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競走馬といえば、“ギャロップ”。それは4本足にのみ許された走りのテクニックだ。それも、生まれながらに身につけている。私たちには真似が出来ない。だから、その本質は意外と知られていない。たとえばスタートからゴールまで、そのテクニックは七色に変化する。そんな多彩なテクニックを知れば、競馬はもっと楽しく、もっと深くなる。勝ち馬も見抜く目を養うこともできるかも・・・。
■“スタート”から始めよう
「七色」は大げさだ。が、彼らは数種類のギャロップを駆使してゴールまでを走り抜く。まずはスターティングゲイトを飛び出すウマの走りに注目しよう。
ファンファーレが鳴り響く。ウマたちはゲートへと導かれる。彼らの“はやる”気持ちは最高潮に達する。最後の1頭がゲートに入る。いよいよ発走だ。「カシャーン」という響きを立て、ゲートが開く。満を持して彼らはダッシュする。
この瞬間、後ろアシが揃って前に踏み出す。同時にアタマが上がり、腰は大きく沈み込む。左右の後ろアシが揃って地面を蹴り出す。前躯はやや浮いて前方へ伸び出す。後ろアシをほぼ揃えて動かすのは、左右の後ろアシの筋力を総動員して、ダッシュ力の増強に努力しているからだ。
後ろアシが揃って動くテクニックは、ウマにとってはスタート独特のものだ。が、この走りを得意としている動物がいる。地上最速の走りを繰り出すチーターや、その仲間であるネコ族だ。後ろアシを揃えて使うパワー走法。一歩、一歩、グングンと加速する。チーターなら時速100kmは優に超える。が、疲れやすいから長くは走れない。このギャロップを“ハーフバウンド”と呼ぶ。停まった状態からのダッシュでは、ウマにも必要なテクニックだ。
ゲートを飛び出した後、数歩の間に、左右の後ろアシの動きには「ズレ」が生じ始める。このとき、半数ほどのウマは、前アシの手前と後ろアシの“手前”が異なっている。と、説明しても意味が分からない読者もいることだろう。だから、ここで基本に立ち返ろう。
■“手前”って、なに?
ギャロップには、左右の区別がある。右回りのコーナーを走るのに適したギャロップが“右手前”。左回りに合理的なのが“左手前”のギャロップだ。図を見て、ギャロップで走るウマをイメージして欲しい。それが無理なら、レースのVTRをスロー再生してみよう。
右手前のギャロップでは、空を飛んだ後、まず「左後ろアシ」が最初に着地する。その後は「右後ろアシ」、「左前アシ」、「右前アシ」の順に着地する。最後に着地した右前アシが地を蹴って、再び空に飛び上がる。これでギャロップの一歩が完結する。左手前のギャロップならば、左右のアシの動きが逆転する。
左右のうち、先に着地するアシが“反手前肢(はんてまえあし)”。後から着くアシが“手前肢(てまえあし)”だ。反手前肢は、手前肢に比べると、カラダの真下で前後に振り子運動を繰り返す。手前肢は、反手前肢よりもカラダの前方に振り出されて着地する。ギャロップの手前は、前アシの手前肢で決まる。右の前アシが手前肢ならば、右手前のギャロップというわけだ。
左右の区別があるギャロップは、専門的には“非対称歩法”と呼ばれる。キャンターも左右の別があるから、非対称歩法だ。ちなみにパドックを周回するときの常歩(なみあし)や速歩(はやあし)は“対称歩法”。左右のアシの動きが、半周期ずれてまったく同じ動きをするからだ。
■スタートでは“ネコ”から“シカ”へ
ウマのギャロップではふつう、前アシと後ろアシの手前肢が同じ側になる。右手前のギャロップなら、右前アシと右後ろアシが“手前肢”だ。図を見て欲しい。アシを着地する順番に矢印線で結ぶと、その線分が交差する。だから専門的には“交差”歩法と呼ぶ。ところがスタート直後の走りに注目すると、なかには前アシと後ろアシの手前肢が異なるウマがいる。たとえば、前アシは《右》、後ろアシは《左》が手前肢になるケースだ。これはアシを結ぶ線分が交わらない。だから“回転”歩法と呼ばれる。図のシカは、左前アシが手前肢だから、左手前のギャロップということになる。
回転歩法は、シカやイヌが得意とするテクニックだ。なぜ、ここで回転歩法と同じ「アシさばき」を使うウマがいるのだろう。確かな答えは分からない。が、そこには、後ろアシが生み出す推進力と、その作用する方向が絡んでいるに違いない。さらには、それを受けて進むウマの体勢や傾きにも理由があるのだろう。残りの誌面が足りない。その謎解きは次回に譲る。が、ウマがウマらしさを捨て、ネコやシカの真似をしなければならない。だからスタートには意外な難しさが潜んでいる。
(競馬ブック 2009.1.18号 掲載)
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