馬の個体識別
 馬の外貌は個体を識別する際の重要な手がかりとなる。現在、世界各国において馬の個体識別法は 先天的な特徴によっている。これは性、毛色、白斑(はくはん)及び 旋毛(せんもう)(つむじのこと)を 記録する方法によるものがほとんどである。これに加えて、オーストラリア・ニュージーランドでは 凍結烙印(らくいん)を、アジア諸国では焼印(やきいん)を、アメリカでは上唇の裏側に入墨(いれずみ) を行うことで個体の識別の補助手段としている。  馬の流通が国際的になるなかで、馬の取り違え等は重大な問題となるので、これを防ぐために、よ り厳密で普遍性のある馬の個体識別法の確立が急務となっている。このため、世界の競馬開催主要国 からなる国際血統書委員会(ISBC)において血液型検査、DNA検査そして競馬場などの現場で簡単に識 別できるマイクロチップの使用などについて、検討されている。  一方、日本における軽種馬の個体識別は財団法人日本軽種馬登録協会が行っている。その方法は諸 外国のものと比べても少しの遜色もなく、むしろ最も正確・明瞭な方法を採用しているといわれてい る。  ここでは、その財団法人日本軽種馬登録協会によって規定されている「馬の毛色及び特徴記載要 領」を中心に解説する。  血統登録書の書類には、外貌の表記法として、(1)毛色、(2)特徴(頭部 の白斑旋毛四肢の白斑)、(3)その他の特徴、をこの順にしたがって記録することが定められて おり、それぞれについて細かい決まりがある。
特徴の実例を挙げると、下記のようになる。('04.7月現在) オグリキャップ号   サラブレッド 牡 19歳 芦毛  特徴:珠目上・左前小白・以下余白  トウカイテイオー号  サラブレッド 牡 16歳 鹿毛  特徴:流星鼻梁小白断鼻小白断上唇小白珠目二吭搦二髪中浪門右二細長白左後一白     以下余白 マヤノトップガン号  サラブレッド 牡 12歳 栗毛  特徴:流星鼻梁白鼻梁鼻大白上下唇大白珠目上髪中波分後双門左前長白右前一白     後細長白尾根刺毛・以下余白 スティルインラブ号  サラブレッド 牝 4歳 栗毛  特徴:流星鼻梁刺毛鼻梁小白珠目上初地沙流上・以下余白

    1.毛色について Colour、Coat Colour

 サラブレッドやアラブなど軽種馬の毛色は日本軽種馬登録協会によって、次の8種が定められている。         (財団法人日本軽種馬登録協会「馬の毛色及び特徴記載要領」から転載)  
栗毛(くりげ):Chestnut [写真左]
 
 被毛は黄褐色で、長毛(たてがみや尾のこと)は被毛より
 濃いものから淡く白色に近いものまである。
 長毛の白いものは、秋のススキの穂を思わせることから、
 「尾花栗毛」[写真右]と呼ばれているが、登録上はとくに
 区別せず、単に栗毛と表示している。
 

栃栗毛(とちくりげ):Dark Chestnut [写真]    被毛は黒味がかった黄褐色から黒味の非常に濃いものまで  あるが、黒色にはならない。長毛は被毛より濃いものから  、白色に近いものまである。

鹿毛(かげ):Bay [写真]    被毛は明るい赤褐色から暗い赤褐色まであるが、長毛と  四肢の下部は黒色である。栗毛との違いは、長毛と四肢  の下部の色で、栗毛は黒くならない。
黒鹿毛(くろかげ):Dark Bay [写真]
 
 被毛の色合いが黒味がかった赤褐色で、黒味の程度により
 相当黒く見えるものまであるが、眼の周辺、腋、
 下腹及び内股は褐色で、長毛と四肢の下部の色は被毛の
 色の濃淡にかかわらず黒色である。

青鹿毛(あおかげ):Brown [写真]    全身ほとんど黒色で、眼及び鼻の周辺、腋、等が  わずかに褐色である。
青毛(あおげ):Black [写真]
 
 被毛、長毛ともに黒色である。軽種馬には比較的少ない。
 この毛色は、季節により毛の先が褐色となり、黒鹿毛や
 青鹿毛のように見えることがある。眼の周辺、鼻の周辺
 をよく観察して判断しなければならない。

