競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.14 〜運動時の心拍数(2)〜

■ハートレイトモニター

 前回紹介した野村先生が運動中の心電図記録に成功した後、小型の心電計が製作されため記録は容易となったが、この方法では心電図の再生装置が必要で、再生された心電図記録から心拍数を数えなければならないため、心拍数測定は手間のかかる仕事であった。
 1990年代になってヒト用に開発された心拍数計(ハートレイトモニター)を馬に応用する試みがJRA総研で行なわれ、装鞍時に簡単に装着可能なシステムが構築された。このシステムでは、心電図記録用の電極と送信機を付けた特殊ゼッケンを用いるため、通常の装鞍作業での記録が可能になった。騎乗者が腕時計型の受信機をつけて運動した後、受信機をコンピューターにつなげば、心拍数を簡単に得ることが出来る。このシステムの導入により、心拍数記録は簡単になったが、依然として、走行スピードはストップウォッチで測ったハロンタイムから計算する必要があった。こうして求めた走行スピードと心拍数から、V200(心拍数が200拍/分となるスピード)、VHRmax(最大心拍数になるスピード)を計算で求めていた(図1)。V200やVHRmaxはトレーニング効果の1つの指標として利用可能である。

■エクイパイロット

 ハートレイトモニターを用いることで心拍数記録は楽になった。しかし、走行スピードについては、1頭ごとにハロンタイムを測定しなければならないので多数頭の記録をとるのが実施上難しいことや、ハロン棒の通過を遠くから把握することが難しいのでタイム自体を正確に測定することが難しいことなどの問題点があった。
 GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)は人工衛星を用いた位置測定システムで、近年カーナビゲーションをはじめとして急速に普及している。馬に関しても、ハートレイトモニターによる心拍数記録とGPSによる走行スピード記録を同時に行なうことが可能なエクイパイロットがヨーロッパで開発され、主にクロスカントリー競技馬用に用いられていた。このエクイパイロットが全力疾走中のサラブレッド競走馬に利用できるようにJRA総研で改良を加えた。エクイパイロットのシステムは、本体であるスピードと心拍数記録装置、HRモニター発信器から構成されている。ポケット付のバーコードゼッケンに本体を装着し、専用の心拍数記録用ゼッケンを利用してハートレイトモニターを装着すると、競走馬が全力疾走している時でも記録が可能であった(図2)。一度装着してしまえば、タイム測定は必要なく、調教終了時に本体とゼッケンを回収することになる。回収したエクイパイロット本体をコンピューターに接続すれば、心拍数と走行スピードのデータを得ることが出来る。現在では、イクイパイロットと同様の機器が何種類か発売されている。

■エクイパイロットの記録から分かること

 図3はエクイパイロットで記録された調教中の心拍数と走行スピードである。この例では、厩舎を出てから35分ほど秒速2m のスピードで常歩を行ない、角馬場でウォーミングアップした後、坂路を2本駈け上がる調教を行なっている。1本目のスピードは秒速12m(F16.7秒)で、そのときの心拍数は205拍/分、2本目は秒速16m(F12.5秒)で、そのときの心拍数は223拍/分であったことがわかる。このように、調教での心拍数と走行スピードの実測値を知ることが出来、生体の負担度がどのくらいであったかを具体的に知ることが可能である。
 GPSにより測定したスピードは瞬間ごとに求められるので、エクイパイロットの記録を良くみてみると興味深いデータもある。ディープインパクト号については、エクイパイロットを使った追い切り中の記録が何回か行なわれているが、それらの中で、時としてハロン11秒をきるようなスピードが瞬間的に記録されている。ウッドチップコースで記録されたことを考えると、たとえ瞬間的とはいっても、卓越したスピードを持っていたことが分かる。

(競馬ブック 2008.11.2号 掲載)




Back