|
東京競馬場のコース改修によって、ゴール前の直線が500.4mから525.9mと約26m長くなりました。 26mというと、馬のストライドでおよそ3,5完歩であり、時間でわずか1.5秒前後のできごとです。鼻差を競うレースでは、騎手の乗りかたは変わるといいます。ここでは、ゴール前の馬のスポーツ科学的な知識を紹介します。
■まずストライド(完歩)とは
歩幅のことで、二本足では1歩、4本肢では一完歩といいます。スピード(m/秒)=ストライド(m)×ピッチ(回/秒)で、このストライドの大きさはスピードに大きく影響します。ゴール前1ハロンの完歩数は、多くは24-30完歩で、ストライドに換算すると、約8.3m-6.6mになります。疲労しバタバタになった馬のストライドは短くなり、30完歩近くを要しタイムは遅くなります。ゴール前1ハロンを25完歩で走り、1完歩が10cm短くなったとすると、25完歩×10cm=250cm
で2.5m、1馬身以上の差になります。(2400mを平均ストライド7,5mで走ると、320完歩を要します。何らかの理由で、1完歩が10cm短くなったとすると、320完歩×10cm=3200cm
で32mの差になります。)このストライドの伸びは、心・技・体(走る意欲、走行フォーム、筋力など)のほか、騎乗技術、レース直前のウオーミングアップなどにより影響を受け、ゴール前では、馬の疲労度に大きく左右されます。
■襲歩時の呼吸と完歩は同期している
「ゴール前、馬は呼吸を止めて走る」今でも、ホースマンの半数の人がこのことを信じています。これは誤りで、駈歩や襲歩時の馬は1完歩に1呼吸することが、多くの研究者によって約15年以上も前に証明されました。つまり、生理的に馬の呼吸数と完歩数は同期しているのです。実験をしなくても、冬の寒い日に疾走している馬を観察すると、白い吐く息と完歩数が完全に一致していることを誰でも確かめることができます。ちなみに、ゲートからのスタート直後には無呼吸になることがあり、これは総研の研究で確かめられています。
■ゴール前1ハロンの心拍数と乳酸は(2400mの場合)
心拍数や乳酸は2分余りのレースの中で刻々と変化します。馬の最大心拍数は220-230拍/分ですが、ゴール前1ハロンでは、どの馬も最大心拍数かそれに近い値になっています。また、乳酸値(無酸素エネルギーの産生、筋収縮の抑制にかかわりがある)は疲労程度によって大きく異なります。馬の最大乳酸濃度は、20-30mmol/lですが、ゴール1ハロン前で最大濃度に達している馬はバタバタになり、達していない馬のスピードは伸びる(あるいは維持)ことになります。その他、いろいろな変化が体の中には生じています。
■26m延長の影響は生理的には分からない
「26m延長の生理的影響」についてという質問がありましたが、直線部分が26m延びても総走距離は変わらず、こんな微妙な違いを現在のスポーツ科学レベルでは説明することはできないと私は考えています。
(競走馬総合研究所 久保勝義)
|