馬の生産と繁殖障害

 
 馬の生産は、費用、時間、労力をかける割には効率が低いと言われている。1度に10頭近 くの子供を産む豚や、発情が1年中回帰する牛と比較しても、限られた繁殖季節に交配し、 約1年という長い妊娠期間を経て1頭の子馬を生産することになる。また、受胎したとして も、約15%が流産、難産、虚弱子などの原因により淘汰されている。たとえ無事に分娩した としても、生後2ヶ月間に起こる下痢や肺炎や、競走馬として能力を発揮することができな い程の肢軸異常が認められることも多い。ここでは、一般に行われている馬の繁殖管理と問 題点、その対処方法等について紹介する。  
1) 交配から分娩まで  成熟した牝馬は、通常4月から9月にかけて、約3週間間隔で発情を繰り返し、排卵する。 近年、馬の繁殖シーズンは早期化する傾向が高く、2月後半から交配することも多く、それ に伴って管理方法が多様化している。一般に、雌馬を雄馬と交配して妊娠させるためには、 卵巣や子宮などの生殖器官が正常に働き、かつ受胎するにふさわしい条件が整う必要がある。 また、図1に示すように、馬を生産するためには、発情検査→交配→妊娠鑑定→妊娠維持→ 分娩→発情検査という一連の流れの中で、各種繁殖障害や疾患に対応する必要がある。  
   図1 交配から分娩に至る主な作業とその問題点  
2)主な繁殖検査方法  サラブレッド生産において、雌馬を雄馬と交配するためには、雌馬を雄馬に近づけること によって発情状態を検査する方法(試情検査、あて馬検査)と、獣医師が生殖器の状態を直 腸検査をはじめとする獣医学的手法により検査する方法がある。馬のような大型の家畜動物 では、肛門から腕を肩まで挿入し、生殖器の状態を検査する直腸検査が有効である。超音波 診断装置を同時に使用すると、卵胞の直径や黄体の有無、子宮状態の把握など、より客観的 な検査が可能となる。馬の繁殖検査には以下のような方法が知られている(図2)。  
 ・ 試情検査(あて馬)
 ・ 直腸検査(卵巣・子宮の触診)
 ・ 超音波検査(卵巣・子宮の画像診断)
 ・ 膣検査(粘液量、粘膜の充血、子宮頚管の視診)
 ・ 子宮洗浄(子宮粘膜の刺激、還流液の診断)
 ・ 内分泌検査(ホルモン診断)
 ・ 細菌検査、細胞診(炎症、感染診断)
 ・ 子宮内膜バイオプシー検査(加齢性変化の診断)
 図2 馬の繁殖における様々な検査  
(1)試情検査(あて馬)  発情時における雄馬に対する行動の変化は、交配判断として有用である。雌馬が雄馬を受け 入れる行動と、雄馬をかたくなに拒む行動の差は大きく、その行動から容易に判断することが でき、これを応用したものが試情検査(あて馬)である。試情検査は、雌馬の発情状態がどの 程度かを、獣医検査や血液検査に代わって調べることができる、言わば「発情状態の測定」と いっても過言ではない。軽種馬産業においてシーズンを通じて種牡馬が安全に交配を行うこと ができる背景には、あて馬の存在は欠かせない。試情検査の方法として、近隣のパドックにあ て馬と雌馬を放し、その行動を観察することが最も簡便である。一般的には、雄馬(あて馬) と雌馬との間には、試情板を挟み、雌馬の背中付近のにおいをあて馬に嗅がせ、その際の行動 について観察する(図3)。試情検査では主として以下の点を観察する。   > 雌馬がおとなしいか?(攻撃姿勢をとるか?)   > 尾を上げるか?   > 陰唇の下部を開口するか?(ウインキング、ライトニング)   > 排尿姿勢をとるか?尿または粘り気のある粘液を排出するか?  