芦毛(あしげ):Grey [写真左]
 
 原毛色は栗毛(栃栗毛を含む)、鹿毛(黒鹿毛・青鹿毛を含む)
 又は青毛等であるが、被毛全体に白色毛が混在し、年齢が
 進むにつれて白色の度合いが強くなるが[写真右]、その進度
 は個体によりまちまちで、その色合いも純白になるものから
 ほとんど原毛色を残したものまである。生時は原毛色にわず
 かに白色毛を混生する程度(特に眼の周囲に多い)で、なかに
 はただちに芦毛と判断しにくい場合もある。

白毛(しろげ):White [写真]    被毛は全体がほとんど白色であり、わずかに有色の斑紋  及び長毛を有するものもある。眼が青色のものもある。  皮膚はピンクで、一部に色素を有するものがある。芦毛  との著しい違いは,生時にすでに全体が白色を呈して  いることである。  平成3年に新しく追加された毛色である。
 
 このほかに、軽種馬以外の馬で認められる毛色には以下のようなものがある。
粕毛(かすげ):Roan
 
 原毛色は栗毛・鹿毛・青毛等であるが、主に頚・躯幹・四肢
 の上部に原毛色と白毛が混在している。芦毛との違いは、
 白毛の生じる部位が限定されること、年齢に関係なく、当歳
 時から色合いが変わらない事である。原毛色により、栗粕毛
 [写真左]・鹿粕毛・青粕毛[写真右]などという。日本では、
 ブルトン種、ベルジャン種、北海道和種などに見られる。

 
月毛(つきげ)(イサベル):Isabel [写真左]
 
 被毛はクリーム色から淡い黄白色のものまである。長毛は、
 被毛と同色から白色に近いものまである。
 国内では北海道和種によく見られる。米国から乗馬として
 輸入されているパロミノ[写真右]はこの毛色に属する。
 イサベル(月毛)の由来はスペイン女王イサベル1世の名前から
 きているとされている。以下は久合田勉著[馬学 外貌篇]から
 の抜粋。『・・・・・・伝説によると「オステンドの攻撃に際し女王
 は神に誓約してその地を占領するまで襯衣(しんい)(肌着のこ
 と)を脱がざる事を以ってした。この誓約をしてから占領する
 までは八ヶ月を要した。女王はこの間、誓約を守ったために
 襯衣は汚垢に染まって黄色に変じた。この事あってより、当
 時黄色をイサベルと呼ぶに至った」と云うのである。・・・・・・』

河原毛(かわらげ):Dun、Buckskin [写真]    被毛は淡い黄褐色からつやのない亜麻色まである。長毛と  四肢の下部は黒色で、鰻線(まんせん)(背すじに現われる色  の濃い線)の現われるものもあり、北海道和種に、この毛色  が見られる。
佐目毛(さめげ):Cremello [写真左]
 
 全身象牙色で、皮膚、粘膜は淡紅白色、眼の虹彩の色は藍色
 [写真右]。北海道和種に見られるが、頭数は少ない。
 昔、この毛色は吉相と考えられ、神社などの神馬として奉納
 された。

駁毛(ぶちげ):Pinto、Painted
 
 体に大きな白斑のあるもので、原毛色により、栗駁毛、
 鹿駁毛 、青駁毛[写真左]という。ただし、白斑部分が
 原毛色部分より多い場合は、駁栗毛、駁鹿毛[写真右]、
 駁青毛という。





