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サラブレッドのトレーニングは、経験と勘の世界で科学の導入は難しいという意見があります。わたしはその意見には反対です。世界に先がけて、世界一の強い馬づくりを行うには、経験と勘の世界に加えて科学を利用することが得策であると信じています。ここでは、強い馬づくりに役立つスポーツ科学の知識を紹介していこうと考えています。
競走馬のトレーニングにおいて、よく調教師が騎手に「今日は15-15で1周し、・・・・」という指示をしています。15-15とは、1ハロン(約200m)を15秒程度のスピードで走ることを意味しています。なぜ、ハロン15秒のスピードが競走馬のトレーニングにおいて多用されるのでしょうか。区切りのいい数字だからでしょうか。
■競走馬の血中乳酸とスピードの関係が分かった
1970年代、馬のスポーツ科学は15-15の意義を科学的に説明することができませんでした。ところが、1980年前後から、血液中の乳酸を簡単に測定できるようになり、この乳酸とスピードの関係から、馬の走行中の無酸素エネルギー供給状況が推定できるようになりました。1980年代の初め、「血を採ると馬は走らなくなる」ということで、わが国での現役競走馬の採血は難しくデータの蓄積はできませんでした。ところが、1980年代の半ばから世情も変わり、トレーニング過程にある育成馬や競走馬の血液が入手できるようになり、血中乳酸とスピードとの関係が明らかになりました。
その結果、図に示したような血中乳酸とスピードとの関係が明らかになりました。この図にはたくさんの情報が埋もれています。その一つは、競走馬ではハロン約15秒のスピードから血液中の乳酸が急に蓄積される(乳酸の除去より産生量が上まわる)ということです。これは何を意味しているのか。つまり、ハロン15秒までは、主に有酸素エネルギーで走るが、15秒を越えると、有酸素エネルギーに加えて多くの無酸素エネルギーを利用して走ることを意味しています。ハロン15秒のスピードは走るエネルギーの変換点であって、運動生理学的にみても非常に重要なスピードだったのです。
■実際の競走馬への応用
このデータから得られた情報は、実際のトレーニングにどのように応用できるのでしょうか。15-15のスピードの応用例を示すと、(1)酸素運搬系(呼吸器―心臓―血液―筋など)が目一杯に働いているので、持久力トレーニングに利用すると非常に効果的である。(2)急性の疲労が発現するので、新馬、長期休養馬、リハビリ中の馬(病気からの回復)など、その走りっぷりからレースへ向けての体力判定に利用できる。(3)このスピードを越えると乳酸がたくさん産生されるので、レース前のハロン15秒より速いウオーミングアップは、マイナス面が生じることに配慮すべきである。
■おわりに
この図に示したデータは、日本における若馬(JRA2歳3月ごろの育成馬)や競走馬の平均値であります。個々の競走馬ごとにトレーニング管理するためには、その馬の乳酸とスピードの関係を正確に知る必要があります。体力のある馬は14-14かも知れないし、体力のない馬は16-16かも知れない。経験に加えてこのような生理情報を利用すれば、トレーニング技術はより向上することでしょう。これは、経験的に得られた技術・知識を科学的に説明できた一例でした。
(競走馬総合研究所 久保勝義)

サラブレッド競走馬の血中乳酸とスピードとの関係
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