   図3 試情検査(あて馬)の様子  
 非発情時の状態としては、上記の発情の状態が見られないばかりでなく、雄馬が近づくと試 情板を激しく蹴り上げ、雄馬を受け入れることがない。  試情を判断する際の注意点として、雌馬が分娩後間もない子馬を付き添えている際は、母性 本能が優り、発情徴候がマスクされることがある。また、交配初年度の若い馬は、新規ストレ ス等によって試情検査が困難な場合もあるため、十分な馴致が必要である。さらに、馬の発情 期間は家畜の中でもっとも長く1週間から10日に及ぶものもあり、発情期=交配適期とはなら ない馬の繁殖の特徴であることを念頭におく必要がある。  
(2)履歴  年齢、産歴、分娩時の様子、分娩後日数、交配回数、あて馬検査の状態などの情報は、分娩 後の子宮の回復や交配の是非を診断する上で有用である。  
(3)直腸検査  繁殖医療において、獣医師が肛門から腕を挿入し、直腸壁を介して、卵巣や子宮などの生殖 器を触診して検査する方法(図4)。子宮は、大きさや貯留感、硬度、妊娠時の膨らみなどを、 また卵巣は、卵巣の大きさ、卵胞の大きさ、波動感、排卵窩の状態の触診などにより、子宮、 卵巣の所見を総合的に判断し、診断を行う。その他、分娩後の動脈破裂による血腫、子宮周辺 の腫瘍組織などの触診が可能となる。  
   図4 直腸検査の様子  
(4)超音波検査  直腸検査とあわせて実施し、卵巣や子宮の断面像を超音波断層装置により描出する方法。早 期妊娠鑑定が実施できる他、発情時の卵胞の大きさ、卵胞の形、排卵確認、黄体の有無、発情 状態にある子宮(図5)、子宮内の貯留液の有無、子宮内シストの確認など、繁殖領域では有 用である。  
   図5 発情子宮の超音波エコー像(レモン輪切り像が特徴的)  
(5)膣検査  膣鏡を陰門から挿入し、膣粘液の量、膣壁の充血の度合い、子宮頚管の形の視診、を行う方 法(図6)。繁殖シーズンの移行期などには、大型卵胞が触診されるにもかかわらず、試情を 示さないことがしばしばある。あて馬がいない場合、膣検査は重要であり、直腸検査と組み合 わせることにより、交配適期について一定の診断が可能である。さらに、雌馬の受胎能力を低 下させる要因である、分娩後におこる子宮頚管の裂傷を診断する場合は、視診だけではなく触 診が有効である。  
   図6 膣検査の様子  
3)発情微弱に関する問題  馬の生産では、雌馬の発情を確認した上で交配に望むことが一般的である。雌馬に発情徴候 が見られないと交配することができないため、生産者にとっては重要な問題である。  
原因:十分な卵胞の発育を伴う場合と伴わない場合に分けられる。後者の多くの場合、脳下垂 体からの卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンの分泌不足に起因した卵胞発育不全が原因 である。交配時期の早期化、繁殖牝馬の低栄養などと関連が強い。一方、前者の例として、未 経産の若い馬や、分娩後の子馬をかばうような母馬では、卵胞が発育していても、発情徴候が 見られないこともある。  
症状:雌馬の発情は卵巣からのエストロジェンというホルモンによって発現する。そのホルモ ンを分泌させる源は、卵胞の顆粒膜細胞であり、軽種馬では排卵前の卵胞は直径5cmにも達 する。一方、良好な発情徴候がなく、卵胞直径が3.5cmに達しない状態では、交配が難しい。  
検査方法:馬のような大型の家畜動物では、肛門から腕を肩まで挿入し、生殖器の状態を検査 する直腸検査が有効である。超音波診断装置を同時に使用すると、卵胞の直径や黄体の有無、 子宮状態の把握など、より客観的な検査が可能となる。  
治療方法:非繁殖シーズンに卵胞発育を迅速に促す効率的な方法は、現在のところ皆無であろ う。繁殖シーズン前から養分要求量に見合う栄養を与えること、黄体ホルモンを10日〜2週間 経口投与し、投与終了後の卵胞発育を誘起する方法、ドパミン拮抗剤の投与などが報告されて いる。また、最新の報告では、リコンビナント馬FSHが開発され、これまで難しいとされて きた、馬の卵胞発育促進に効果があることが報告されている。 交配を希望する2ヶ月前からのライトコントロール法(長日処理法、図7)は、脳下垂体からの 性腺刺激ホルモンの分泌を亢進させ、卵胞の発育を促す上で極めて有効である。多数の馬を安 価で簡便に管理することができるが、繁殖シーズン前にあらかじめ実施することが重要である。  
雌馬のライトコントロール法
 ◇ 12月20日(冬至付近)から、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作成。一般的な飼養環境
  においては、たとえば朝5時から朝7時30分頃まで馬房内で点灯し、昼間は扉を開ける
  など適当な明るさが確保できるように管理し、続いて収牧後夜19時30分まで点灯する。
