競走馬の心技  ドクター平賀の“競走馬の運動生理学” Vol.19 〜育成期のトレーニング:ブレーキング〜

 当歳で離乳してから昼夜放牧あるいは昼間放牧されていたサラブレッドは、1歳の秋に競走馬となるための大きな転機を迎える。それは、騎乗馴致(ブレーキング)である。ブレーキングは、人が騎乗して運動できるようにする手順あるいは行程を総称していうが、狭義には、ハミの装着・鞍の装着・騎乗運動の訓練をさしている。しかしながら、出生直後から馬と人との関係は始まっており、生後、馬に対して行なわれるすべての取り扱いがブレーキングに影響してくることになる。したがって、放牧地までの引き馬やその他日常の取り扱いの良否は重要な問題である。

■ブレーキング

 一言に1歳馬にハミや鞍をつけ、人が乗れるようにするといっても、それほど簡単なことではない。数10年前は、かなり強引な馴致方法も行なわれていたようであるが、最近では欧米など諸外国の方法の良いところも取り入れて、馬および人の双方にとってストレスの少ない方法になっている。
 馴致専用のハミの装着からはじまり、その後はハミに長い手綱(ロングレーン、調馬索)をつけて歩かせ、ハミに従って動くことを教える(図1)。さらに、円形の小さな馬場で、ロングレーンをつけた状態で、常歩・速歩・駈歩で運動することを教える(図2)。併行して、鞍装着に必要な腹帯を付ける馴致をして、鞍を背に置けるようにするとともに、人の体重負荷に慣れさせる。これらの作業の後、ようやく人を背にしての運動が可能になる。
 書いてしまうと数行で終わるが、実は十分な注意と熟練が必要である。いきなり、馬にいろいろなものを取り付けるのはストレスにもなるので、タオルなどで体を触ったりしながら、徐々に慣らすことも行なわれ(パッティング)、段階的に進めていく。腹帯を締めるといってもいきなり付けることは出来ないので、馴致用の専用のストラップを体に静かに回しながら、徐々に慣らしていく。このような細心の注意を払うことで人が騎乗可能となり、競馬場に雄姿をあらわすのである。
 ブレーキングの目的はあくまでも、人が騎乗して運動できるように馬を訓練することなので、人と馬との信頼関係を確実に形成することが重要である。一方で、ブレーキングは、ロングレーンによる調馬索運動や騎乗運動などある程度の運動を必然的に伴っているため、呼吸循環系に対してはいわゆるトレーニングとなっている。
 円形の小馬場で行なわれる調馬索運動では、常歩から速歩・駈歩、特に速歩や駈歩が中心に行なわれる。それぞれ左回り右回りを十分に行なう。初めて調馬索運動を行なうときには、馬にとっても初めての経験であり、り、心拍数はかなり高くなる。これは、心理的な影響である。2〜3日過ぎて慣れてくると、運動強度に応じた心拍数で運動するようになる。

■ブレーキングと呼吸循環機能

 ブレーキング期間中に行なわれる調馬索運動などは基本的には速歩や強度の低い駈歩なので、心拍数は100拍/分〜170拍/分程度であり、運動強度は決して高いものではないし、人が騎乗できるようになった最初の頃の運動も強度の高い運動ではない。ブレーキングの主目的は、あくまでも人が騎乗して運動できるようにすることなので、運動強度自体はあまり問題とならないが、馬にとっては初めての強制運動、つまりトレーニングになる。
 持久力の指標である最大酸素摂取量を、ブレーキングの前後で比較した研究によると、ブレーキングにより最大酸素摂取量は明らかに増加していた。最大酸素摂取量は、成馬においてもトレーニングの初期には強度の低い運動によっても増加するので、若馬の場合も最初の強制運動となるブレーキングはそれなりのトレーニング効果を持つのであろう。

(競馬ブック 2009.2.15号 掲載)



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