第7回 競走馬の高地トレーニングの可能性

サラブレッド競走馬に高地トレーニングは有効か
 
 
1960年のローマオリンピックのマラソンで、エチオピアのアベベ選手(標高2200mでトレーニング)が金メダルを取り、にわかに高地トレーニングへの関心が高まりました。現在ヒトのスポーツでは、マラソンなどの長距離選手の中に、高地でトレーニングを行って平地のレースに臨む選手が多くいます。この高地トレーニングは、1、000-4、000m(1-4分)の距離を走るサラブレッド競走馬にも有効なトレーニング法といえるのだろうか。
 
高地トレーニングとは
 
 
0mの平地では、気圧は760mmHgで、O2濃度は20.92%、酸素の分圧は159mmHgです。2、200mの高地では、気圧は582mmHg、酸素濃度は16.0%(平地に換算)、酸素の分圧は122mmHgとなります。つまり、高地トレーニングとは、低酸素下でのトレーニングなのです。
 
高地トレーニングの方法は
 
 高地トレーニングには3つの方法があります。@Living High-Training High:高地に住んで、高地でトレーニングする、ALiving Low-Training High:低地に住んで、高地でトレーニングする,BLiving High-Training Low:高地に住んで、低地でトレーニングする。現在、平地でもマスクを装着して低酸素を吸入したり、低酸素室や低酸素走路などを利用して、低酸素下でトレーニングできるようになりました。
 
低酸素下でのトレーニングと生理的適応
 
 
車で3,000m級の山に登り、いきなり歩き出すと、呼吸数や心拍数が増えた経験があります。これは低酸素に対する一時的な体の生理的適応です。高地に長期間滞在していると、骨髄の増血作用を促すエリスロポエチンの分泌→レティクロサイト(幼若赤血球)の増加→赤血球・ヘモグロビン・ヘマトクリット値の増加などの適応(順化)が起こり、最大酸素摂取量が増え、全身持久力がつくので、競技成績がよくなると考えられています。多くの人は、主にこの適応現象を期待して、高地トレーニングを行っています。
 
競走馬への高地(低酸素)トレーニングの応用
 

 
サラブレッドにもヒトと同じような適応現象が起きるかどうかはよく分かっていません。というのは、サラブレッドの赤血球系の機能は、ヒトと大きく異なっているからです。サラブレッドの赤血球数は約1000万/μ(ヒト:450万)と多く、運動時にはヘマトクリットが60-70%(ヒト40-50%)に達し濃い血液が血管を流れています。ヒトと比較し、サラブレッドは運動時に多量の赤血球を動員できる脾臓の優れた機能を持っています。一方では、濃い血液が流れると、血管抵抗が増え、走能力にはマイナス効果となります。このような機能の違いから、サラブレッドの高地トレーニングの効果は、ヒトと同じではないと疑問視する馬研究者もいます。
 
おわりに
 
 
低酸素トレーニングはサラブレッドの走能力の向上に有効かどうか、現在、この質問に誰も自信を持って答えられる人はいないように思います。「まず実践、そして理論」馬の低酸素トレーニングはやってみないとわからない面があります。さらに、かりに馬に低酸素トレーニングは効果あるとしても、「自然を利用した高地はよいが、低酸素馬房や低酸素走路などの利用はドーピングになるのではないか」という新たな論争が生じることも予想されます。

(競走馬総合研究所、久保勝義)


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