  照明は60-100ワットの白色電球(下部が100ルクス程度)を馬房の中央天井付近、また
  は高さ2.5-3.0m付近に設置。蛍光灯でも問題ない。点灯、消灯はタイマーで作動させ開
  始終了時間を正確にする(時間がずれると効果がない)。
 ◇ 24時間照明すると逆効果となり、一定時間の「夜」が必要である。ボディコンディショ
  ンスコアとして6.0前後に維持されていると効果的である。
 ◇ 早期に受胎したとしても、ライトコントロールにより黄体機能が賦活化されるため、妊
  娠維持に効果がある。3月下旬まで継続すべきである。
 
   図7 ライトコントロール法を実施している様子  
4)排卵障害  軽種馬生産では交配作業は人の管理化で行われる(図8)。一般に排卵前48時間から交配後 12時間以内に交配が行われる必要があり、交配時期と排卵時期が接近していると受胎率が高い とされている。  交配から2日後に排卵していない場合はその翌日に再度交配する。一方、人気種雄馬との交配 は一発情につき一回に限られることが多く、排卵時期と交配ができるだけ近くなるように超音波 診断装置を用いて繁殖検査の精度を高めるとともに、排卵誘発剤を利用する。  
   図8 サラブレッドにおける交配の様子  
原因:脳下垂体からの黄体形成ホルモン分泌不足または卵巣でのホルモン感受性の低下によると 考えられている。また、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)の繰り返しの使用(1シーズン3回 以上)も排卵障害の原因となるという報告もある。  
症状:軽種馬生産では交配後2日の排卵確認時に排卵していない場合には、受胎の可能性が低下 する。その翌日に排卵していなければ、連続交配を行う必要がある。  
検査方法:排卵確認は直腸検査にて行われる。排卵後に形成される出血体とよばれる組織が排卵 前の卵胞に触診上類似しているため、超音波診断装置による確定診断が望ましい。また、排卵す ると予想された卵胞に超音波像検査により点状模様が現れることがあり、persistent anovulatory follicle、すなわち無排卵に終わる卵胞が見られることが報告されている。  
治療方法:同じ繁殖期にあっても、3、4月ごろの早春では排卵遅延が多いため、交配適期を選 択する際は十分注意を要する。発情徴候が良好で、主席卵胞が直径3.5cm以上の場合には、hCG (1500-2500単位)や合成GnRH製剤である酢酸デスロレリンの投与により投与後36−48時間 頃に排卵する。交配時あるいは交配前日の投与が有効である。また、排卵すると予想された卵胞 が無排卵に終わった場合に、2番目に大きな卵胞が発育し、排卵することがしばしば認められる ことから、発情の検査を持続し、連続して交配することが効果的であろう。  
5)妊娠鑑定  競走馬などの生産における交配時期は慣例的に7月上旬までとなっており、この限られた期間 に効率よく種付け・受胎させることが望まれている。超音波エコー検査の普及、発展により、排 卵後わずか2週間という早い時期に妊娠鑑定が可能となっているが、馬よりも妊娠期間が短い牛 においては、受精後1ヶ月以上を経過したのち、ようやく初回妊娠鑑定が可能となる。馬の生産 現場で行われている妊娠鑑定は、1)双胎妊娠を発見し、適切な減胎処置(双子の1方を破砕す る処置)を実施するため、および2)非妊娠と診断された場合の次回発情での交配を円滑にする ための管理方法としての意義が大きい。着床が受精後40日と遅い動物である馬の胚は、着床前の 時期における状態が不安定であり、早期胚死滅が約5-15%の割合で発生すると考えられている。  
(1)試情による妊娠の推定  この方法は、何らかの理由により、直腸検査が困難な場合に用いる、もっとも簡単な方法であ る。前回の最終交配後、試情が見られなくなったことを確認し、その後次回発情回帰予定となる 18日〜22日頃に試情検査を行う。この方法は、確定診断とはならないが、特殊な機器や獣医師 を必要としないことから、管理状況によっては有効となる。  
(2)触診による妊娠鑑定  獣医師による直腸検査法のひとつである。少なくとも最終交配後3週間を経過し、胎胞の固着 部位となる左右子宮角の基部に一定のふくらみとなって触診できることをもって妊娠とされる。 双子の減胎処置を実施するには診断が遅くなるため、超音波診断装置を用いたより精度の高い 妊娠鑑定が必要とされる。  
(3)超音波検査による妊娠鑑定  獣医領域における超音波診断装置の利用は、馬の繁殖領域に始まると言われており、とくに双 子の診断に威力を発揮した。競走馬生産では、超音波診断装置(エコーと呼ぶことがある)によ る妊娠鑑定が主流である(図9)。早期妊娠鑑定により、双胎妊娠を発見し、受精後16日よりも 前の段階、すなわち胎胞が子宮内に固着する前の時期に減胎処置を実施することが重要である。 また、非妊娠と診断された場合に、再発情が回帰していることを併せて診断し、次回発情での交 配を円滑にするための管理方法として有用である。  交配後5週の妊娠再鑑定は、後述する「早期胚死滅」をチェックするため、また双子でないこ とを最終的に診断する(6週目以降に胎盤が形成されると、発情が誘起できないため、同年の受 胎が難しくなる)ために有効である。  
