馬の胃潰瘍


馬の胃潰瘍は“沈黙の潰瘍”silent ulcerとも呼ばれており、運動器疾患のように目に見える症状 を示さないので、なかなか注目されることはなかった。しかし最近、馬でも内視鏡検査ができるよ うになり、胃の中が覗けるようになった。そこで、競走馬総合研究所が調査(1996年)を行った ところ、日本の競走馬の85.4%に胃潰瘍があることが明らかになった。欧米の馬も同じような割合 であることが報告されている。
人では「胸焼けがする、あるいは胃が痛い」などといって胃潰瘍を疑うことができるが、物言わぬ 馬では、強い調教をすると疝痛になる、糞便は硬くなく普通である、歯や口腔内に異常はないが食 欲不振が続く、などの症状から胃潰瘍を疑わざるを得ない。
馬の内視鏡検査を行うには、まず、胃の中身を空っぽにするために、検査前の半日の絶食と数時間 の絶水が必要である。また、胃がしぼんでしわしわの状態では検査ができないので、多少の空気を 送ることになる。検査を受ける側としては、事前準備をしなければならないこと、また、胃に空気 を!?といった不安も伴うため、競走馬の世界では人のようには普及していない。しかし、食欲不 振で馬体のコンディション悪くなる前に、早期に内視鏡検査を行いその原因を確かめ、適正な治療 を行うことが望ましい。また検査時、胃に多少の空気が入っても、体外にガスとして排泄される仕 組みになっているので心配はない。検査自体は、経鼻投与(飲ませ)のときの経鼻カテーテルの要 領と同じで、胃内視鏡を鼻から入れて、鼻端から1.8−2m先にある胃の中をぐるりと覗く。実際、 検査にかかる時間は5分程度である。
現在では、抗潰瘍薬の研究も進み、粘膜保護作用のあるものから、テレビのCMでおなじみのH2ブ ロッカー、プロトンポンプインヒビター作用のものまで、多種多様の薬がある。馬にとって、スト レスの多い競走期の環境を考えると、胃潰瘍は競走馬の職業病とも言え、この病とうまくつき合っ てこそ、よりよい競走成績が得られる。
(業務課 遠藤由佳)


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