第11回 レース前のウオーミングアップ

ウオーミングアップはなぜ必要か
 
 
前号のスタートダッシュの話で、ウオーミングアップ(以下W-up)はスタートダッシュの良し悪しに影響する一要素であると述べました。レース前、すべての競走馬は何らかのW-upを行っています。W-upは(1)パフォーマンスを高める、(2)ケガを予防することを期待して行われています。W-upによって、(1)エネルギーの産生を良くする(心拍数の立上りや血液の動員を速める)、(2)関節の動きを良くする(ストライドを大きくする)、(3)集中力を高める(気合をいれる)などが期待されています。今回は、最近の馬のW-upについての研究を紹介します。
 
最近の海外におけるW-up研究の3題
 
Geor and McCutcheonら(アメリカ、2000年):
W-upにより酸素摂取量が増加

 
強いW-up群(7分間の速歩+45秒間の駈歩)、軽いW-up群(10分間の速歩)、W-upなしの3群に、W-up後に2分間のハイスピード走を負荷した結果、強いあるいは軽いW-up群の方が、W-upなし群より酸素摂取量が多くなることが分かりました。
McCutcheon and Georら(アメリカ、1999年):
W-upにより疲労にいたる時間が延長

 上記と同じ3つの群のW-up方法で、W-up後に疲労走(疲労困憊まで走らせる)をさせた結果、強いあるいは軽いW-up群の方が、W-upなし群より、有酸素系エネルギーの割合が増加し、無酸素系エネルギーの割合が減少し、疲労にいたる時間が延長することが分かりました。軽いW-upと強いW-up群の間には差は認めませんでした。
Tylerら(オーストラリア、1996年):
W-upにより酸素摂取量が増加する

 W-upあり群(5分間の常歩+5分間の速歩)とW-upなし群(2分間の常歩)に、W-up後に疲労走(疲労困憊まで走らせる)をさせた結果、酸素摂取量が増加することを分かりました。
 
日本のJRAにおける研究
 
JRAトレセン診療所(2001,2000年):
強過ぎるW-upはマイナス効果になる

 
(1)ハロン15秒(30秒間)+ハロン13秒(30秒間)、(2)ハロン17秒(30秒間)+ハロン14秒(30秒間)、(3)ハロン17秒で(30秒間)、(4)ハロン21秒(20秒間)の4群のW-upの効果を比較したところ、W-up後の1、400m走行での血中乳酸が(2)、(3)群より(1)と(4)群で高くなりました。W-upは強過ぎるとマイナス効果、弱過ぎると効果がないと推測されました。
総研(1996年):
W-upにより酸素摂取量が増加する

 (1)105%Vo
2max, (2)40%Vo2max, (3)W-upなしの3群のW-up効果を比較したところ、W-upなしより、(1)、(2)群の方が酸素摂取量は増加しました。疲労困憊まで走行させた成績は、(2)群が(1)群より走行距離が長い傾向にありました。(著者注:105%はハロン15秒ぐらいの駈歩、40%は軽い速歩ぐらい)
総研(1982,1983,1984,1985年):
ジャパンカップ出走馬の日本と外国馬のW―up調査

 日本と外国のW-up方法の主な違いは、外国の馬はハロン15秒より速いスピードでW-upを行わないが、日本の10数%の馬は行っているという成績でした。
 
 
おわりに
 
 
W-upに関しては、エネルギー産生を高めるという研究が多く、関節の可動性や心理的な気合に関する研究はありません。「野生動物であった馬にはW-upは必要ない」という先輩がいました。馬のとっさの動作に対する反応は速いからという理由でした。一連の研究結果からは、同じサラブレッドの比較でも、W-upした方が酸素摂取量が増えレースには有利になると推測されます。また、W-upを十分にしたが勝てなかったというトレーナーがいました。レース成績は、騎手や馬の心(気合)・技(走行フォーム)・体(スピードやスタミナ)や運・不運によって決まります。W-upは馬の心・技・体に影響する一要素に過ぎませんが、鼻差を競うレースには重要と私は考えています。

(競走馬総合研究所、久保勝義)


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