第14回 VHRmax(ブイ・ハート・レイト・マックス)とは

ディープインパクトのVHRmaxは大きい
 
 
「優駿」6月号の第72回日本ダービー特集において、ディープインパクトの皐月賞前のVHRmaxは16.0m/秒という記事がありました。このVHRmax(Velocity at maximal Heart Rate)とは、最大心拍数に達した時のスピードで、馬のスポーツ科学ではフィルドでの有酸素能力(持久的な走能力)の1指標として利用されています。最近、美浦や栗東トレセンにおいても競走馬のVHRmaxが測定されるようになり、データの集積が行われています。今回は、このVHRmaxの概略について解説します。
 
どのようにして測定するか
 
 徐々にスピードを増し最大心拍数が得られる追い切のような運動(漸増負荷運動)時に測定します。競走馬にはトレーニング中の走スピードと心拍数が同時に測定できるエクイパイロットを装着します。徐々にスピードを増していくと、心拍数は増加し、やがて最大心拍数に達します。そのときの走スピード(m/秒)がVHRmaxです。より正確に測定するには、同じ条件下(馬場、天候、騎手など)で最大心拍数の得られる運動方法などを工夫することが必要になります。
 
生理学的な意義は
 
 最大心拍数に達した馬の生理状態では、酸素を運ぶ心臓の働きは最大となり、肺や筋肉での酸素を取り込む能力もほぼ最大(最大酸素摂取量)に達しています。VHRmaxを越える、つまりそのスピードを越えるほど、無酸素性エネルギーの利用が多くなり馬の疲労の度合いは急に増します。トレセンや総研では、実際の競走馬のVHRmaxを測定して、トレーニング効果やコンディショニングの指標としての実用性を検討しているのです。
 
例えば、VHRmaxが16.0m/秒(A)と14.0m/秒(B)の意味
 
 秒速16.0mというのは、ハロンタイム12.5秒の速さに相当し、秒速14.0mはハロンタイム14.3秒の速さに相当します。つまり、およそ1ハロンをAは12.5秒でBは14.3秒の速さで走るような時に最大心拍数に達するだろうと推測されるのです。ダービーに出走する馬だったら、どの馬もスタート直後ハロン10秒台で走ることができます。しかし、2,000mを走ったあとでは、疲労の程度によって異なりますが、ゴール前のスピードはハロン11-12秒台にダウンします。
第72回日本ダービーの向う正面3ハロンでの先頭馬のペース配分は12.3秒/ハロンでした。仮に、向う正面をAもBも同じスピードで走っていたとすると、Bは無酸素性エネルギーをたくさん消費しながら、 Aは無酸素性エネルギーを少し消費しながら走っていたと想像されます。このことから、ゴール前の直線での追込みスピードはVHRmaxの小さいBより大きいAの伸びがよいだろうと想像できます。
 
おわりに
 
 
VHRmaxが大きいということは、有酸素性エネルギーを供給する機能が優れていることを意味しています。有酸素性エネルギーの供給能力が大きい馬がレースに必ず勝つとは限りません。つまり、マラソンにおいて心臓の一番大きな選手がいつも勝つとは限らないのと同じことです。勝つための必要条件であるが、十分条件ではないのです。レースの勝敗には、有酸素的能力の他に、無酸素性エネルギー産生能力などの他の生理機能、その日のその馬のコンディション、騎手のペース配分やレース展開のアヤなど、いろいろな要因が係わってきます。

(競走馬総合研究所、久保勝義)


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