      2.特徴について Marking

        (財団法人日本軽種馬登録協会「馬の毛色及び特徴記載要領」から転載)    特徴は先天的に備わっている特徴(白斑、旋毛その他異毛等)と後天的に生じ、生涯消えることがない特徴 (損徴、入墨又は烙印等)があり、これらの表示は次のように行う。   1) 白 斑 White Marking    a)頭 部 face (or Head) Marking (図1を参照してください)   (ほし)(1)  額にある白斑をいい、こぶし大以上のものを大星(おおぼし)(2)、母指頭大以下のものを         小星(こぼし)(3)という。星が2個以上あるときは、その数を記載する。(例:小星二) 曲星(きょくせい)(4)  曲がった星 環星(かんせい)(5)  輪状の星 乱星(らんせい)(6)  輪郭の甚だしく乱れた星 流星(りゅうせい)(7)  星が下方に流れたもの、大流星(8)、小流星(9)、曲流星、環流星、乱流星という。 鼻梁白(びりょうはく)(12・14ほか)  鼻梁にある白斑をいう。鼻骨巾以上の白斑を鼻梁大白(18・20ほか)、                   母指頭巾以下のものを鼻梁小白(13)という。 鼻白(びはく)(12・25ほか)  鼻にある白斑をいう。鼻骨巾以上の白斑を鼻大白(19・20ほか)、母指頭巾                以下のものを鼻小白という。               注:皮膚が白くなくとも毛が白く見えるものは鼻白として記載する。 唇白(しんはく)(21)  唇にある白斑をいい、上唇にあるものを上唇白、下唇にあるものを下唇白という。            鼻骨巾以上のものを唇大白、母指頭大以下のものを唇小白という。白斑が2個以上            あってもその数は記載しない。皮膚の白いもののみを記載する。 (さく)(29)  額より鼻梁を経て鼻に続いている白斑で、その巾が、おおむね一定して、鼻骨巾を保ち          真直なもの。鼻骨巾を越えるものを大作(だいさく)(30)、母指頭巾以下のものを          細作(ほそさく)という。 白面(28)  額より鼻に至る白斑で、顔面の半分以上にまたがるもの又はその巾両眼に及ぶものをいう。 備考 1. 顔に生じた白毛で、白斑をなすに至らない刺毛(さしげ)のうち特に額又は鼻梁にある刺毛を      額刺毛、又は鼻梁刺毛として白斑に準じて記載する。    2. 顔面白斑の詳細区分については例図参照のこと。   図1:  
1:星2:大星3:小星4:曲星5:環星6:乱星7:流星8:大流星9:小流星10:曲大流星
11:乱大流星12:鼻梁鼻白13:流星鼻梁小白14:流星鼻梁白15:大流星鼻梁白
16:流星鼻梁鼻白17:流星鼻梁白鼻白18:流星鼻梁大白鼻梁鼻白19:大流星鼻梁白鼻大白
20:大流星鼻梁鼻大白21:流星鼻梁環鼻大白上唇大白22:大流星鼻梁白鼻梁大白鼻白23:流星断鼻梁鼻白
24:流星断鼻梁白鼻大白25:流星・鼻白26:曲大流星鼻梁白断鼻白27:流星断鼻梁白断鼻白
28:白面29:作30:大作31:環大流星鼻梁刺毛鼻梁大白鼻梁刺毛鼻小白32:環大流星環鼻梁大白鼻白

