馬の生産と繁殖障害
馬の生産は、費用、時間、労力をかける割には効率が低いと言われている。1度に10頭近 くの子供を産む豚や、発情が1年中回帰する牛と比較しても、限られた繁殖季節に交配し、 約1年という長い妊娠期間を経て1頭の子馬を生産することになる。また、受胎したとして も、約15%が流産、難産、虚弱子などの原因により淘汰されている。たとえ無事に分娩した としても、生後2ヶ月間に起こる下痢や肺炎や、競走馬として能力を発揮することができな い程の肢軸異常が認められることも多い。ここでは、一般に行われている馬の繁殖管理と問 題点、その対処方法等について紹介する。
1) 交配から分娩まで 成熟した牝馬は、通常4月から9月にかけて、約3週間間隔で発情を繰り返し、排卵する。 近年、馬の繁殖シーズンは早期化する傾向が高く、2月後半から交配することも多く、それ に伴って管理方法が多様化している。一般に、雌馬を雄馬と交配して妊娠させるためには、 卵巣や子宮などの生殖器官が正常に働き、かつ受胎するにふさわしい条件が整う必要がある。 また、図1に示すように、馬を生産するためには、発情検査→交配→妊娠鑑定→妊娠維持→ 分娩→発情検査という一連の流れの中で、各種繁殖障害や疾患に対応する必要がある。
図1 交配から分娩に至る主な作業とその問題点
2)主な繁殖検査方法 サラブレッド生産において、雌馬を雄馬と交配するためには、雌馬を雄馬に近づけること によって発情状態を検査する方法(試情検査、あて馬検査)と、獣医師が生殖器の状態を直 腸検査をはじめとする獣医学的手法により検査する方法がある。馬のような大型の家畜動物 では、肛門から腕を肩まで挿入し、生殖器の状態を検査する直腸検査が有効である。超音波 診断装置を同時に使用すると、卵胞の直径や黄体の有無、子宮状態の把握など、より客観的 な検査が可能となる。馬の繁殖検査には以下のような方法が知られている(図2)。
・ 試情検査(あて馬) ・ 直腸検査(卵巣・子宮の触診) ・ 超音波検査(卵巣・子宮の画像診断) ・ 膣検査(粘液量、粘膜の充血、子宮頚管の視診) ・ 子宮洗浄(子宮粘膜の刺激、還流液の診断) ・ 内分泌検査(ホルモン診断) ・ 細菌検査、細胞診(炎症、感染診断) ・ 子宮内膜バイオプシー検査(加齢性変化の診断) |
図3 試情検査(あて馬)の様子
図4 直腸検査の様子
図5 発情子宮の超音波エコー像(レモン輪切り像が特徴的)
図6 膣検査の様子
雌馬のライトコントロール法 ◇ 12月20日(冬至付近)から、昼14.5時間、夜9.5時間の環境を作成。一般的な飼養環境 においては、たとえば朝5時から朝7時30分頃まで馬房内で点灯し、昼間は扉を開ける など適当な明るさが確保できるように管理し、続いて収牧後夜19時30分まで点灯する。 照明は60-100ワットの白色電球(下部が100ルクス程度)を馬房の中央天井付近、また は高さ2.5-3.0m付近に設置。蛍光灯でも問題ない。点灯、消灯はタイマーで作動させ開 始終了時間を正確にする(時間がずれると効果がない)。 ◇ 24時間照明すると逆効果となり、一定時間の「夜」が必要である。ボディコンディショ ンスコアとして6.0前後に維持されていると効果的である。 ◇ 早期に受胎したとしても、ライトコントロールにより黄体機能が賦活化されるため、妊 娠維持に効果がある。3月下旬まで継続すべきである。 |
図7 ライトコントロール法を実施している様子
図8 サラブレッドにおける交配の様子
図9 超音波診断装置による妊娠鑑定、受精後12日の胎胞
早期胚死滅の原因 ● 子宮の炎症に起因するもの:慢性子宮内膜炎、卵管炎、免疫機能不全、分娩後子宮機能、 細菌感染、若齢、高齢、子宮内シスト、 ● 子宮の状態(血流)に起因するもの:ストレス、低栄養状態、泌乳、双子、麦角アルカ ロイドを含む飼料の摂取、カビ毒、 ● 卵子の状態に起因するもの:卵子の加齢、排卵後受精、父母の遺伝的影響、 ● 卵巣機能に起因するもの:黄体形成不全、プロジェステロン欠乏 |
症状:馬の早期胚死滅の発生率は、得られたデータの時期や国、地域、品種によって異なる数字 が報告されているが、およそ10%の割合で発生すると考えられている。 早期胚死滅に陥った際の問題点は、その後発情が回帰せず、いわゆる偽妊娠の状態が持続するこ とにある。妊娠5週に早期胚死滅と診断された34頭のうち、血中プロジェステロン濃度が1ng/ml を示した症例、すなわち発情期にあると思われる馬は2例のみであった。また、妊娠5週前後に早 期胚死滅に陥った4例の血中プロジェステロン濃度の推移を調べた報告によれば、プロスタグラン ジン製剤を投与しない限り、プロジェステロン濃度が5ng/ml程度でその後も推移したと報告され ている。Gintherは、馬では偽妊娠がしばしば起こり、その原因の多くは母体が胚を認識した後に 胚死滅に至ることにあると述べている。同様の現象は、馬の子宮内に直径2cmのプラスチックボ ールを挿入すると、約70%の馬で黄体が退行しないという現象に類似している。したがって、馬 では子宮内での物理的な刺激が妊娠認識の要素のひとつとして考えられている。 |
図10 カラードプラ超音波診断装置による胎齢35日胎子心拍の様子。
図11 乳ヤニの付着、これにより3日以内に90%が生まれるといわれる。一方、乳ヤニが付着しない馬もいる。
図12 自然分娩の様子。
図13 正常な分娩経過に見られる足胞(左)および破水せずに赤い胎盤が娩出される早期胎盤剥離の様子(右)
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