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● スターティング・ゲイト
日本の中央競馬では、発走時刻の3−4分前になるとスタート地点への集合合図がかかります。そして、スタート1,2分前になると赤旗とともにファンファーレがなり、ゲートインが始まります。このスターティング・ゲート内での馬の生理状態は、競走成績に微妙に影響すると予測されます。実際のレース時の生理機能を知りたくても、日本では競馬施行上、馬に検査器具を付けて調べることは不可能です。ここでは、スタート前1-2分間のスターティング・ゲート内においてどの程度、馬は興奮しているのか、心拍数を目安としたドイツでの貴重な研究成績を紹介します。
● 精神的緊張と心拍数
人のスポーツで試合前に、胸がドキドキし精神的に興奮することはよく知られています。馬も同じようにレース直前には精神的興奮状態にあると多くの人は想像しています。この興奮は交感神経の緊張によって生じます。交感神経が緊張すると、心拍数や心臓からの心拍出量が増加し、その他、気管支の拡大、血糖の増加、腸管の活動低下、排便、排尿の抑制など、運動し易い生理状態となります。
ゲート内での交感神経の緊張度は、主にスタートを予測することによって高まります。その他、ゲートに入る前のウオーミングアップ、ゲートへの慣れ、雨や風などの天候、フアンの歓声、周りの景色、隣りの馬、騎手との相性などさまざまな要因によって微妙に修飾されていると考えられます。
● 競走馬のゲート内での心拍数
ドイツでの研究:1973年にドイツのクリツバネックは、ドイツの4つの競馬場で3-8歳の19頭のサラブレッド競走馬(雄12頭、雌4頭、セン馬2頭、)を用いて、実際のレース時のスターティング・ゲート内での心拍数をテープ心電計で記録しました。その結果、ゲート内での心拍数は172―220拍/分の範囲(平均で193拍/分)であることが分かりました。最大心拍数のおよそ70-95%(安静時心拍数は30-35拍/分、最大心拍数は220-240拍/分)で、駈歩や襲歩をしている時の心拍数に相当していることが明らかになりました。
日本での研究:2003年に総研が競馬学校で行った模擬レースでの3-7歳サラブレッド(雄5頭、雌3頭)のゲート内での心拍数は167±23拍/分でした。ドイツの成績より、総研の成績は平均26拍/分ほど低い値を示しましたが、実際のレースと模擬レースとの差によるものかどうかは分かりません。
これらの研究から、スムーズにゲートインし外見から落ち着いたように見える馬でも、ゲート内では心臓は早鐘のように鼓動して、スタートダッシュに備えていることが明らかになりました。そして個々の馬の心拍数の反応には、50拍/分ぐらいの大きな個体差のあることも明らかになりました。
● おわりに

競走馬がスタートを予期して心拍数が増加する、これを予期心拍数(Anticipatory Heart Rate)と呼ぶ人もいます。これは駐立姿勢からいきなり全力疾走に移行するというスタート時の、合目的的な競走馬の生理反応であると私は考えます。興奮し過ぎると“入れ込んでいる”、興奮の程度が弱いと“気合が入っていない”といわれ、適度な興奮状態が良いと考えられています。適度な興奮状態とはなにか、この答えは今のところ科学の領域を越えた経験と勘の世界になります。ゲート内での心拍数と競走成績に関する研究報告はありません。
(競走馬総合研究所、久保勝義)
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