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前回まで、坂路に関する話題を続けてきた。坂路コースを用いるようになって、トレーニングが反復形式になったが、反復形式のトレーニングの効果については、あとの連載で触れることにしたい。今回は、走路性状の違いに焦点をあてる。
■ウマ用トレッドミルを用いた研究成績
ウマ用に使用されているトレッドミルは何種類かあり、基本的な性能はほぼ同じであるが、多少の違いもある。このうち、大学などの研究施設で用いられているのはK社製およびS社製のものが多い。トレッドミルは言ってみればベルトコンベアーであり、両社のトレッドミルは走行可能なスピードの範囲など基本的な性能は似通っているし、ベルトそのものの性状もよく似ている。
両社のベルトは黒色のゴム製で一見よく似ているものの、厚さや硬さなどはまったく同じというわけではない。また、ベルトを支える基盤となる金属製の床板の性状も多少異なるため、走路面全体としての硬さは違ってくる。
JRA競走馬総合研究所とカリフォルニア大学デービス校にある獣医大学のグループは10年以上にわたって共同研究を行なっている。その一環として、トレッドミルの走路面全体の硬さの違いが、運動中のエネルギー消費におよぼす影響を評価した。
トレッドミル走路面の硬さは、ベルトの上に重りを載せていって、走路面全体がどれだけメたわむモかで、評価した。つまり、たわむ量が多い方が全体として柔らかい走路面を持っているというわけだ。900kgまで重りを載せていって、たわみを比較した結果、S社のトレッドミルの方がK社のトレッドミルよりも全体として柔らかい(弾力がある)ことがわかった。エネルギー消費が多いか少ないかは、同じウマを両社のトレッドミル上で、まったく同じスピードで走らせたときの酸素摂取量を比べることで評価した。
その結果、全体としてより柔らかい走路面を持つS社製のトレッドミルの方が、同じスピードで走ったときの酸素摂取量は多かった。すなわち、走路面全体が柔らかい方がよりエネルギー消費が大きいという結果である。ベルトそのものの性状が似ていても、走路面全体として柔らかければ、それだけエネルギーが必要であるというこの研究の結果は、体感的にも納得できるものといえる。
■野外での評価
競走馬がトレーニングしたり実際に競馬で走ったりする野外の走路には、様々な表面素材、すなわち、芝・ダート・ウッドチップといったものが用いられている。これら、表面素材の異なる走路を走っているときのウマのエネルギー消費はどうなっているのであろうか。
ヒトのスポーツ科学の分野でも、走路性状の違いとエネルギー消費の関係に関しては、古くから研究が行なわれており、結果を大まかにまとめると、やはり柔らかい走路表面を走った場合のほうがエネルギー消費は多い。
一方、ウマの場合、野外走路において走行中のウマの酸素摂取量を正確に測定可能なシステムはいまのところ見当たらない。そのため、異なる走路面のコースを走行しているときの、走行中のウマの負担度を評価するときには、走行中の心拍数から評価するのが最も実用的な方法である。
北海道浦河町にある軽種馬育成調教センター(BTC)の芝コース・ウッドチップコース・ダートコースを5頭のウマに走行させ、各コースのV200(心拍数が200拍/分となる走行スピード)を測定した(図1)。その結果、芝コースのV200は秒速11.6m(ハロンタイムでいうと17.3秒)、ウッドチップコースは秒速10.9m(ハロンタイムでいうと18.3秒)、ダートコースでは秒速10.1m(ハロンタイムでいうと19.7秒)であった。このことはつまり、同じスピードで走った場合に心肺機能に対する負担度が最も大きいのがダートコースであり、その次がウッドチップコース、そして最も負担度が少ないのが芝コースであることを示している。ハロンタイムでみると、芝コースとウッドチップコースでは約1秒、芝コースとダートコースでは2.4秒違うことになる。これらの関係は、馬場の状態(素材の厚さや水分含量など)によっても違うので注意が必要だが、違いがあることは確かである。
■レースと馬場
馬場の表面素材が異なれば、体の負担度が違うであろうことは競馬のタイムを見ることでも明らかである。普通、芝レースのタイムがダートレースのタイムよりも速いし、同じ芝あるいはダートでも馬場状態の違いによっても違うのは、いまさらいうまでもない事実でもある。
馬場表面素材そのものが違ったり、同じ素材でも状態が違ったりすれば、走行中の競走馬のエネルギー消費におよぼす影響もまた違ってくる。したがって、競馬に大きく影響するのだが、どのように判断すればよいのは大変難しいのが現実でもあり、また推理の余地の入る点でもある。
(競馬ブック 2009.10.25号 掲載)
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