   図9 超音波診断装置による妊娠鑑定、受精後12日の胎胞  
(4)ホルモン測定による妊娠鑑定  妊娠100日以降には、胎盤形成が完成し、胎盤から分泌されるステロイドホルモン量が上昇する。 エストラジオール(E2)およびエストロンサルフェート(E1S)は、卵巣と比較すると、胎盤からの分 泌が圧倒的に優位であるため、非妊娠時のそれぞれ約20倍、100倍程度の濃度で検出される。とく にE1S測定は、E2濃度では非妊娠と妊娠の区別がつかない妊娠35日頃からすでに診断法として使 用できる。海外では、直腸検査が不可能な馬に対する妊娠鑑定法として、簡便なE1S測定キットが 販売されているが、日本での需要は少なく、入手が困難である。ホルモンの測定には、臨床検査セ ンターや研究機関による実施、または試験研究用として発売されている測定キットを用いる必要が ある。  
5)双子と減胎処置  馬の生産、とくに軽種馬生産では、双子になった場合、およそ86%は流産、死産、あるいは虚弱 子の出生となり、双子は生産性を大きく低下させる要因であると知られている。一方、英国からの 報告では、よく管理されたサラブレッド雌馬では、およそ37%に2つの卵が排卵される「2排卵」 が起こり、その結果交配後15-16日の妊娠鑑定時におよそ16%が双子と診断されるといわれてい る。わが国で行われた調査においても、初回妊娠鑑定で妊娠と診断された馬のうち11%が双子で あると診断されている。そのような背景から、軽種馬生産では、早期に妊娠診断を行い、双子に ついて減胎処置を行うことが重要な獣医療の一つとなっている。 超音波エコー検査によって子宮内に描出された2つの胎胞のうち、小さい胎胞を獣医師の手指およ び掌により破砕する「用手破砕法」が一般的である。受精後16日を越えると、胎胞が子宮角基部に 固着し、あるいは2つの胎胞が接着し、剥離することが困難となり、また受精後13日より前では胎 胞の大きさが十分でなく破砕が困難であることから、受精後14-16日に実施することが有効である。 その他、食事制限法、経膣吸引法、経腹穿刺法、胎子頚椎脱臼法など、用手破砕法が何らかの理由 で実施できなかった双子症例に対する減胎方法が研究されているが、いずれも成功率は低下する。 双胎を予防するために、排卵後14-16日に正確に超音波検査を実施することが重要である。  
6)早期胚死滅  超音波検査の普及により、交配後わずか2週間という早い時期において妊娠鑑定が可能となった が、その後の再鑑定によって胚が消失する現象いわゆる早期胚死滅(early embryonic loss)が 生産率の低下を招いている。胚という言葉は、一般に着床前の器官形成が十分なされていない状態 に使用され、馬では妊娠40日頃を境に胚と胎子という言葉を使い分けている。馬の生産者は(胎子 が)「消える」という言葉を使うが、妊娠40日以内における胚の死滅を獣医学用語として早期胚 死滅と呼んでいる。  馬よりも妊娠期間が短い牛(280日)においては、受精後30−35日でようやく初回妊娠鑑定が 可能となる。一方、馬の妊娠鑑定は、早いものでは受精後10日で可能である。馬の妊娠診断が、 交配後14-16日という早い時期に行われる第一の理由は、双胎妊娠を事前に見出し、減胎処置を 行うためである。着床が受精後40日と遅い動物である馬の胚は、着床前の時期における子宮内で の状態が不安定であり、その後の再鑑定によって胚死滅に陥る機会は必然的に増加する。  これまでの報告では、サラブレッド生産におけるシーズン終了時の受胎率は85%程度とされて おり、比較的高い受胎率を示しているが、実際の生産率は69-79%と低く、この損耗は妊娠初期に 認められる早期胚死滅や妊娠中期-後期に認められる胎子喪失(流産、死産等)に起因する。早期胚 死滅率は3.0-12.2%と報告されており、その値は国、地域、飼育環境により異なるが、米国ケン タッキー州の優れた飼養管理体制においても9.8%の早期胚死滅が認められるほど、大きな問題と なっている。  
原因:早期胚死滅の原因は以下に示すように多数の複合的な要因からなると思われる。  
早期胚死滅の原因
 子宮の炎症に起因するもの:慢性子宮内膜炎、卵管炎、免疫機能不全、分娩後子宮機能、
 細菌感染、若齢、高齢、子宮内シスト、
 子宮の状態(血流)に起因するもの:ストレス、低栄養状態、泌乳、双子、麦角アルカ
 ロイドを含む飼料の摂取、カビ毒、
 卵子の状態に起因するもの:卵子の加齢、排卵後受精、父母の遺伝的影響、
