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競走馬がトレーニングを初めて受けるのはブレーキングからで、その後、運動強度を徐々に上げていって、最終的には競走馬としてデビューする。育成期のトレーニングは、いわゆる持久力の養成や強度の高いトレーニングに対する耐久力の強化といったようなニュアンスが強いのに対し、競走期のトレーニングはまさに競馬に直結するトレーニングである。
北海道地区において近年トレーニング施設の充実が進み、育成期のトレーニングの質・量ともに以前とは格段の違いがあることは既に述べた。先週、JRA育成馬のブリーズアップセールが行なわれたが、仕上がり具合の良い馬たちはハロン12秒くらいのタイムで駆け抜けている。まさに、競走に参加できる一歩手間の段階までトレーニングが進んでいるといえよう。
■トレーニングは走ること
水泳トレーニングも取り入れられているとはいえ、競走馬のトレーニングは走ることが中心である。陸上競技のトラックやマラソンの選手も基本的には走ることが中心であると思われるが、ウェイトトレーニングもかなり行なわれているであろうし、その重要性は高いであろう。しかし、競走馬の場合、ウェイトトレーニングが無理なのは言うまでもないし、人間のスポーツ選手のようなバラエティにあふれるトレーニングはなかなか難しい。
しかし、単に走るとはいっても、走行スピードと走行時間の組み合わせはそれこそいくらでもあるため、馬の状態に合わせて調教メニューを決めるのは大変である。さらに、どのコース、つまり楕円コース(ウッドチップやダートなど)で調教するのか、あるいは坂路コースで調教するのかなどの選択もしなければならない。
■15-15の意味
よく新聞紙上などで、15-15の調教といった言葉を目にすると思う。これは言うまでもなく、1ハロンを15秒くらいのタイムで走る調教である。運動の強度が上がっていくと、心拍数もそれに比例して増加していく(図1)。心拍数が200拍/分となる走行スピードのことをV200といい、トレーニング効果を評価するのにも用いられている。
一方、運動していると、ある運動強度からは血中に乳酸が増えてくる。これは、運動強度の増加に伴って運動に要するエネルギーをもっと増やす必要があり、グリコーゲンの分解が亢進するためである。運動しているときの心拍数をグラフの横軸に、そのときの血中乳酸濃度を縦軸にプロットしてみると、心拍数が200拍/分あたりから高くなると、血中乳酸濃度が高くなっていくことがわかる(図2)。これは、心拍数が200拍/分くらいの運動よりも強い運動では、グリコーゲンの分解が亢進していること、つまり、いわゆる無酸素的なエネルギー供給も亢進していることを示している。
ひとくちにトレーニングセンターで調教している競走馬といっても、入厩したての2歳馬から古馬のオープン馬まで様々な体力の馬たちがいる。それぞれの馬の正確なV200はわからないが、今までの調査によると、競走馬のV200は秒速で13〜15mくらいである。これをハロンタイムに換算すると、15.5〜13.5秒くらいになる。つまり、いわゆる馬なりの15-15くらいの調教をしているときの心拍数は200拍/分くらいになっていることになる。
トレーニングの強度が高ければそれだけ馬体に対するトレーニング刺激は大きくなるが、一方で、下肢部をはじめとする運動器の故障に対するリスクは高くなってしまうというパラドックスがある。15-15の調教は、無酸素的なエネルギー供給が働き始めるあたり、つまり有酸素的なエネルギー供給がフルに働いている運動強度のなかでは最も運動強度が低く、いってみれば安全な運動でもあったわけだ。経験の中から生まれた調教には科学的な意味があったのである。
■追い切り
馬なりの調教はもちろん重要であるが、やはりいわゆる追い切りと呼ばれる強度の強い調教の重要性がやはり最も高い。それは、追い切りでは有酸素的なエネルギー供給も無酸素的なエネルギー供給もフル稼働しているからである。
さて、今週は有酸素的なエネルギー供給能力が問われる天皇賞。どういう展開になるか楽しみである。
(競馬ブック 2009.5.10号 掲載)
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