競走馬の心  ドクター青木の“競走馬・走りのテクニック”Vol.22

 “左回りに強い。だから、東京競馬場では、このウマが本命だ”
 そんな勝ち馬予想の“読み”もある。“左回りに強い”それって、どういうことだろう。興味深いテーマだが・・・。

■右利き、左利き

 ヒトは右利きが多い。だから世の中は普通、右利き用に設計されている。左利きには不利な環境だ。そこで一昔前まで、左利きは矯正されたものだ。思い当たる読者もいるだろう。
 ヒトのアシには“軸アシ”がある。それは器用に動く足ではない。安定して体重を支えるアシだ。軸アシは、反対のアシに比べて、サイズがやや大きいという。あなたはどちらが軸アシ? 試してみよう。たとえば、床に落とした小物をアシでつかんで拾ってみる。「利き手」が右手ならば、右アシで拾うほうが簡単なはず。ボールを蹴るのも右アシになるだろう。そんな人が1本アシで立つと・・・。左足で立つほうが安定し、立ちやすいはずだ。が、それはトレーニングや習慣でも変わるので、絶対ではない。
 つまり、《利き手が右》なら、《軸アシは左》になることが多い。そのためか、陸上競技のトラックは、必ず左回りだ。軸になる左アシがコーナーでは内側になる。そこに安心して体重を預けることができるからだ。利き手や軸アシがあることを、左右性(laterality)という。
 昔から“ウマは左利き”と言われてきた。“左回りが得意”ということらしい。ただし、それは、左回りの“コース”に強いということではない。単に左への“回転動作”が得意ということのようだ。本当だろうか。乗ってみると、確かに左回りはスムーズだ。違和感がない。が、それはライダー自身が左回りに馴染んでいるから? あるいは、ライダーの左右性がウマに伝染したから? そうとも、考えられるのだ。

■得意の手前を探せ

 それはライダーの影響かもしれない。が、ウマにも左右性が存在する可能性はある。ところがヒトでも、左右性が生まれる理由はまだよく分かっていない。だから、左右性を論じるのはむずかしい。でも、それが判れば、少しは勝ち馬予想に役立つかも・・・。
 思い出そう。4本のアシが産み出す“床反力”のことを。ギャロップでは、前・後のアシの間だけでなく、左右のアシの間にも機能差がある。たとえば右手前のギャロップなら、左側の後ろアシが推進の主役だった。方向舵やハンドルの役割は、主に右の前アシが担当。左の前アシは体を支える役割に専念だ。左手前の走りであれば、この左右の機能が逆転する。このとき、左手前と右手前との間に能力差があれば、《左右性がある》と見なせるだろう。それは、左右の推進力の違いかもしれない。あるいは左右の舵取り機能の違いかもしれない。
 どうすれば、それが判るだろうか。ヒトならば、利き手は筋力が発達して、やや太い。軸アシの方が《足》はやや大きい。ウマでも、左右の蹄の大きさが違うウマがいる。ベテラン装蹄師の興味深い談話がある。
 「私が装蹄を担当した某牝馬は、右回りのコーナーでは膨らむが、左回りの府中では膨らまず、オークスを勝った。彼女の右アシが長く、蹄も大きかったからだ」
 左回りのコーナーは“左手前のギャロップ”で走る。このとき、左の前アシは方向舵。右の前アシは体重を受け止め、外に膨らむのを抑える。右前アシが長く、蹄も大きければ、たしかに左回りは得意そうだ。ここで冒頭の“読み”に話を戻そう。

■“左回りのコースに強い”?

 左回り。そのコーナーを、ウマたちは左手前のギャロップで回る。最後の直線に突入。騎手がゴーサインを送る。長いコーナーで疲労した左手前から右手前へ。ほとんどのウマたちが手前を変える。直線での叩き合いこそが競馬の醍醐味。ここでの走りが勝敗のカギを握る。つまり、左回りのコースに強いということは・・・。そう、追い込みで繰り出す右手前のギャロップが得意だ、とも言えるのだ。ただし、レース中、右手前を完全に温存したままでは走れない。そこまでの手前の使い分けやペース配分も絡んで、余力の勝負というわけだ。
 “左回りのコースに強い”とは・・・。コーナーで使う左手前が得意なのか? 直線の追い込みで繰り出す右手前が得意なのか? そんな視点から、“推理”や“読み”を展開してみるのも面白いだろう。

 ちなみに、ゴール前の追い込みで、“二のアシ”を使うとき、そこに手前変換が絡むケースも少なくない。だからたぶん、ウマによっては、得意な手前があるのだろう。が、国内三冠レースに勝つウマは、左右性がないのかも・・・。中山、京都は右回り、東京は左回りだから。

(競馬ブック 2009.4.12号 掲載)


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