 卵巣機能に起因するもの:黄体形成不全、プロジェステロン欠乏
 
症状:馬の早期胚死滅の発生率は、得られたデータの時期や国、地域、品種によって異なる数字
が報告されているが、およそ10%の割合で発生すると考えられている。
早期胚死滅に陥った際の問題点は、その後発情が回帰せず、いわゆる偽妊娠の状態が持続するこ
とにある。妊娠5週に早期胚死滅と診断された34頭のうち、血中プロジェステロン濃度が1ng/ml
を示した症例、すなわち発情期にあると思われる馬は2例のみであった。また、妊娠5週前後に早
期胚死滅に陥った4例の血中プロジェステロン濃度の推移を調べた報告によれば、プロスタグラン
ジン製剤を投与しない限り、プロジェステロン濃度が5ng/ml程度でその後も推移したと報告され
ている。Gintherは、馬では偽妊娠がしばしば起こり、その原因の多くは母体が胚を認識した後に
胚死滅に至ることにあると述べている。同様の現象は、馬の子宮内に直径2cmのプラスチックボ
ールを挿入すると、約70%の馬で黄体が退行しないという現象に類似している。したがって、馬
では子宮内での物理的な刺激が妊娠認識の要素のひとつとして考えられている。
 2007-2009年に実施された生産地疾病
等調査研究成績によると、受胎した馬の14.7
%はなんらかの理由で生子の出生に至らず、
受胎馬の5.8%は妊娠5週以内に胚死滅が起
こっている。
 馬生産者にとって、早期胚死滅は不受胎
以上に厄介な繁殖障害であることが多い。
早期胚死滅が起こっていても、明瞭な発情
が回帰することは少なく、気がつかない場
合も多い。5週目の妊娠再鑑定によって早
期胚死滅が発見されれば、すみやかに発情
を誘発する必要があるが、結果的におよそ
2ヶ月間のロスとなる。効率的に繁殖管理
を行うためには、初回の妊娠鑑定だけで終
わることなく、少なくとも交配後5週頃で
の妊娠鑑定を行うことが重要である。
 
検査方法:胚死滅の診断として、子宮内に前回見られた胚胞がその後2回目以降の検査によって消 失していないかを超音波画像診断装置を用いて検査することが最も簡便である。また、予想される 胚の大きさより小さい場合、あるいは、本来のあるべき形状と異なっている場合には、2,3日後 に再度検査をする必要がある。  胎齢10-20日においては、胎胞直径が1日あたり2-3mmの増加が見られることから超音波画像 診断装置による1-2日間隔の2回の検査により診断可能である。胚は、子宮内シストと類似してお り、あらかじめシストの位置や大きさを把握しておくか、2回以上の検査で胚の発育状態を確認し て診断する必要がある。  胎齢20-30日にかけて、胎胞の直径が25mm前後で維持され、ほとんど変わらないため、大き さの変化をもって胚の成長を見ることは難しい。この時期においては、卵黄嚢量の減少と尿膜嚢量 の増加により、胚が南極方向から北極方向へ移動することが特徴となる。この様子を2-3日間隔の 超音波画像診断装置による検査によって描出することができれば正常な妊娠といえる。  胚の心拍が描出可能な胎齢30日以降においては、胚の心拍を描出または計測することが有効で ある。胎齢5週の心拍数は約165回と、成馬、子馬に比べて極めて高い。Mモードあるいはドプラ モードを備えている超音波診断装置を用いることにより心拍数が簡便に測定できる(図10)。  
   図10 カラードプラ超音波診断装置による胎齢35日胎子心拍の様子。  
治療・予防方法:生産地疾病等調査研究成績によると、早期胚死滅の発生要因として、1)高齢 (15歳以上)、2)体重やボディコンディションスコアが減少した、3)分娩後初回発情で交配 し受胎した、という条件の雌馬に多いことが示されている。したがって、早期胚死滅を予防する ためには、分娩後初回発情での交配をできるだけ見送るとともに、分娩後から増加する養分要求 量に見合う栄養管理をすることが重要である。一方、早期胚死滅を完全に予防することは難しく、 いかに胚死滅を発見し、早期に再度交配を行うかが重要であろう。  
7)妊娠の維持 サラブレッドの妊娠期間は、多くの教科書で335日(11ヶ月)と記されている。サラブレッドで は、342±10日(平均±標準偏差)と従来の報告より長いことが示されている。これは改良や栄 養管理が進み、出生時の重量が従来よりも大型化している可能性が示唆される。個々の妊娠期間 はばらつきが大きく、長いものでは1年以上の妊娠期間を経て、元気な子馬を産むことも多い。 とくに母馬に異常がなければ、分娩が遅れていても12ヶ月を過ぎるまでは見守ったほうがよいと 考えられる。一方、早期胚死滅などで非妊娠となっている場合もあることから、早めに獣医師に よる妊娠鑑定を実施したほうがよい。  青草に恵まれた状態で放牧される妊娠馬は、豊富な青草を食し、体重を増すとともに、胎子の 成長を支え、冬に備える。馬の胎子は、妊娠200日を越えると大きくなりはじめ、とくに分娩前 3ヶ月では急激に大きくなり、それに伴って、エネルギー、たんぱく質、ミネラル、ビタミンな どの要求量も増加する。妊娠期の養分要求量については、本稿の馬の栄養管理および軽種馬飼養 標準(アニマル・メディア社発行 日本中央競馬会 競走馬総合研究所 編)等を参照されたい。  妊娠期には、妊娠維持に必要なホルモンの分泌源が黄体→副黄体→胎盤と切り替わり、ホルモ ンバランスが崩れやすいといわれている。在来種は別として、改良の進んでいるサラブレッド妊 娠馬の管理においては、冷たい秋雨の降る11月ごろは夜間放牧を控えるなどの工夫が必要となる。  
