DOD(発育期整形外科疾患:Developmental Orthopaedic Disease)
軽種馬が最も成長する時期は誕生してから離乳するまでの期間である。健康な子馬の出生時に おける体重は50〜60kgであり、一般的に離乳が行われる6ヶ月齢には約250kgにまで増加する。 成馬になったときの体重が仮に500kgとすると、出生時には成馬の体重の約10%のものが離乳 時には約50%まで成長することになる。1日あたりの体重増加量は生後2週齢までは1.5kg以上 もあり、その後4ヶ月齢までは1L以上である。このように急激な成長を遂げる軽種馬の子馬に は、骨や腱などに成長期特有の疾患を引き起こすことがあり、このような疾患がDODとして総称 されている。 DODは多数の原因が組み合わさって発症することが多い。その発生要因は、まだ十分に特定さ れていないものが多く、一般的に述べられている原因は、遺伝、急速な成長、アンバランスな給 餌(栄養)、解剖学的な構造特性、運動不足、硬い馬場での運動などである。発育が特に早い当 歳馬や1歳馬にDODがより多く認められるとの報告は多いが、その他の要因との関係は、まだ不 明な点が多い。また、本疾病の最初のステップとして脆弱軟骨の組成、軟骨細胞の分化不全、軟 骨下骨壊死、成長過程の軟骨への血液供給不全などが提唱されている。ここではDODの代表的な 疾患として知られる離断性骨軟骨症(OCD)、骨嚢胞、骨端炎(骨端症、骨端軟骨形成不全)、肢 軸異常、突球、クラブフッド、腱拘縮およびウォブラー症候群について、その病態と発生要因、 対策などについて紹介する。
(1)離断性骨軟骨症(Osteochondritis dissecans: OCD) レポジトリーの飛節のX線所見の項で説明されている通り、飛節はOCDの好発部位である。そ の他、膝関節や肩甲関節、球節も好発部位である(図1)。臨床症状でよく認められるのは関節 の腫脹であるが、跛行を呈することは稀で、一般にヒアルロン酸製剤等の全身投与による保存療 法が選択される。保存療法に反応しない重度の症例では、遊離骨片の関節鏡手術による除去が適 応され、予後も良い。図1 OCD像 左:大腿骨外側滑車稜 右:第1指骨近位背側
(2)骨嚢胞(Bone cyst) 骨嚢胞は、関節軟骨のやや深い部位に嚢胞を生じる疾患で、軟骨下骨嚢胞(Subchondral bone cyst: SBC)と呼ばれることがあり、一般に、骨軟骨症(Osteochondrosis:OC)の一病態と考えら れている。大腿骨の骨頭、第三中手骨あるいは中足骨の内側顆、基節骨(第一指骨)遠位部など の関節面が好発部位である。病因は、関節軟骨の裂傷部への関節液の侵入とともに体重負荷に伴 う水圧により嚢胞が形成される説と、軟骨下骨組織の損傷部の炎症性物質に起因する破骨細胞の 活性化と骨吸収から嚢胞が形成される説があるが、軟骨内骨化障害や原発性骨内線維増殖症など が原因であるという説も提示されている。骨嚢胞による症状は、軽度から中程度の跛行を示すこ とが多く、嚢胞の出来た部位により腫脹はあまり顕著でないことがある。診断は、X線検査によ り、嚢胞の確認、嚢胞周囲の組織像や関節軟骨面を調べる(図2)。治療法は、非ステロイド系 抗炎症剤やコルチコステロイドの関節内投与であるが治癒率は低い。関節鏡手術による骨嚢胞の 掻爬術も行われるが、骨嚢胞を掻爬すると内腔が拡大する可能性もあるため、近年は関節鏡下の 嚢胞内線維状層へのステロイド注入が行われている。ステロイド注入による治療の目的は、局所 ステロイド投与による線維状層の除去、また層内へのサイトカイン遊離に関連した炎症の調節に よる治癒の促進である。図2 大腿骨外側滑車稜に認められた骨膿胞像
3)骨端炎(Physitis) 骨端炎は、骨端症(Epiphyseopathy)あるいは骨端軟骨形成不全(Physeal dysplasia)と 呼ばれることがあり、長管骨の骨幹端軟骨に起こる病変で、軟骨から骨組織へ置換する際の骨化 異常であり、骨軟骨症と同様に説明される(図3)。症状は関節辺縁部の膨化と熱感を示し、疼 痛や跛行を伴い、2次的にクラブフットを併発させる場合がある。骨化が完了して最終的に関節 や肢軸に変形がなければ予後は良好である。図3 骨端炎 球節および腕節の骨端炎像
