競走馬の技体  馬博士楠瀬良の“競走馬のこころ” Vol.19

 インターネットなど情報技術の進歩のスピードは、ドッグイヤーと呼ばれることがあります。犬の1年は、人の7年に匹敵する、すなわち3歳の犬は人なら21歳にあたるとされています。情報技術は他の分野にくらべ犬の成長スピードに近い速さで革新されていくということから、そう呼ばれているわけです。一方、ドッグイヤーよりもう少し穏やかな変化をする場合をホースイヤーと呼ぶことがあります。ホースイヤーと言った場合の変化のスピードは、ドッグイヤーの半分位といったところでしょうか。

ホースイヤー

質問:昨年の11月に東京競馬場でほんとうに久しぶりにオグリキャップに会うことができました。種牡馬生活も(小生と同様)引退したそうですが、まだまだ若々しくて元気そうでした。あのときオグリキャップは確か22歳ということでした。そこで質問ですが、オグリキャップは人間でいえば何歳にあたるのでしょうか。それからサラブレッドの長寿記録はいくつなんでしょうか。 (73歳 男性 競馬歴:50年)

答え:普通、馬の年齢は4、5倍すれば人間の年齢に換算できると言われます。オグリキャップは21歳のとき2頭の繁殖牝馬に最後の種付けをして種牡馬生活を引退しました。仮に人の年齢に換算するときの掛け算の係数が4とすると、オグリキャップはこのとき84歳ということになります。画家のピカソは67歳で子供を作っていますが、男性が80歳を過ぎても子供を作る能力を有しているかどうかは、はなはだ疑問です。もっとも種牡馬の場合は交配相手は毎回変わります。相手が変わればワシだって、というお爺さんはいるかもしれません。
 そもそも動物の年齢を単純な掛け算で人の年齢に換算するということには無理があります。
 馬は出生後、短期間で急速な成長をとげます。たとえば出生直後の体重が、人では6か月かかって倍になるのに対して、馬では1か月で倍になります。サラブレッドはおよそ6か月齢で離乳されますが、この時期は行動の幼さから見て、人では小学校の入学年齢の6歳位にあたりそうです。ですから当歳時には馬は人の6〜12倍のスピードで成長しているともいえます。
 3歳になった競走馬たちはオークス、ダービーに向けてしのぎを削ります。これらの馬たちが目指す二つのレースは、毎年5月の下旬から6月の上旬にかけおこなわれますが、この時期は人でいえば16歳位にあたるとされています。成長のステージや生殖器の成熟ぐあいを考えた場合、この年齢換算はほぼ妥当なところといえるでしょう。
 またサラブレッドの競馬におけるパフォーマンスのピークは平均的には4歳秋とされています。競馬と生体負担度が良く似ているとされる陸上800メートル競走の男子世界記録はキプケテルが26歳のときにつくったものですが、サラブレッドの4歳秋は人に換算すればその位の年齢ということになるでしょうか。
 ちなみに世界の最長寿記録は馬で62歳、人では122歳だそうです。
さて今年23歳になるオグリキャップですが、縷々総合的に判断して人でいえば70歳前後、まさに質問された方と同年齢くらいといえるのではないでしょうか。

■馬の長寿記録

 馬の最長寿記録は先にも述べましたがギネスブックによるとオールドビリー(Old Billy)という英国で飼われていた馬で、1822年まで62年間生きたそうです。ただしこの馬は中間種(いわゆる雑種)の馬でサラブレッドではありません。
 サラブレッドの日本最長寿記録ホルダーはシンザンです。シンザンは戦後の高度経済成長期に活躍し、競馬の大衆化に大きく貢献した立役者ともいえる存在です。1964年に三冠馬となったシンザンは、種牡馬となった後も多くの産駒を送り出し、1996年7月に35年3か月の生涯を閉じました。この年齢は人間に換算すれば優に100歳を超えているものと考えられます。
 また長寿のサラブレッド繁殖牝馬として有名だったのは2頭の日本ダービー馬の母イサベリーンです。イサベリーンはアイルランドから輸入された牝馬で、初子のヒカルメイジが1957年に、第三子のコマツヒカリが1959年にそれぞれダービーを制しています。イサベリーンは1978年11月、34歳6か月の生涯を終えました。
 こうしてみると名馬は長寿のように思えますが、功労のあった馬だからこそ老後も深い愛情に支えられて長生きしたとすることもできます。ちなみにサラブレッドの世界最長寿記録ホルダーはオーストラリアのタンゴデューク(Tango Duke:1935-1978)で42歳まで生きました。この馬は最長寿のサラブレッドとしてのみ有名で、競走馬としては特筆すべき馬ではなかったようです。

 さて、質問をいただいた方は競馬歴50年ということで、シンザンはもちろんヒカルメイジもリアルタイムでご覧になったかもしれません。これからもオグリキャップのように元気に、シンザンのように長生きをされて競馬をお楽しみください。

(競馬ブック 2009.2.22号 掲載)


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