8)流産  馬の流産は、およそ5-10%の馬に発生し、妊娠初期での早期胚死滅、早期流産では気がつかな いことも多い。流産という言葉は、一般に妊娠のおよそ9割(300日頃)に満たずに母体内で死 亡した結果、娩出された胎子が確認された場合に用い、それ以降は死産という言葉を用いること がある。それゆえ、実際に流産であるか、死産であるか、あるいは分娩直後に死亡したものかは、 人間による判断となる。流産にはいくつかの原因が考えられ、1)細菌、カビの感染によるもの、 2)ウイルス感染によるもの、3)双子妊娠によるもの、4)臍帯捻転によるもの、5)母体、 胎子のホルモン分泌低下によるもの、6)その他原因が特定できないもの、が挙げられる。米国 においても6)の原因不明が20-50%を占めると報告されている。  一般的には、馬の胎盤構造は、動物の中では最も子宮との接着が緩やかである。馬の流産は、 これ以上胎子が子宮内で発育すると、胎子のみならず母体にも悪影響がでることを避けるために、 胎子を排出しようとする一種の生理機構ととられることもできる。胎盤の細菌感染や、双子によ る流産の場合、乳房が腫脹し、血中プロゲスチン濃度が上昇する点も含め、分娩時と同じ経過を たどることが多い。  流産が発生した場合は、馬鼻肺炎ウイルス、馬パラチフス等による伝染性疾患の可能性がある ことを前提として対応する必要がある。かりに感染症でなかったとしても、あらかじめ消毒、防 疫を徹底する心構えを持つことが、伝染性流産の蔓延を予防する最大の道である。流産に気がつ いたら、速やかに獣医師に連絡し、流産胎子に接する者を限定し、馬房の前に消毒液を入れた消 毒槽を用意する。以後馬房を出入りする際は、必ず長靴を消毒する。流産胎子および胎盤の廃棄 をプラスチック製のバケツなどに入れ、羊水の漏れがないようにする。胎子の廃棄については、 獣医師または管轄家畜保健衛生所の指示に従う。流産した母馬は、しばらくの間、他の馬との接 触を避ける。寝藁、長靴、つなぎなどの羊水付着部分の消毒を十分行う必要がある。  妊娠馬が流産を引き起こす病原体に感染しないように、きゅう舎の前に消毒槽を用意し、長靴 の消毒を行うなど、防疫に対する一定のルールを牧場で作成し、実行するとよい。サラブレッド 生産では、妊娠7ヶ月以降に馬鼻肺炎ウイルスに対するワクチンを数回接種することが推奨され ている。  
9)分娩 (1)難産の予防  分娩前の軽い運動は、お産を軽くし、難産を予防するために有効である。最近は、分娩時期が 厳冬期と重なることがあり、放牧地での運動量が低下する。これを補うのが引き運動やウォーキ ングマシンによる運動で、繁殖馬の負担とならない程度(時速4Hで20分)で実施する。この際、 高齢馬や蹄の異常を含む運動器疾患をもつ馬に対しては時間や速度を調整する。北海道では、放 牧地の雪が解け青草が生え始める5月頃になると、自発運動が盛んになるため、分娩前の強制運動 の必要性は薄れる。 (2)分娩徴候のチェック  分娩前2週間〜数日までの変化:乳房の腫脹、腹部の膨張、食欲低下、臀部の下降、血中プロ ジェステロン値の上昇。  分娩前数日〜直前までの変化:乳房の腫脹、乳ヤニ(図11)、射乳、旋回運動、体温低下、頻 尿、発汗、陰部の腫脹、血中プロジェステロン値の下降、乳中カルシウム濃度上昇、乳中Brix値 の上昇、乳中pHの減少。  
   図11 乳ヤニの付着、これにより3日以内に90%が生まれるといわれる。一方、乳ヤニが付着しない馬もいる。  
(3)分娩監視  軽種馬生産では、分娩が近づいてくると、必ず分娩監視を行う。馬のおよそ9割は夜に起こる ことから、生産者は分娩シーズンになると十分な睡眠を取ることができない。家畜のなかで馬ほ ど分娩時にしっかりと監視体制をとる動物はいないであろう。小規模の競走馬生産牧場にとって は、安全な出産が生活を左右する。安全な分娩をおこなわせるためには、まず分娩の開始を早期 に発見することが重要である。馬房内での分娩監視には一般に監視カメラとテレビモニターが使 われて、テレビモニターを居住区域に設置する。これにより、分娩監視のためのきゅう舎へ定期 的な巡廻をおこなわず、もっぱらモニターを通して夜間の監視を行うことができる。一方、モニ ターカメラを利用していない牧場では、出産が予想される夜間はきゅう舎に寝泊りし、分娩監視 を行うこともある。  
