競走馬の心  ドクター青木の“競走馬・走りのテクニック”Vol.17

 前回まで、アシが生み出す推進力の「動力源」を探ってきた。トモのそれは筋力と重力。つまりハイブリッド・タイプだ。前アシの推進は重力が主役。ここで素朴な疑問。「では、前アシの筋はどうつかう?」 今回は、筋電図が教える前アシの筋の働きを紹介しよう。

■支えて、踏ん張り、舵をとる

 図をみて欲しい。アシの動くイメージに重ねて、筋が働くタイミングを示した。アシが前に振り出される。蹄が着地する。この時、グループ@の筋が活動する。肩の後ろにある筋群だ。路面をとらえた蹄に体重がのしかかる。図では蹄が後ろに流れるが、実際は蹄を支点に、馬体が前方に移動する。この時期には、肩の真上を覆う筋、グループAが頑張る。そして蹄が地面を離れ、再び前方に振り出される。離地の前後に活動するのが、グループBの筋肉だ。それは肩から頸(くび)にかけての筋群。つまりグループ@(後引筋)がまず働いて、アシは地面をとらえ、続いてグループA(抗重力筋)が踏ん張り、バランスをとり、最後にグループB(前引筋)がアシを引き上げる。この“踏ん張り”が「重力」を活用した大きな推進力を生み、同時に進む方向を決める。つまり前アシの筋は、体重を支え、「舵」を取っているのだ。

■それは魚から受け継いだ

 後ろアシに比べると、前アシの筋の働きは複雑だ。それは、魚時代に理由がある。魚には普通、身体の真ん中に縦に並ぶ「背ビレ」、「尾ビレ」、「尻ビレ」がある。それとは別に、身体の横方向には「胸ビレ」と「腹ビレ」が飛び出している。これらは、左右のヒレが「対」になっている。魚が進化した両生類が陸上に進出したとき、胸ビレが前アシ、腹ビレが後ろアシに進化した。池で泳ぐ鯉や水槽の金魚を観察してみよう。速く泳ぐとき、胸ビレと腹ビレは身体にぴったり付けている。水の抵抗を小さくしているのだ。水中に止まっているときは? 胸ビレが活発に動き、身体のバランスをとっている。腹ビレの動きは小さく、胸ビレの補助役だ。バランスをとるだけなら、強大な力はいらない。素早い、細かな動きが必要だ。だから胸ビレの付け根に、大きな筋は存在しない。そんな胸ビレから生まれた前アシは、だから今でも微妙なバランスをとるのが本業だ。

■筋力を活かす“アタマ”の使い方

 といっても、「知恵」を使うわけではない。「アタマの動き」のことだ。その大切さは、このシリーズでも、たびたび触れてきた。ただし、筋力を活かすアタマの動きについて、科学的な実証はまだない。ここまでのデータと経験的な知識をレシピに、「頭を使って」味付けし、大胆に推論してみよう。
i. ウマのアタマの動きは、馬体重心の動きに大きく反映する。
ii. トモのマッスル・パワーを活かすには、深い踏み込みと同時に、トモにしっかりと体重を預けることが必要。そのため、ステップの前半には「アタマ」を引き上げる。
iii. 重力を利用したトモの推進力増強には、ステップの後半、体重心の素早い前方移動を要する。つまり引き上げた「アタマ」を、素早く前方に送り出さなければならない。
iv. このとき、体重で押し曲げられた関節が負重から開放されて、一気に伸びに転じ、推進力の増大にも貢献だ。
v. トモのステップ前半に「アタマ」が引き上げられる(エの動作)と、それは同時に前アシの離地を促す肩の筋群に張りを与え、前アシのスムーズな振り出しを演出。
vi. トモのステップ後半のスムーズな「アタマ」の送り出し(オの動作)は、前アシに体重を預け、結果的に前アシの推進力を増強だ。
vii. 前アシの離地後、再びトモの着地に向けて、「アタマ」を引き上げる動作に移行。これが繰り返される。

 ギャロップでのアタマの動きは、重心移動を司る。それは前アシにも、トモにも実に合理的。が、大きすぎるアタマの動きは、むしろリスキーだ。アタマを上げすぎると、トモに体重が乗りすぎる。筋の負担が増し、疲れやすい。アタマが低すぎると、トモへの体重シフトが不十分だ。さらには前アシを地面から引き上げる動作(下図@の筋群の働き)も邪魔されて、歩幅の確保が不利になる。「アタマ」の使い方は、大きすぎず、小さすぎず、高すぎず、低すぎず。ほどよい高さで、メリハリのある上下動が理想。そう、ディープ・インパクトのように・・・。当たり前すぎる結論だ。これでは馬券推理には役立たない。が、「アタマ」の使い方の意味を知って、「頭」を使えば、何かがみえてくるかも・・・。
 ところで、この「アタマ」の使い方は、ギャロップでの話。パドックを常歩(なみあし)で周回するウマには当てはまらない。常歩のアタマの使い方は、また別物。それはまたいずれ・・・。

(競馬ブック 2008.12.28号 掲載)


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