは、ウマの体のどこに重心が存在し、ウマが走るとき、それが馬体のなかのどこに移動するか、という話題だった。つまり、4本のアシの動きに絡めた馬体内部での重心移動のテクニックだ。たとえば、小さなボートに乗っている人をイメージして欲しい。ボートを馬体に、その人を重心に例えよう。その人がボートの中を移動すれば、ボートのバランスが微妙に変化する。それは、ここまでのウマの重心移動とよく似た状況だ。 ■反撞って、なに? この重心の上下動を、ライダーは「反撞(はんどう)」と呼ぶ。ウマに乗ってみると判るが、この反撞は、尻をべったりと鞍に付けて乗る馬術のライダーにとってはなかなか厄介だ。特に速歩のそれは、初心者ライダーには耐え難い厳しさだろう。速歩では、短い周期で一完歩に2回も大きな上下動が繰り返されるからだ。ライダーが反撞をまともに受ければ、ウマも背中に大きな負担を受ける。だから、ライダーは、自身が楽になるだけでなく、ウマの負担を軽くするためにも、ライダー自身の腰の柔軟性と脚の関節の動きで、この反撞を巧みに吸収しなければならないのだ。 ■反撞を利用してウマを御す? ここからが、今回の本題だ。ギャロップでは、速度が増すに連れて、重心の上下動がさらに小さくなる。たとえばハロン30秒(キャンターのレベルの速度)では、その上下動の幅は約10cm。ハロン12秒(実際のレース速度)では、わずかに約4cmだ。ディープに限らず、競走馬が速く走るには、基本的に低重心走行が必要だということだ。その重心の動きは、大きなサインカーブを描き、振幅は速度が増すに連れて小さくなる。この重心の動きに、騎手の重心の上下動がぴったり一致すれば、ウマはそのリズムを変えずに走ることが可能だ。ウマの重心の動きよりも騎手の重心が先行して動き、ウマがそれに合わせようと意図的に努力すれば、ウマは加速する。これこそが騎手の「追う」動作の本質だ。逆に、騎手の動作が大きくなり、ウマの重心の動きとの協調性が大きく狂えば、むしろウマにとってはリスクになるだろう。鞭やかけ声でもウマに加速の意志を伝えることはできる。だが、反撞を利用してウマを御すことこそ、力学的に合理的な騎乗法であることは間違いがない。騎手の、そのテクニックに注目しつつレースを観戦するのも、また一興ではないだろうか。 ところで、馬術ではなぜ、反撞をまともに受ける乗り方をするのだろう。速さではなく、華麗で巧妙な演技を求められる馬術では、反撞への積極的な係わりを通じて、ライダーの重心を常にウマの重心と一体化させることが必要だからだ。(つづく) ![]() (競馬ブック 2008.8.10号 掲載) |
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