(4)分娩時の対応  あらかじめ品質のよい寝藁を厚めに敷いておくことは、子馬の起立を助け、臍からの感染や母 馬の子宮感染を予防することになる。準備品として、尾巻き(バンテージ)、消毒薬、介助用ロ ープ、介助用軍手、バスタオル、麻ヒモ、酸素ボンベ、浣腸、人口哺乳器、直腸検査用手袋など が必要となる。  破水がひとたび起これば、1時間以内には子馬の誕生となる。分娩は母馬の陣痛を伴い、胎子 が骨盤内を通過しようとする時は、母馬の発汗が著しく、腹圧を上げるために呼吸が著しく大き くなる。しかし、早めの分娩介助は、逆に難産を引き起こすことがある。あわてずに、自然に近 い形でお産を進めることが長期的な馬産を考える上でもっとも重要である。  
(5)胎位、胎向、胎勢   馬が足胞(羊膜)を出した状態で母馬が横臥しているときには、十分に安全を維持できる体勢 を整えて、清潔な腕を膣に入れ、羊膜の上から前肢、頭部を確認することが好ましい。通常、前 肢は球節面が前後にずれているため、先に一方の脚が触診されるのが一般的である。問題ない場 合は、馬に任せる。一方、前肢が触れなかったり、まれに後肢が触れた場合(蹄底が上を向いて いる場合が多い)、羊水に多量の鮮血が混じっている、あるいは黄色に濁っている場合(胎便) などは、早めに獣医師に連絡するなど、迅速な判断が要求される。  胎子の子宮内(産道)での状態は、胎位(presentation)、胎向(position)、および胎勢(posture) によって表される。胎位は、胎子の長軸と子宮縦軸との位置関係で、家畜では頭位、尾位、横位 となる。胎向は、胎子の長軸と子宮縦軸の回転状態を示し、家畜では胎子の背中が向く方向に対 して下胎向と上胎向および側胎向に分けられる。また、胎勢は、母体の方向とは無関係な情報と して表され、前肢屈曲、頭部屈曲など、難産の度合いが高い。分娩直前までは頭位下胎向、ある いは頭位側胎向、すなわち頭部が子宮頚管側に位置し、仰向けか横向けの状態で子宮内にとどま っていることが多い。産道を通過する直前に、胎子はスクリューのように回転して上胎向へと変 化する。先に頭部が回転し、後肢は遅れて回転するため、早すぎる分娩介助は後肢の娩出を妨げ、 難産を引き起こす原因となる。問題がなければ、子宮の収縮、産道の拡張、腹圧の上昇が進み、 胎子は自然に娩出される(図12)。  
   図12 自然分娩の様子。  
(6)早期胎盤剥離  陰部から赤い胎盤(赤い袋、レッドバック)が見えた際は、子宮と胎盤の早期剥離により、ガス 交換ができない状態であるため、胎子が低酸素状態にあることが多い(図13)。発見が早ければ 助かることも多いが、発見が遅れると新生子の死に至る。獣医師の到着を待たずに、指示を仰ぎ、 陰部から露出されている赤い胎盤の中心にある白い星状の部分を破り、胎子胎膜を露出させる。  続いて羊膜を破り、胎子前肢を確認後、できるだけ早く牽引する(自然娩出を待たない)。  
   図13 正常な分娩経過に見られる足胞(左)および破水せずに赤い胎盤が娩出される早期胎盤剥離の様子(右)  
(7)胎子娩出  一般に出産は、破水後15-45分に自然に新生子が娩出される。介助をした場合、子馬をすべて 娩出させずに、後肢(飛節)が膜に包まれ、母馬の産道に新生子の後肢が残っている状態で牽引 をとめるべきである。自然分娩の際は、この状態が維持されている。子馬への血液供給を無駄に しないように、へその緒が胎子娩出後5分以上切れない方が好ましい。娩出後に、臍帯を指で軽 く触ると、拍動が消失していく様子がわかる。母馬が娩出後起立しないように、しばらく安静に させるが、起立してしまうこともある。へその緒が切れたあとはイソジン液などで消毒する(24 時間以内に4,5回、最初はこまめに行う)。  しばらく安静にさせたのち、新生子の体に付着している羊水をタオルで拭く(20分程度)と人 間の受け入れやすいという報告がある。羊水は親にもなめさせ、母であることを自覚させる。親 の子なめは、自然界では新生子の血流や神経系の促進、消化管運動の亢進、起立の促進、保温な ど、新生子におってプラスに働く要素となる。厳冬期にはこの限りではなく、早めに拭くことも 必要である。  
(8)胎盤停滞  完全に排出されていない胎盤(後産)は、適宜、結びをいれ、母馬が後肢で踏みつけてちぎれ ないようする。胎盤の一部が子宮内に残ると、子宮内に細菌が繁殖する好条件となり、子宮内膜 炎、産褥熱、さらにはエンドトキシンショックによる蹄葉炎へと発展することがあるので注意を 要する。胎子娩出後90分以内に胎盤が自然に排出されることが理想である。6時間以上排出され ない場合は、獣医師の指示を仰ぎ、オキシトシン25−50単位の筋肉注射を排出されるまで実施 する。胎盤停滞が12-24時間続いた場合は、用手法により無理な力がかからない程度にゆっくり 牽引し剥離する。胎盤停滞に伴って発熱した場合、抗生剤、抗炎症剤の投与を適宜行う。  