 b)肢 部 limb (or leg) Marking (図2を参照してください)   微白  蹄冠部にある白斑で、その大きさおおむね母指頭大以下のもの。 小白  蹄冠部にある白斑で、その巾は蹄冠部の半周に及ばないもの。白斑が散在する場合、その数は記載     しない。 半白  肢下部の白斑で、その長さ蹄冠部より管の半ばに達せず、その巾は球節以下において肢の半周以上に     及ぶも全周に達しないもの。    肢下部の白斑で、その長さ蹄冠部より管の半ばに達せず、その巾は少なくとも、球節以下において肢     の全周に及ぶ箇所のあるもの。 長白  肢下部の白斑で、その長さ蹄冠部より管の半ば以上に達し、その巾は少なくとも、管の中央部及び     球節以下において、肢の全周に及ぶ箇所のあるもの。 細長白 肢下部の白斑で、その長さ蹄冠部より管の半ば以上に達し、その巾は管の中央部においては、肢の     全周に及ばないが、少なくとも、球節以下において肢の全周に及ぶ箇所のあるもの。 長半白 肢下部の白斑で、その長さ蹄冠部より管の半ば以上に達し、その巾は肢のいずれの部位においても     全周に及ばないもの。  注:白斑の記載は、左前、右前、左後、右後の順に記載するものとする。   図2:
2) 旋 毛 Whorl、Cowlick    旋毛は下記につき記載するが部位については図3を参照のこと。   (1)珠目(しゅもく)  両眼盂(がんう)の上線より鼻梁中央に至る間の旋毛で、眼の上線より上にあるものを             珠目上(うえ)、目の上線と下線の間にあるものを珠目正(せい)、眼の下線より下に             あるものを珠目下(した)と記載する。2個以上ある場合はその数を、珠目のないもの             は珠目欠(けつ)と記載する。 (2)華粧(けそう)   鼻梁中央より鼻孔に至る間にある旋毛。 (3)頬辻(ほほつじ)  頬にある旋毛。 (4)轡搦(くつわがらみ) 頬の前縁より口角に至る一円にある旋毛。 (5)吭搦(ふえがらみ)  咽喉及び頸(くび)の下縁(頸溝(けいこう)より下)で頭礎(とうそ)から下、頸の上約三分             の一以内にある旋毛。但し、咽喉の真下にあり側面から見えないものは記載しない。             (例:吭搦左、吭搦三) (6)髪中(かみなか)  「たてがみ」の生え際より約3cm以内で、耳下より「き甲」前端に至る部位にある旋毛。             但し、耳を倒した部位内にあるものは記載しない。(例:左髪中、髪中二、髪中左一右二、             右髪中二) (7)頸中(くびなか)  頸にある旋毛で、吭搦、髪中、波分の部位を除く部位にあるもの。(例:髪中に同じ) (8)波分(なみわけ)  頸の下縁(頸溝より下)で、頸礎から上、頸の下約三分の二以内にある旋毛。長さ約10cm            以上のものは波分長(ちょう)という。2個以上あるものは数を記載する。(例:波分二長) (9)双門(そうもん)  胸前両側上部にある旋毛。(左双門、双門左一右二) (10)浪門(ろうもん)  胸前中心線上約3cm巾以内にある旋毛。       注:浪門(双門)が波分の部位まで長く伸びていても、波分長はとらない。波分と浪門(双門)との区分は         旋毛の中心がある部位を起点として採徴する。 (11)柏生(はくせい)  胸前両側下部にある旋毛。但し、柏生がない場合のみ記載する。(例:左柏生欠、柏生欠) (12)(おさえ)   「き甲」にある旋毛。       注:部位と数により押左(右)、押二と記載する。 (13)鐙端(あぶみばな)  肩の後縁と帯径(おびみち)の間にある旋毛。 (14)初地(しょち)  前膊(ぜんぱく)以下球節上縁までにある旋毛。(右初地、初地左一右二) (15)芝引(しばひき)  肋(ろく)の後縁より腹に至る部位で、肘と後膝とを結ぶ線より上方にあり側面より見える             旋毛。 (16)芭蕉(ばしょう)  にある旋毛。但し、旋毛の中心が下縁より約10cm以上上方にあるもののみ芭蕉             上(のぼり)として記載する。 (17)骨正(こっせい)  芭蕉の下方にある旋毛。 (18)後双門(うしろそうもん) 臀(でん)にある旋毛。 (19)沙流上(さるのぼり) 飛節上縁より、球節上縁までにある旋毛。(2個以上あっても数は記載せず、図示する)  注1. 上記以外の旋毛は部位を明記して何々旋毛と記載する。(例:左肩端旋毛)  注2. 波分、初地、後双門、沙流上は中心がなく寄っているものも記載する。  注3. 珠目より上にある旋毛は記載しない。   図3:



       3.その他の特徴について

 前記以外の特徴で次のものは部位を明記して記載する。    1)刺毛   刺毛は頭部及び四肢下部を除き、著しいもののみ記載する。  2)白斑   (頭部・肢部で定めたものを除く。)母指頭大以下のものを小白斑とする。  3)異毛斑  白斑以外の斑紋で明瞭なもの。(例:右臀異毛斑)  4)岩陥(いわおち)   体表の一部が凹陥を呈すもの。(例:左頸岩陥)  5)創傷痕等の損徴 特に明瞭で特徴となるもの。(例:左飛節傷痕)  6)入墨又は烙印  形状を記載する。(例:左股H烙印)  7)その他  輪眼(りんがん)(角膜の周囲が白色で一周しているもの)、又は魚目(さめ)(虹彩の色素を欠き白いもの)         も記載する。  
刺毛
白斑
岩陥
輪眼
備 考   1. 特徴の記載は、(イ)頭部の白斑、(ロ)旋毛、(ハ)肢部白斑、(二)その他の特徴、の順に記載するものとする。    2. 特徴の部位で何々部の部は記載しない。  
 
 

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