4)肢軸異常(Angular limb deformities)、突球(knucked over)、クラブフッド(club foot) 肢軸を観察して中心軸がねじれていたり、歪曲したりしている状態を肢軸異常という。肢軸異 常には様々なパターンがあるが、主なものは湾膝、繋軸峻立、X状姿勢、外向姿勢などである(図 4)。多くの子馬は生まれた直後はバランスをとるためにX状姿勢を取り、蹄尖部が浮いている状 態(浮尖)であることが多いが、8週齢頃までに、体重の増加にともない腱や靭帯が伸展し姿勢 も整う。この頃を過ぎても姿勢の異常が残っている場合は、装蹄療法による姿勢の矯正や、運動 制限、薬物療法なども試みる必要がある。腕節や球節部の外反がさらにひどい重症例には、骨端 板における長骨の成長を抑えて内外のバランスをとることを目的に、内側の骨端板を挟む様にス クリューを挿入する外科的療法を行う必要がある。成長著しい3ヶ月齢から5ヶ月齢の間には、様 々な肢軸異常が認められることが多い。日々のチェックを怠らないこと、装蹄師による的確な矯 正削蹄をこまめに受けることが重要である。図4 子馬に認められた肢軸異常 a:湾膝 b:繋軸峻立 c:X状姿勢 d:外向姿勢(左前肢)
浅指屈腱が拘縮して繋が極度に立ち、重度では逆に屈曲して球節前面が接地する状態の肢を突球 (図5)と呼び、蹄の蹄尖壁角度が急勾配になって峻立した肢をクラブフットという。クラブフッ トは、3 ヶ月齢ごろの子馬で発症が多く認められる。特徴的な症状は、対側蹄との蹄角度差、肢軸 の前方破折、蹄冠部の膨隆、蹄尖部の凹湾、および蹄輪幅の増大である。クラブフットは、繋部の 峻立の状況により4段階にグレード分け(Dr. Reddenの分類)されている(図6)。これを引き起 こす原因は、遺伝、急速な発育、放牧地の表層の性状、さらには栄養の過多やアンバランスなどが 考えられており、疼痛は発症の大きな要因である。子馬は骨や筋肉が未発達なため、上腕、肩部、 球節あるいは蹄などに痛みがあると、痛みを和らげるために筋肉を緊張させる。特に球節(骨端炎) や蹄に疼痛を有する場合、負重を避けるために関節を屈曲させ、その結果、深屈腱支持靭帯が弛緩 する。この状態が一定期間続くと、深屈腱支持靭帯の伸展する機能が低下し、廃用萎縮の状態とな り、疼痛が消失しても深屈腱支持靭帯の拘縮が残存し、クラブフットを発症するのではないかと考 えられている。治療は、筋弛緩作用のある薬物の投与、運動制限(小パドック)および矯正削蹄な どが行われる。クラブフットの処置で最も重要なことは、早期の発見および早期の処置・治療であ る。
図5 球節が著しく前方に突出した突球(矢印)
図6 クラブフットのグレード(Dr. Reddenの分類から)
グレード1・・・ |
蹄角度は、正常な対側肢よりも3〜5度高い。蹄冠部の特徴的な膨隆は P2とP3間の部分的な脱臼に起因する。 |
グレード2・・・ |
蹄角度は、正常な対側肢よりも5〜8度高い。蹄前部より踵部の幅が広い 蹄輪幅を認める。通常の削蹄により蹄踵が接地しなくなる。 |
グレード3・・・ |
蹄尖部の凹湾。蹄輪幅は蹄踵部で2倍。レントゲン画像上、P3の脱灰が 現れ、辺縁部のリッピングが認められる。 |
グレード4・・・ |
蹄壁は重度に凹湾し、蹄角度は80度以上となる。蹄冠の位置は踵や蹄尖 と同じとなり、蹄底の膨隆を認められる。レントゲン画像上、P3は石灰 化の進行により円形に変形する、ローテーションも起こる。 |
図7 ウォブラー症候群における頸椎の脊柱管狭窄症
第4および5頸椎前関節突起が上方に突出し、脊柱管腔が細くなり、脊髄を圧迫(矢印)
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1. |
馬の動きがよく、臨床的な症状を示さなければ、OCDであるという理由だけ で、その馬の購買をあきらめるべきではない。 |
2. |
大半の馬は、その成長過程のある時期に、ひとつ、または複数のOCかOCDが あるものだ。 |
3. |
多くのOCDは、馬が成長するに従って消失する。 |
4. |
OCDの消失は、ヒアルロン酸製剤などのサプリメントによって促進される。 |
5. |
消失しないOCDの大部分も、競走成績に影響を与えることはない。 |
6. |
馬がOCDのために臨床的な症状を示していなければ、その後もトラブルにな る可能性は少ない。 |
7. |
後に重大な問題になる可能性があるOCDの大部分は、関節鏡視手術によって 取り除くことができる。 |
8. |
OCDの存在部位あるいは大きさが、調教または競走において重大な問題につ ながる可能性があるかどうか判断する場合、知識が豊富な獣医師からの情報 が重要となることがある。 |
9. |
特定のOCD(およびその他の様々な獣医学的な)状況と、後の競走成績との 関係についての研究は、十分に行われていない。 |
10. |
獣医学の世界は、研究結果に基づいてOCDの予後に対する評価を行う必要が ある。そして、セリ会社、サラブレッド馬主・生産者協会やコンサイナー・ 商業生産者協会と協力し、その研究の成果を購買者ならびに業界関係者に伝 えていくことが大切である。 |
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