(9)初乳  人では、母体血液が胎盤絨毛に直接接するため、新生児は母体の抗体(免疫グロブリン)を胎 盤から獲得する。一方、馬は、胎盤と子宮の接着が緩い構造(上皮絨毛胎盤)をしており、母体 の血液と胎子の血液が直接交わることがない。したがって、子馬にとって、母体の免疫グロブリ ンは、すべて初乳から消化管を通して吸収する必要がある。馬の移行抗体は初乳により子馬に移 行する。分娩後12時間以内の初乳には、免疫グロブリンが豊富に含まれる。また、子馬の消化管 は、出生後12時間以内は、大型分子を消化せずにそのまま吸収する能力を有しているため、免疫 グロブリンを直接吸収することができるが、生後12時間頃から消化管粘膜の形状に変化が起こり、 免疫グロブリンの吸収が不可能となる。初乳から移行抗体を得た新生子は、その後自身の免疫応 答が形成されるまでの約2ヶ月間、外部からの感染に対する抵抗力を得ることができる。初乳中 に産生する免疫グロブリン(IgG)の量は、糖度計を用いて簡単に推定することができる。吸乳前 の初乳がBrix値20%以上であれば良質であると判断される。また、初乳吸入後の子馬の血中IgG 濃度が400mg/ml以下であると、子馬に十分な抗体が移行していないものと診断される。  上記の理由から、馬が分娩したら、子馬が初乳を6時間以内に自力で飲んだか否かを確認する 必要がある。もし分娩後6時間以内に自力で初乳を吸乳することができなければ、人間が母馬か ら初乳を100-500cc搾乳し、経口注入し、以後状況に応じて獣医師による経鼻カテーテルを用 いた投与が推奨される。サラブレッド生産では、3時間を目途に人工的な初乳の投与を行うこと が多い。  
(10)子宮広間膜血腫  子宮広間膜血腫は、子宮に連絡する血管の破綻を原因とした疾患であり、重度の場合は腹腔へ 出血が広がり、死に至る。一般に、子宮動脈破裂と呼ばれる。多くの場合、分娩時の物理的ある いは血行力学的な作用により分娩直後に発症するが、まれに妊娠後半期にも発症する。本疾患に 対する治療は出血に対する対症療法が中心であり、血圧上昇防止目的での鎮静剤投与、血管破綻 に対する止血剤投与および血液の損失を補うための輸液が推奨されている。破綻した血管に対す る外科的な止血が実施されないのは、症状の急激な進行、血管走行の複雑さおよび出血量の多さ が問題となり生前の破綻部位の探索が難解であるためと推測する。  本病態の詳細な解析や予防・治療法の検討は殆ど行われていなかったが、近年の血管破綻部位 の病理学的検索から、動脈の破綻は子宮本体ではなく、外腸骨動脈から分岐した左右子宮動脈の 基部3-5cmの部位が破綻頻発部位であることが判明した。加齢および度重なる経産による動脈 硬化性変化、動脈走行の解剖学的、組織学的な特徴、さらには分娩時の子宮動脈血流速度の上昇 などが要因となり、高齢馬の子宮動脈の基部が血行力学的に破綻しやすいことが推察される。そ の治療方法はいまだ確立されていない。  
10)分娩後初回発情および交配の是非  雌馬の繁殖特性のひとつとして、分娩後10日程度で排卵し、交配によって受胎することが知ら れている。しかし、分娩後初回発情時は、次回以降の発情と比較して受胎成績が低いことが報告 されており、その原因として卵巣機能障害よりも子宮機能の回復の遅れが不受胎の主な要因であ ると考えられている。  馬は分娩に際して、脈絡膜絨毛の一部がはがれて、子宮内膜に付着して残り、細菌の増殖に好 都合な環境が作り出されるといわれる。分娩後発情は、90%以上が、分娩後5〜12日の間に発情 行動を開始し、分娩後平均10.2日に排卵に至る。排卵が分娩後10日以内に起こると診断された 場合は、この時期での子宮機能の十分な回復がなされず、交配を見送ることが推奨される。さら に、分娩後初回発情で受胎した場合、2回目以降の発情で受胎した場合と比較して、早期胚死滅 率が有意に高くなることが多数報告されている。分娩に際して、無理な力がかからずに胎子、 胎盤が速やかに排出されることが好ましい。  分娩後発情での交配基準としては、13歳未満の繁殖雌馬に絞り、排出された胎盤表面から絨 毛が部分的に剥離していないかどうか、重量が通常より重くないか(軽種馬では6-8kg)、胎 盤が分娩後1時間半以内に排出されたか、超音波検査により炎症産物が子宮内に貯留していない か、などを判断基準とし、交配を考える必要がある。米国のサラブレッド生産においては、9割 以上が分娩後初回発情での交配を見送り、次回発情、または排卵後6日のプロスタグランジン投 与によって誘発された発情で交配することが一般的である。  
             (JRA日高育成牧場 生産育成研究室長 南保泰雄 2011. 4. 1)  

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